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Ⅲ. 吹雪の中の刺客④ 衝撃の事実

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 わたし、ニコライエフもといエミール・シュタインハルトはいま、大変混乱している。わたしだけではない。エリシアも同様だ。我々がなぜ混乱しているのか。それは約三十分前にさかのぼる。



 夜が明け、我々はおおよそ二時間ほど歩いてようやく目的地のロッジに到着した。


「ふう、ようやく着いたわね......」


と、エリシアが息切れしながら言う。


「ああ、そうだな」


「きっと最下位だけどね」


「ま、あんなことがあったんだ。仕方ないさ」


などと話しつつ、我々はロッジを囲む柵に近づき、ゲートをくぐる。そこでわたしは、自分の目を疑った。


「なあ、エリシア......」


「......なに?」


「他の班、いなくないか?」


 そうだ、他の班がまったくいないのだ。まさか、我々の到着があまりに遅いので帰ってしまったのか? いや、それならば、行きと帰りのルートは同じだ。すれ違う。だが、そのようなことは道中ではなかった。


 そのようなことを一生懸命思考しているうちに、聞き慣れた声が耳に届いた。


「おお、随分速かったな。さすがはうちのエリートが揃った班なだけはある。にしても想像以上だ。出発から四時間程度しか経っていないじゃないか。まあ疲れたろう。中で暖炉に火が付いてるから、入ってゆっくりしているがいい」


 座学の教官の声だ。先にゴールの方で待機していると言っていた。ロッジの扉のところでこちらに手を振っている。


「は? 速かったな、だ? 四時間しか経っていない? なにを言っているんだ......」


わたしは思わず言葉を漏らした。


「なあ、エリシア――」


「――.わかってる。とにかく、行ってみましょう」


「ああ、そうだな」


 訳がわからないが、我々はとりあえずロッジの中に入る。なかにはやはり、教官以外に誰もいなかった。


 その後すぐに、一番最初に出発した班が到着した。


「わたしたちは、他の班を追い抜いて一位でゴールした......のか?」


「......そのようね」


 それに、教官は出発から四時間しか経っていないと言った。ありえない。出発したのは早朝だ。四時間と言ったら、いまは出発した日の正午より少し前か。


 わたしはロッジの窓から身を乗り出すようにして太陽の位置を探る。


 太陽はおおよそ、真南より若干東にあった。やはりいまは正午前、午前十一時頃で間違いないらしい。


「エミール、敵は想像よりも強大よ」


エリシアがわたしに耳打ちする。


「ああ......そのようだ」



 あいつらはやられたか――


 わたしは、木っ端微塵になって散らばった肉片を眺めて呟く。


「まったく、せっかくわたしが手柄を立てさせてやろうと手配したというのに、使えない奴らだな……」


「だから言ったろ、兄さん。こんな小童どもにやらせんで、俺たちでやっちまえばよかったんだ」


「ああ……これはわたしのミスだ」


「まあ兄さんは部下思いだからな、ある意味、兄さんらしいと言うべきか」


「フン……」


「だが、それが足を引っ張るようじゃな。部下思いなのはいいが、一番大事なのは作戦の成功だぜ。そんなんだから、階級で弟の俺に抜かれちまうんだ」


「わかってるさ。……プランBだ。まだ手は残っている」


「本来なら階級が上の俺が指示するはずなんだがな。まあいいや。さっさと済ませて帰ろうぜ、兄さん。……今度は部下に手柄を立てさせる、なんて言うなよ?」


「まさか。同じ失敗を何度もしてたまるか。次で決めてやる」


「はいはい。それよりこの会話、あいつらに聞かれてないよな?」


「大丈夫だ。この、わたしとお前だけの精神回廊にはあいつらは干渉できない」


「そうだな。……しっかしこの女、俺に催眠術式をかけやがるとは。おかげで全く眠りから覚められねぇ」


「人間の女は勘が鋭いと聞いた」


「でもいくらなんでも、こりゃあ危険だぜ。なあ兄さん、こいつ殺しちまわねぇか? もう殆ど気付かれてるぜ?」


「いや、駄目だ。不用意な殺生は避けろ。無駄に騒ぎが大きくなっては任務遂行に支障をきたす」


「ったく、泣けるぜ」



 それから数日が経ち、夜も更けた頃にわたしは弟とプランBの実行を始めようとしていた。


「……やるぞ、弟よ」


「こんどは失敗しないでくれよ?」


「なんども言わせるな。もう部下には任せん。俺たちの手でやる」


「そもそも、もう部下なんていないけどな。みんなあの日に殺されちまった」


 嫌味な弟だ。一言言ってやろうと口を開き、わたしは戦慄した。


「部下を全員失った、か。それは不幸だったな。痛み入るよ」


「誰だ!?」


わたしはとっさに声がした方を向く。


「なんだ、誰だ、お前!」


わたしは恐る恐る聞く。見たことのない奴だった。人、ではなさそうだ。魔族か? そうだ、魔族だ。吸血鬼族だろう。


「君に名乗ってなにになる? どうせきみたちはいまからわたしに始末されるんだ。わたしの名前などもはやどうでもいいだろう」

お読みいただきありがとうございます。


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