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Ⅱ. 異世界・夏③ 剣士

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 準々決勝で勝利し、エリシアは準決勝進出を果たした。そしてその準決勝がいま、幕を開けようとしている。


「エミールはもう決勝進出......あとはわたしがこれに勝てば――」


そう声に出して自分を鼓舞しつつ、エリシアは相手のほうを見やる。


 準決勝のエリシアの相手は、ミハイル・ヤコヴレフ。名門剣術家一族の長子であり、一族の名に恥じぬ剣術を会得している。また彼は容姿も端麗であり、碧眼で、美しく長い鈍色の髪をなびかせながら披露する剣さばきに魅了される女性は数知れず。


 現状、銃の登場と進化によって、戦場における剣の出番は減少の一途をたどっている。が、そのような状況下であっても、彼の、一族の剣術はまだまだ現役を保っている。実際に彼の父君は先の兵香戦争において、最新鋭の魔導銃を装備した香国軍のゴブリン小隊を相手に単騎で、かつ無傷で斬り伏せたという武勇伝を持っている。普通に考えればそのようなことは、まずあり得ない。が、それを可能にしているのが、彼らのもう一つの特技、魔術である。つまり、彼らは卓越した剣術と、これまた卓越した魔術を融合させることで、銃にも打ち勝つ戦闘をすることができるのである。



 審判の号令で試合開始。


 先攻はヤコヴレフ。開始と同時に抜刀し、自身に神速術式をかけてエリシアに肉薄する。エリシアはとっさに回避。彼との接近戦は危険だ。が、ヤコヴレフの動きが速い。すぐにエリシアの回避した先に突進し、剣を振るう。回避はもはや間に合わない。そう判断し、エリシアは同じく抜刀して彼の剣を受ける。ヤコヴレフは防御されるやいなやエリシアの背後に飛び、再度斬りつける。エリシア、氷壁を背後に展開し、間一髪で防御。と同時に、自身に神速術式をかけ、一気にヤコヴレフと距離を取る。


 勝負は拮抗状態。ややエリシアが劣勢か。というのもヤコヴレフ、接近戦になれば魔術を織り交ぜた自慢の剣術がうなりをあげるのだが、遠距離戦になれば打って変わり、魔術主体の戦闘をこなすのである。この隙のない戦い方に、エリシアはどうしても防戦を強いられていた。


「この状況、ちょっとまずいわね......」


エリシアは思わず呟く。


「せめて剣を封じられれば......そうだ!」


ここで、エリシアがある作戦をひらめいた。


「成功するかはわからないけど、やるしかないわね」


そう言うと、エリシアはひらめいた作戦を実行に移した。


 エリシアはそれまでの戦い方を一変させ、抜刀しつつヤコヴレフに急接近する。むろんそのようなことをすれば、ヤコヴレフは得意の剣でエリシアを攻撃する。ヤコヴレフの剣がエリシアに当たるその直前、エリシアは事前に詠唱を開始していた、術式・露潤沫撃を発動。彼の剣を超高密度の霧で包み込む。彼の剣はエリシアの術式などお構いなしにそのままの軌道をえがく。エリシア、剣で防御。両者の剣がぶつかったその瞬間、なんということであろうか、ヤコヴレフの剣がボロボロと崩れ、塵となって風に飛ばされてしまった。


 これこそが、エリシアの思いついた作戦であった。剣は金属でできている。であるならばもちろん、錆びる。本来の、騎士団で採用されている剣は少しでも錆びにくいような工夫が施されているが、いまの、模擬戦に使われている剣はそうではない。正規の剣と違い、切れ味は最悪で、錆びやすい。その性質をエリシアは利用したのである。彼の剣に瞬間的に霧を噴射することで剣の腐食を大幅に促し、その状態で剣と剣がぶつかることで、腐食が進んだ彼の剣はその衝撃に耐えられずに崩壊する。エリシアのこの作戦は大成功で、結果、彼は剣を失った。


 ヤコヴレフは突然の出来事に理解が追いつかず、目を点にする。その隙をついてエリシア、剣を持っていない左手から氷弾を発射。完全に隙を突かれたゼロ距離射撃にヤコヴレフは回避できず、命中。


「くそっ、決まらないか――」


エリシアの放った氷弾は確かにヤコヴレフに命中した。が、それが決定打にはならなかった。


「命中箇所にとっさに氷壁を展開して防御......さすが、準決勝まであがってきただけはあるわね」


エリシアは彼の、とっさの防御反応に感心する。が、相手の得意の剣は無力化した。あとは純粋な魔術対決だ。


 もっとも、剣を封印したからといって、自分が圧倒的優勢となった訳ではない。相手は剣の腕は確かだが、魔術の腕もなかなかだ。そうエリシアは自分に言い聞かせ、改めて気を引き締める。


 エリシアはすぐさま距離をとり、遠距離からヤコヴレフに追撃を仕掛ける。術式・緑浸透之波紋を発動。攻撃は成功。変幻自在の木の枝でヤコヴレフを拘束する。続けて水属性術式を放とうとするが、その前にヤコヴレフが炎の剣を召喚し、枝を焼き切って脱出する。そして、火属性術式でエリシアを攻撃。


「初戦と同じ手は通用しないか......」


しかし、と、エリシアはヤコヴレフの攻撃をいなしながら思う。相手はさっきから火属性術式を多用している。ならば、水属性術式が得意なわたしは属性の相性が最高だ。


 エリシアは術式・氷弾を発動。ヤコヴレフの火属性の弾幕を打ち消し、反撃。属性不利と判断したヤコヴレフは射撃を止め、右手に炎の剣を握りしめ、エリシアの氷の弾幕を避けつつ彼女に肉薄する。エリシアも彼のその動きを認めると、射撃を止め、氷の剣を召喚して真っ向から相手をする。ヤコヴレフ、エリシアの直前でジャンプ、彼女の背後に回り込む。エリシア、振り向きざまに剣を振り、ヤコヴレフの剣を受け止める。属性的に不利な炎の剣は消失。ヤコヴレフが再び距離をとろうとする。が、それよりもはやくエリシアが再度、術式・緑浸透之波紋を発動。ヤコヴレフを捕らえる。そしてゼロ距離で術式・水流砲を発動。ヤコヴレフは避けきれず、もろに食らってアリーナの端まで吹っ飛ばされ、降参する。


 エリシア、決勝進出。

お読みいただきありがとうございます。


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