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Ⅳ. 空を征せ② 射撃之名手

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 乗馬用戦闘服を着、ゴーグルを付け、天馬にまたがる。


 いま、わたしは天馬を用いた空中戦闘演習に参加している。この時間はいよいよ、天馬に乗って飛びながらの戦闘行為を行うそうだ。具体的に言えば、乗馬中の射撃、魔術攻撃、防御などなど。装備も前回から増え、その分重くなる。天馬騎兵の一般的な装備は回転式拳銃と騎兵銃、サーベルだ。この演習ではシュトゥルムフォア社――アルフレッド・シュトゥルムフォア氏が創設した、沙国の銃器製造会社――製、Strm53拳銃、同じくシュトゥルムフォア社製のS104カービン、訓練用サーベルを使用する。Strm53は六発装填の回転式拳銃、S104は五発クリップのS104歩兵銃を、銃身を短くし、馬上での取り回しをよくした騎兵銃だ。これらはいずれも今現在帝国軍で使用されているものであり、性能も変わらない。


 これらを抱え、わたしは天馬にまたがる。前回は単騎での飛行だったが、今回は四騎一組で行う。これも実戦を想定してのことだろう。わたしのグループは、わたしとエリシア、フィアモーレ、ヤコヴレフ。前の模擬戦からこの四人で行動することが多くなっているため、連携に関して特に問題は――エリシアとフィアモーレの仲に目をつむれば――無いだろうとわたしは思う。各グループはそれぞれ一人、リーダーを決めるのだが、その役はわたしが担っている(他三人に押しつけられた)。


「それじゃ、シュタインハルト隊、行くぞ」


 わたしは三人に合図し、一斉に走り出す。手綱を手前に引き、離陸。上昇して目標の標的気球を狙いに行く。標的気球の数は十五。


「各騎散開、各個撃破だ。わたしは正面の三つをやる。エリシアは右前方、ファイモーレは左前方、ヤコヴレフは右翼のを頼む。それらが片付いた奴は左翼のをやってくれ」


各騎にそう伝え、しっかり散開したのを確認すると、わたしは自分の目標に集中する。


 騎兵銃を構え、照準を気球に合わせる。と、そのとき、わたしは自分の体調に異変が生じるのを認めた。全速力で飛んでいるにも関わらず、異様に体感速度が遅い。それに、危ない薬をやっているわけでもないのに幻覚が見える。それは黄色く光る一本の線であり、よく見るとわたしの銃の先から伸びていた。わたしはその線の行く先を見やる。と、そこにはちょうど狙っていた気球があった。


 わたしははっとする。気がつくと、前方にあったはずの三つの気球がない。どこにいった? わたしは辺りを見回す。と、ちょうど後方、わたしが通ったであろうところの下方

に、落ちていく気球を発見した。数は三。


 わたしは誰かが撃墜したのかと思って他の騎を見回す。が、三騎とも、まだ各自の気球に射撃している最中であった。


 ということは、わたしが墜としたのか......?


 まるで訳がわからない。が、いくら考えたところで理解できそうにもないとわたしは感じたので、取り敢えず、まだ誰も取りかかってない残りの三個を狙いに行く。そして先ほどと同じように銃を構え、狙いを付ける。


 すると、またしても先ほどと同じような感覚に襲われた。体感速度が異常に低下し、幻覚が見えた。光の線が銃の先から伸びている。が、今回はそれが気球と繋がっていない。それに、少し、放物線を描いているようにも見える。そこでわたしは、あることに気付いた。


 この線、まさか――


 わたしは無意識に照準を合わせた。すると光の線がそれに連動して動き、気球と繋がった。わたしは引き金を引く。命中。気球に穴が開き、墜落していく。続けて一発、二発と照準を合わせ、射撃。全弾命中。と同時に、体感速度が元通りになる。


 わたしは、やはりかと思った。あの光の線は、恐らく、銃弾の弾道を表しているのだろう。そして光の線が目標にぶつかってるときに撃てば、弾丸は命中する。おおよそこんなところだろうか。


 この現象について、ある程度の理解はできた。が、まだ疑問は尽きない。なぜ今になってこのようなことが生じたのか? あれはなにかの術式なのか? わたしは術式を発動した覚えはない。となると、誰かがわたしに術式をかけたのか? もしそうなら、誰が? なんのために?


 などと考えているうちに、他の三人もすべて墜としたらしく、こちらに向かってきていた。


「エミール、こっちは終わったわ。なかなか馬上での射撃って難しいのに、よくあんなにポンポン当てられるわね」


と、エリシアが言う。


「あ、ああ、そうだな......」


「なにやら顔色が優れないようですが、具合でも悪いのですか?」


と、ヤコヴレフがわたしに訊く。


「そんな顔してたか? いや、大丈夫だ。なにも問題ないよ」



 演習が終わり、わたしは自室に戻ってきた。が、演習中のあの現象に関する疑問が頭から離れない。たまらずわたしは、ベッドでくつろいでいたエリシアに打ち明けた。


 わたしが話し終わると、エリシアはすぐに、


「それって、“権能”ってやつじゃないかしら?」


と言ってきた。


「権能?」


「そう。一部の人たちが持つ、特殊能力みたいなもののことよ」


「特殊能力……」


「ほら、前に話さなかった? わたしの権能、同種以外の心を読めるやつ」


「ああ、そういえば聞いたな、それ」


「そう、それ。話を聞いた感じだと、エミールの場合は射撃に特化したスキルじゃないかしら?」


ウゥム、とわたしはうなる。


「まああなたは転生者だし、権能の一つや二つくらいあっても不思議じゃないわね」


「そうなのか……」


「まあこれは誰しもが持ってるわけじゃないし、学科でもあまり触れないから知らないのも無理はないわね」


「フムン」


「ああ、そうだ。そういうスキルにはそれぞれ名前が付いているんだけど、わかる?」


「名前? いや全く。なにかそういうのを集めた辞書でもあるのか?」


「いや、ない。けど、スキルならその名前が自然と頭に浮かんでくるはずなのよ。ちょっとその権能に意識を集中してみて」


わたしはエリシアに言われたとおりにしてみる。


「権能に意識を集中、か。いや、なにも浮かばな――いや、まて」


「浮かんできた?」


わたしは、おぼろげながらに頭に思い浮かんだその言葉を言う。


「――射撃之名手」


なぜこんな言葉がでてきたのか、わたしにはわからない。が、射撃之名手というその言葉がいつまでも頭の中に居座り、離れない。


「……決まりね。あなたのそれは、れっきとしたスキルだわ。権能・射撃之名手。あなたの特殊能力よ」


「そうか、権能……か」


「ええ、そうよ。あなた、エミールのそれは、これからの戦闘で大いに役立つと思うわよ」


と、エリシアが言う。


 権能、一部の人だけが持つ特殊能力、か。まさかわたしにそんなものがあったとはな。射撃之名手、か。演習のときは百発百中だった。こんなのが前世でも欲しかったと、わたしは思う。

お読みいただきありがとうございます。


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