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Ⅳ. 空を征せ① 空を駆ける馬

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

我がドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)は頑強だ......今に我々がイギリスを屈服させる。どのくらいの期間が必要か――二、三週間か?

                           -ヘルマン・ゲーリング


 この世界には空を駆ける馬がいるのか――


 わたし、エミールは、演習場で教官の話を聞きながらそう関心していた。


 今日からの実技演習では、教官曰く、空を駆ける馬、“天馬”にまたがって空を飛び、空中戦の訓練を行うそうだ。


 その天馬という生物は、名前に馬があるとおり、確かに馬そのものであった。ただ一点、ふかふかの羽毛に覆われた、一対の巨大な羽を背中から生やしていることを除いて。


「この世界には空を飛ぶ馬がいるんだな」


わたしは小声で、隣のエリシアに言う。


「そんなに驚く? 普通にいるわよ。あなたの世界ではいなかったのかしら?」


「ああ、いなかったね。子供の絵本のなか以外では」


 その後は再び教官に注目し、説明を聞く。教官の説明を聞いた限りでは、天馬の乗り方はおおかた、羽のない、ノーマルな馬とさほど変わりはなかった。


 まずは天馬乗馬用の戦闘服に着替え、ゴーグルを付け、馬の落ち着き具合などを確認して安全性を確保する。それから馬にくずなや調教具を装着し、羽を避けて静かに馬にまたがる――手綱を持ち、右足をステアップし、左脚を超えて馬に乗る。また騎乗中は背筋を伸ばし、腰を柔らかく保ち、均等に体重をかけて馬とのバランスをとる、などなど。


 程なくして教官の説明が終わり、いよいよ実践に突入した。わたしとエリシアは馬小屋へ向かって自分に割り振られた馬を探す。それから馬を落ち着かせて手綱を引っ張り、演習場まで馬を連れ出す。ここまでは順調であった。それもそうだ、わたしは前の世界ではよく馬に乗っていたし、天馬とて羽があること以外は普通の馬と変わりない。扱い方には慣れている。


「さて、いよいよ馬を飛ばすわけだが......うまくいくといいがな」


「珍しく弱気ね、あなたにしては」


と、エリシアが言う。


「そりゃそうさ。馬にまたがって飛ぶんだぜ? コクピットがなければベルトもない。九十度もバンクした日にゃ真っ逆さまに落ちてしまいそうだ」


「大丈夫よ、両脚でちゃんと馬の身体を挟んでいれば。教官も言ってたでしょう?」


「まあ、そうだが……」


 などと話しながら、いよいよわたしたちの番が回ってきた。わたしはいままでの経験の通りに馬に乗り、馬の尻を鞭打って走らせる。ここまでは問題ない。


 それから手綱を手前に引くと、遂に天馬は羽を広げ、脚が地面から離れた。そのまま上昇し、校舎の屋根の全体が見えるほどの高度に達した。


 わたしは、飛んでいる。馬にまたがって。


 速度は普通の馬が走るスピードと大差はないようだ。若干天馬のほうがはやいか。


「ほら、ちゃんと飛べたじゃない」


と、横を飛ぶエリシアが言う。


「ああ、そうだな」


 風を切る感覚が気持ちいい。地上で馬に乗って疾走するときとはまた違う感覚。魔王を倒して帰ったら、娘にこのことを聞かせてやりたい。その頃には、もうおとぎ話を聞く歳ではなくなっているかもしれないが。


 それからわたしたちは、学校の敷地の上空を一周して離陸と同じ場所に着陸した。基本的な天馬の乗り方はおおかた身に付いたように思える。


「いい感じじゃない? さっきの弱音が嫌味に聞こえるくらいには」


「まあ、ちゃんと乗れてよかったよ。どんなに魔術の腕が立派でも天馬こいつに乗れなかったんじゃ大恥だ」


「そうね。――今日のこの演習の最後に、天馬で競走するそうよ。コースはさっき飛んだところと同じ」


「おいおい、急だな。今日乗ったばかりだというのに」


「まあ振り落とされない程度に頑張りましょうよ」


「はあ……そうだな」



 その後、本当に天馬レースが始まった。レースは四騎が同時に飛ぶ。わたしの相手はエリシアと、名も知らぬ二人であった。


 他のグループのレースの様子を観察しながら、順番待ちの列の前の人がどんどん減って行き、いよいよわたしたちの番になった。馬にまたがり、手綱をしっかりと握ってスタートのときを待つ。

 

 遂にレースがスタートした。教官が旗を振り下ろすと同時に、わたしは一気に馬を走らせる。そして手綱を手前に引き、離陸。ふと横を見ると、エリシアといい勝負だった。他二騎は見えない。おそらく出遅れたかで後方を追いかけているのだろう。


 エリシアと横並びのまま一つ目のカーブを曲がる。と、曲がり終えた瞬間、エリシアの馬の様子が変わった。明らかに先ほどよりも速いのだ。


 わたしは置いてかれまいと全力で馬を走らせる。が、差はいっこうに縮まらないどころか、どんどん開いていく。


「まさかあいつ、馬に神速術式でもかけたのか?」


 教官の話では、確かに馬に術式をかけるなとは言っていなかった。初回から馬に術式をかけて飛ばす奴はいないだろう、と、教官は思っていたがゆえにあえて言わなかったのだろう、とわたしは思う。だが、そんな奴がいま、ここにいる。


「わたしも、やるしかないか……」


 あいつに追いつくには、それしかない。それに、術式を使っているとはいえこのままあいつに圧勝されるのは悔しい。前の模擬戦で引き分けだった以上、ここで勝たれたら、あいつのことだ、間違いなく煽られる。


 などと考えつつ、わたしは自分の馬に神速術式をかける。その途端、何かに弾き飛ばされたように、馬ががくんと急加速。わたしは振り落とされないように、しっかりと両脚で馬の身体を挟み、手綱を握る。体感にして、先ほどの三倍は速度が出ていそうだ。


 速度は格段に上昇し、エリシアの背中を捉えることができた。が、差は思うように縮まらない。速度はこちらが速いようだが、僅差の範疇を出ないみたいだ。


 ならば――


 わたしはさらに魔力を流し込み、神速術式の効果を引き上げる。天馬、さらに加速。エリシアの背中がみるみる大きくなる。


 ここでわたしが追い上げているのに気付いたのか、エリシアも速度をあげた。差の縮み具合が再び小さくなる。


 ゴールはもうすぐそこだ。わたしは負けじと一層魔力を注ぎ込み、エリシアを追う。そしてエリシアの真横に舞い戻り、そのままゴール。速度を殺し、着陸する。


「今回はわたしの勝ちじゃないかしら?」


と、エリシアが言う。


「それは、どうだろうな」


 ゴール時はほとんど並んでいた。差などなかったように思える。どちらが勝ったのか、はたまた引き分けなのか、わたしは固唾を呑んで教官の結果発表を待つ。結果は四騎すべてがゴールしてからだ。が、残りの二騎がなかなか見えない。


「なあ、あの二人、まだ来ないのか?」


わたしはエリシアに言う。


「来ないわね……道草でも食っているのかしら」


「あのな……本来ならまだゴールするような時間じゃないんだぞ。お前らが速すぎるんだ」


と、教官が呆れ顔で言う。


 その後、ようやく残りの(本来ならこれが普通なのだが)二騎がゴールし、教官が結果を発表した。


 結果は、僅差でエリシアの勝利に終わった。曰く、ほんの僅かだが、エリシアの天馬の鼻が先にゴール地点を抜けたらしい。


 そして案の定、わたしを煽ってきたエリシアであった。

お読みいただきありがとうございます。


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