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Ⅲ. 吹雪の中の刺客① 雪中行軍

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

君が今にも襲ってこようとするガラガラヘビを見たとき、君は「実際にガラガラヘビが襲ってくるまでは踏み潰すのを躊躇する」などということはしないだろう。

                      -フランクリン・D・ルーズベルト


 転生からあっという間に半年以上が過ぎ、季節は冬となっていた。毎日のように雪が降り積もり、そのたびに我々一年生は起床時間よりも早くたたき起こされ、火属性魔術の練習と称した演習場などの除雪・融雪作業をやらされた(聞いたところによると、これは毎年恒例のことらしい)。


 今日も今日とてわたしはエリシアとともに暗いなか外へ出、除雪作業に励んでいた。


「昨夜もまた随分と積もったな」


「そうね、毎朝やっても次の朝には元通りかそれ以上。いやになるわ」


などと駄弁りながら手を動かしているうちに作業が終わった。部屋に戻って着替え、食事をとり、一限目の講義場所に向かう。


 今日の一限目は座学でも実習でもなかった。第一講堂に一年生全員が集められている。なんでも来週の水曜日から二泊三日で雪山へ野外演習に行くらしく、その説明会だそうだ。

「ええ、入学当初に配布した年中行事表を見ればわかると思いますが、来週の水曜から金曜にかけて、君たち一年生は雪山へ野外演習に出ます。そこで、今日は来週に向けた説明と、準備を行います」


と、ステージ上で教官の一人が話す。


 その後の説明を要約すると、雪山演習の目的は実際の寒冷地での野営を想定した訓練だ。そこで実際にテントや結界を張ったり、炊事をしたりする。食料の自給もやるそうだ。結界は野営用の、広範囲に結界を張るための装置を使うらしく、それの実践演習も兼ねている。


「これまた面倒くさそうなのが来たわね。凍死したらどうするつもりかしら」


と、隣に座って話を聞いていたエリシアがぼやく。


「だが、必要なことだ。なに、わたしは雪山には慣れている。いざとなったらわたしに頼るといい」


「そう。だったら遠慮なく頼らせてもらうわね」


エリシアが満面の笑みでそう言う。なんだろう、すべて押しつけられそうな気がするのは気のせいだろうか。余計なことを言わなければよかったとわたしは思うが、もう手遅れだ。これが前世での極東のサムライたちのことわざ、「後悔先に立たず」というやつか。



 あれからわたしたちは様々な準備をし、遂に野外演習への出発当日をむかえていた。一同校舎に敬礼し、二列縦隊で雪山まで歩く。


 雪山では四人一組で行動する。わたしの班のメンバーは、わたしの他にエリシア、トラディトール、オペラティーノだ。班長はトラディトール。トラディトールは、現状、一年生で唯一闇属性魔術が扱え、オペラティーノは無属性魔術の偵察系術式に長ける。闇属性魔術には魔力吸収、魔力転送といった非常に便利な術式があり、また偵察系術式は食糧自給時、狩りを行う際に役に立つ。また二人とも成績は上位のほうで、それら抜きでも頼もしい。班員に恵まれたようだとわたしは思う。その旨をエリシアに話したところ、エリシアも同意した。


 一時間ほど歩いて雪山に到着。今日は山の麓の、やや平地が広がるところで野営する。わたしとトラディトールで簡易テントと結界を張り、エリシアとオペラティーノで食事の準備をする。


 テント張りの目標時間は三十分。その時間内に雪をどかし、テントを組まなければならない。悠長にはしてられない。


「シュタインハルト、火属性術式は得意か?」


トラディトールが聞く。


「ああ」


「なら君は除雪をやってくれ。おれはその間にテントを組む準備をする」


「了解」


 テントもすぐに組めるわけではない。部品を袋から取り出すのにも、大きい支柱などは時間がかかる。


 わたしはテント組立ての準備をトラディトールに任せ、すぐさま除雪作業に取りかかる。

 除雪の範囲は......そこそこ広いな。熱室結界で対象範囲を囲って一気に溶かしたいところだが、そうするとトラディトールたちまで一緒に干物にしてしまう。ならば――


 わたしは作業中のメンバー三人を見やり、彼らに熱耐性術式をかける。


「お、おい、シュタインハルト、俺たちに熱耐性なんてかけてなにする気だ? お前、まさか......」


トラディトールが叫ぶ。


「ああ、そのまさかだよ」


わたしはそう言うや否や熱室結界を発動。除雪範囲を結界で囲う。結界内の雪がみるみる溶けて水となり、それも五分と経たずにすべて蒸発した。除雪完了を確認し、わたしは結界を解く。あとに残ったのは、乾いた土の大地だけだった。


 向こうから準備作業を放り投げてトラディトールが走ってきて、言う。


「お前、いくらなんでも速すぎだろ。まだ準備終わってねえよ」


「ははは、それは悪かった」


「まったく、伊達に成績一位をとっていないな」


 成績一位、か。これも転生者の特権のおかげかと思うと、素直には喜べない。自分は他と比べてたいした努力をしていないのだから。


「お前、一体どんなことやってりゃそんなになれるんだ?」


「ええ、まあ、そうだな。小さいときに特訓されたんだ。親父がそれなりに魔術がうまかったもんで、自慢の息子をおれよりすごい魔道士にしてやるんだ、なんて」


「なるほどなあ」

お読みいただきありがとうございます。


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