ツグミン 〜愛の島〜
「ゆっくりグレンバーンよ」
「ゆっくりオーシャンだよ〜」
そうやって自己紹介した閃光少女のグレンバーンとアケボノオーシャンであったが、グレンはさっそく首をひねった。
「ねえ、オーシャン?なんなの、この自己紹介?ゆっくりって何?」
「まあまあ、細かいことは気にしない。ゲーム実況をする時の儀式みたいなものさ」
そう、グレンは今日、オーシャンからゲーム実況に誘われたのだ。当初、グレンはかなり、嫌がった。しかし、ライブ配信ではなく、録画した映像に編集を加えること。さらに、食事を奢る事をオーシャンが約束したことで、やっと彼女を説得したのである。
「これは実験さ」
とオーシャン。
「将来、きっとゲーム実況で稼げる時が来るよ。そうしたら、魔法少女たちの次なる就職先にゲーマーの道が開けるようになる。もしそうなれば、今よりずっと人でなしに堕ちる魔法少女が少なくなるよ」
「それは、まあ、そうなのかしら……?」
純朴なグレンは、その言葉にうまく乗せられた。そして、現在に至る。
「それで、今日は何のゲームをするの?またマリサカート?それともグレネードファイター2?」
「今日はこれ」
オーシャンはCDケースを取り出す。タイトルはこう書かれていた。
「ツグミン」
「ツグミン?」
「とある無人島に漂着した主人公が、ふしぎな原生生物ツグミンと協力して島から脱出するゲームだよ」
「ねえ、なんだかすごく特定個人の名前に近しいのだけれど」
「偶然だよ」
「それに、これ一人用のゲームじゃない」
「今回はグレンにプレイしてもらって、私は横から助言するのだ」
そう言ってオーシャンはほくそ笑んだ。グレンの初々しいリアクションは、きっと視聴者に好評のはずだ。
「それじゃあ、とにかくゲームを始めるわ」
主人公に『アキコ』と命名したグレンは、ゲームをスタートさせた。
世界中を船で冒険している『アキコ』
彼女が乗る船が嵐にあって沈没する
流れ着いた無人島でアキコが発見したのは
不思議な原生生物ツグミンであった
はたしてアキコは無事に島から脱出することができるのであろうか……?
「で、どうすればいいのかしら?」
そんなグレンの気持ちを代弁するように、『アキコ』がグルグルと砂浜に足跡を刻む。
「まずは最初のツグミンを見つけに行くんだよ。……あ!」
「あら、足が生えたキノコみたいなのが出てきたわ」
「グレン逃げて!アーッ!」
キノコのような怪生物に果敢に挑んだアキコは、あっけなく力尽きてしまった。ゲームオーバーである。
「えーっ!なんでー!?」
「それはこっちのセリフだよグレン!なんで敵に突っ込んで行っちゃうの!?」
「あのくらいの敵、殴り◯せないわけぇ!?」
「グレン!◯すなんて配信じゃNGワードだよ!グレンとゲームのキャラは違うの!」
「困ったわねぇ、思ったよりゲーム世界のアタシって弱いみたい」
「だからツグミンの力を借りるのさ。リスタートしよう」
世界中を船で冒険している『アキコ』
彼女が乗る船が嵐にあって沈没する
流れ着いた無人島でアキコが発見したのは
不思議な原生生物ツグミンであった
はたしてアキコは無事に島から脱出することができるのであろうか……?
「自分の手で敵をぶっこ……倒せないのはイライラするわね〜」
「そう、その調子!とにかく今は敵を避けて進むんだ」
画面内のアキコは、足の生えたキノコや、背中に羽のついた亀をかわしながら砂浜を探索した。やがて、アキコは静かな林へと足を踏み入れる。
「あ!あれがツグミンね!そうでしょ!?」
そうグレンが言った通り、ふわふわの土の中で、何かが呼吸している。緑色の草のようなものが、まるで人間の髪の毛のように露出していた。
「あ、顔が……」
アキコが近づくと、白い丸顔に、つぶらな瞳をしたそれが頭を出した。ツグミンは、不思議そうな顔をしてアキコをじっと見上げている。グレンは思わず吹き出した。
「んふっ!w」
「どうしたの?w」
「だって、だって」
アキコはツグミンの周りをグルグルと回った。そんなアキコを、ツグミンが目で追っているのだ。それがグレンの母性本能を刺激しているらしい。
「ツグミンは仲間になりたそうにこっちを見ている……引き抜きますか?」
オーシャンの問いに、グレンは頷いた。
「もちろん。そうしないとゲームが進まないんでしょ?」
アキコはついに(グレンがボタンを押したので)ツグミンを引き抜いた。土からポコンと飛び出したのは、黒い葉っぱのドレスを纏う、小さな手足のついた生物。
「おめでとう!初めてツグミンをゲットしたよ!」
「アタシの……初めてのベイビー……!」
「え?」
この時のオーシャンは、グレンの言葉の意味と、それによって引き起こされる事態など、なにもわからなかった。
キャラクター紹介
グレンバーン/鷲田アカネ:たぶん日常編で一番キャラが崩壊している。ゲーム経験はスーパーファミコン止まり。
アケボノオーシャン/和泉オトハ:スーパーマリ◯カートを「目に悪そうだから」と母親に返品されたのを少し根に持っている。後で自分で買い戻し、64版よりも長くプレイしている。
後編へ続く