Ⅱ. 異世界・夏⑤ 新たな仲間
毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定
白熱した決勝戦から一夜明け、わたしたちは二週間ほどの夏期休暇を迎えた。休暇の使い方は人それぞれで、実家に帰省する者もいれば寮でのんびり過ごす者も、休暇だろうが自主的に訓練をする者もいる。そんななか、わたしは帰る家などないので、同じく残るエリシアと寮でまったり過ごすことにした。
「あーあ、引き分けかぁ......」
と、エリシア。朝起き、開口一番がそれかとわたしは思う。
「まだ言ってるのか、それ」
「そりゃあ、ねえ。どうせやるなら白黒付けたいじゃない。なかなか同期と戦う機会なんてないし」
「まあ、それもそうだな」
などとのんびり駄弁っていると、誰かが部屋のドアをコンコンとノックした。
「ん、誰だ? はいはい、今出ますよ」
そう言ってドアを開けると、そこにはフィアモーレと、確かヤコヴレフだったか、が立っていた。
「おはよう、エミール。突然なんだけど、町のカフェに行かないかしら?」
と、フィアモーレが言う。
彼女にそう言われ、返答する前にエリシアがわたしを押しのけ、ドアを思い切り閉めてしまった。
「お、おいエリシア、いきなりなにするんだよ......」
「開けっぱなしにしておくと<害虫>が入ってくるから閉めたのよ」
「害虫って......」
わたしはエリシアの言葉に呆れつつ、再びドアを開けて言う。
「いや失礼。うちのエリシアが悪いことをした。――で、なんだったっけ?」
「いえいえ。――俺たちとカフェにでも行きませんか? お二人、朝食まだでしょう? それに、あなた方と一度話してみたかったので」
「ああ、それなら構わんよ。さっそく準備しよう。――エリシアはどうだ、来るか?」
「ヤコヴレフ君、一つ訊くけど、その女とエミールが二人きりで行くわけじゃないのよね?」
と、エリシアは鬼のような形相でヤコヴレフに問う。
「え、ええ、もちろんですよ。わたしも行きます。お二人と話してみたかったですから」
「そう。――わたしも行くわ。準備するから待ってなさい」
その後は部屋着から着替え、鞄と財布を持って町中のカフェにやってきた。まだ朝っぱらということもあってかあまり客はおらず、待たされることなく席に着くことができた。
それで、と、わたしは言う。
「なんでわたしたちなんかに興味を持ったんだ?」
「いやいや、わたしたちなんか、だなんて。お二人、もう相当な有名人ですよ」
と、ヤコヴレフ。
「そうなのか?」
わたしは三人に訊く。
「まあ、アリーナの結界にひびが入ったことなんて過去に一度もなかったそうだし。それでなくてもあんな戦いを見せられたら、当然よ」
今度はフィアモーレが答える。
「あれはもう、異次元のバトルでしたよ。なにが起きているのか、まったくわからなかった。お二人、なにをどうしたらあそこまでなるんですか?」
「ウム、なにをどうと言われてもな......」
「右に同じ」
そのようなことを話しているうちに注文していたものが届いた。わたしとエリシアはクロワッサンに夏野菜のサラダとチキンブロス、ヤコヴレフはハムパンとベーコン、紅茶、フィアモーレはトーストにペイストリー、野菜サラダ。
わたしたちは朝食を頬張りつつ、会話を続ける。
「そういえば、準決勝のときのあなたの剣は見事だったわね。やっぱり父君とかに特訓されたのかしら?」
今度はエリシアがヤコヴレフに質問する。
「ええ、そうですね。物心ついたときにはもう剣を握っていたと思います。かなり厳しかったですよ。まあでも、そのおかげで今の俺がありますから、嫌だったとは思っていません」
「それはわかるよ、ヤコヴレフ。わたしも似たような経験がある」
「エミールさんもやはり、厳しい特訓をされてきたんですか?」
「まあ、魔術とは関係ないことだがね」
これ以上は完全に前世の話になるので、残念ながら言うことはできない。
「なるほど。――まあ、ですから、剣の腕じゃ誰にも負けませんよ」
「確かに、あなたの剣さばきには焦ったわ」
「剣を壊されてからは俺が焦りまくりでしたがね。というか、俺のときと決勝戦のときで大分動きに差があったように思うんですが、俺のときは全力ではなかったなんてことって、あります?」
「さあ、どうかしらね?」
と、いたずらっぽい笑みを浮かべてエリシアが言う。
わたしはふと気になったことをヤコヴレフに訊いてみる。
「だが、剣はもう時代遅れになりつつある。そんななかで大丈夫なのか? いや、からかうつもりで言ったんじゃないんだ」
ヤコヴレフはしばしの沈黙の後に、
「そうですね。いつまでも剣の腕に頼ってばかりではいけないと思います。なので、いまは剣術と合わせて銃術とか、魔術とかの訓練を重点的にやっています。もちろん、剣術のも欠かせませんが」
と、応えた。
「まあ一昔前の一発ずつしか込められないライフルならまだしも、今じゃ五発クリップで装填とかがメジャーになってきたからね。昔より格段に速射性も、精度も上がってる」
と、フィアモーレ。
「ええ。次に戦争が起きたら、もう父上の武勇伝は再現できないでしょうね」
そのような会話を交わし、四人は次第に行動を共にするようになっていった。
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