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Ⅰ. 見知らぬ世界へ② 希望の人

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 君、転生者だな――


 ラファレウス校長は、わたしにそう問うた。


 転生者? どういうことだ。転生、だって?


 自分の問いにわたしが戸惑っていることに気付いてか、校長はさらに続ける。


「転生者とは、こことは別の世界からこの世界に来てしまった、転生した者のことだ。この世界には、まれにそういう者がいるのだ」


「なるほど……つまりわたしも、その、まれな人物のひとりとなってしまったわけですか」


「恐らく、な」


「しかし、なぜわたしは転生してしまったのでしょう?」


「決まっている。君が、我らの主たる天使に選ばれたからだ」


「……はい?」


校長は、さも当たり前のようにそう答えた。


 天使だって? そんなもの、いるはずがないだろう。オカルトだ。


 だが、いや、待て。ここは恐らく、わたしの元いた世界とは違うのだろう。ならば、本当なのか?


「君は転生したばかりで知らないだろうから教えよう。この世界はな――」


 そう言って校長は、わたしにこの世界について説明し始めた。


 まず、この世界には人間と魔物がいる。人間は崇高たる天使を信仰することでその加護を受けている(それが本当かどうかは別として)。そして天使の加護が全世界に満遍なく行き渡ったとき、この世界は千年間の安寧に包まれる、らしい。しかしながら、これを拒む愚か者がいる。それが、魔物だ。魔物たちは、天使と対局の存在である悪魔を崇拝し、悪魔による支配を全世界に行き渡らせることを目論んでいるそうだ。そして、それらを束ねる王は魔王と呼ばれている。また魔王は複数おり、つまり魔物による国家が複数あり、それら魔物の諸国を束ねる王は大魔王と呼ばれているそうだ。


 このことで人間と魔物は常に戦争している。現に今も、それは続いている。それが、この世界なのだそうだ。


 そして、まれに天使に選ばれた者がこの世界に転生してくる。その者は、他の者よりも遙かに優れた能力を有していることが多く、ことごとく人類側を優位にしてきたのだそうだ。そういった転生者は、終戦後に“勇者”と呼ばれ、未来へと語り継がれていく。


「それで、わたしはそういった、なにか特別な能力を持っているのでしょうか?」


わたしは校長の話を聞き終え、そう問うた。


「ああ、持っているさ。自覚はないだろうが、君は並々ならぬ魔力とそれを扱える素質を持っている。君はきっと、人類を勝利へと導く大魔道士となるだろう」


 大魔道士、か。この世界には魔術なんてものもあるんだったか。大気中にある魔粒子を操って、魔術を繰り出す者、それが魔道士。そのなかでも特に優秀な者が大魔道士と呼ばれる。


「昔は今よりももっと転生者がいた。だが、百年ほど前からその数はだんだん減っていったのだ。昔は十年で一人の割合だったのが、いまでは五十年に一人来るかもあやしい。これはきっと、有能な転生者を送り込んでもなかなか勝利できない我々に天使が失望しているのだ。我々が無能だから、戦争に勝ちきれない」


 わたしは沈黙する。


「君は、きっと人類の希望となる。だから……」


 校長は立ち上がり、わたしの横まで来ると跪き、言葉を絞り出すようにして、


「転生者、エミール・シュタインハルト殿、先ほどのわたくしめのご無礼をお赦しください。そして、無能な我らを勝利へとお導きください」


と、懇願した。


 なんということだろうか。地獄の街で薄汚いナチ公どもと激戦を繰り広げ、武運拙く戦死したかと思いきや見知らぬ世界に迷い込み、あげく人類の希望などとうたわれるとは。オカルトに熱心だといわれているナチス親衛隊(SS)長官も予想だにしないだろう。


「い、いや、校長殿、顔をあげてくだされ」


 とりあえずわたしは、校長に顔をあげさせる。いつまでも跪かれていてもこちらが困る。


「この世界の事情はわかりました。そこでひとつ、聞きたいことがあるのですが......」


「なんでしょう」


わたしは、今最も気になっていることをこの校長に聞いてみる。


「わたしは、元いた世界に、祖国に帰ることができるのでしょうか?」


「元いた世界に……ですか」


そう言ったきり、校長はしばし沈黙した。そして、答える。


「……ええ、戻れますよ。ただ、それには条件があります」


「なんでしょう?」


「それは……大魔王の首級を獲り、それを供物にして天使に祈りを捧げるのです」


「なるほど……」


 帰りたければ魔王を倒せ、ということか。なんて面倒な話だ。しかし、帰れるのなら祖国には帰りたい。帰って薄汚いファシストどもを駆逐せねばならない。同じ戦車に乗っていた戦友たちのことも気になる。それに、祖国には女房も、今年で三歳になるたった一人の娘もいる。特に娘には、一歳の誕生日以来会っていない。彼女にはどうにかして父の顔をその眼で見て欲しい。普通いるはずの父の顔を知らずにはいてほしくはない。


 どうやら人類の希望、とやらに、なるしかなさそうだ。


「……わかりました、校長殿。わたしが大魔王とやらの首級を獲ります。しかしわたしはこの世界に来たばかり、なにもわかりません。ですので、様々ご指導、お願いしますよ」


 わたしは校長に、そう答えた。その後に堅く手を握り、全身全霊の感謝を言われたのは予想通りだった。

お読みいただきありがとうございます。


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