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風鳴荘へようこそ!  作者: かな
1/1

子どもたちの物語。

少し話をしよう、今日が終わるその前に。


Interlude


ここは風鳴荘。何かしらの理由で親と別離した子供たちが生活するいわば「ルームシェアハウス」である。僕はここで管理人をしている。


アパート方式になっていて、各自1部屋宛てがわれている。しかし3食は必ず全員で食べなければならない。風鳴荘が始まった時の決まり事らしい。


今、この風鳴荘には16人の子どもたちが住んでいる。下は小学一年生から上は高校三年生まで。友人や恋人を連れ込むのも自由だ。


「お、元貴。彼女か?」


風鳴荘の前をほうきで掃いていると、住人の1人、須山元貴が女の子を連れてきていた。


「ちげーよ!同級生!ただの!」

「こんにちわ、和田くるみです。」

「こんにちわ。礼儀正しいね。」

「ありがとうございます。」

「行くぞくるみ」


そう言って元貴はくるみちゃんを連れて自分の部屋へと帰って行った。


「春だねぇ。」


しばらく掃除していると、小学生組が帰ってきた。


「ただいまー!」

「お、蓮早いな。宿題と復習忘れずにな。」

「はーい。その前に明日香ちゃんち行ってくる!」

「変な人に付いてくなよー」

「はーい!」


掃除が終わり、コーヒーを煎れて休憩していると、小学四年生の賢人が食堂に入ってきた。


「お兄ちゃん、遠足があって同意書が必要なんだけど…」


おずおずと同意書を差し出してくる。俺はペンを持ち、賢人に伝えた。


「こういう同意書は書くから、自信もって持ってきなさい。書かないってことはないから。おずおずと持ってこなくていいんだよ。」

「うん。ありがと。」

「よし、いい子だ。復習はしたか?」

「終わった。」

「よし、じゃあ好きなことしてなさい。今日の夕飯は麻婆豆腐だ。」

「やった!」


賢人は両親から虐待されて育ち、小学一年生の時に風鳴荘へやってきた。最初は警戒していたが、お兄ちゃんお姉ちゃんのおかげで、徐々に心を開くようになってきたのだ。



「明斗、今日の夕飯の買い出しは?」

「あ、忘れてた…。麻婆豆腐だっけ。」

「そうよ。」

「買い出し忘れてたわー。行ってくる。」

「頼むわよ。」


俺の姉で、家事ならびに家事並びに女の子担当の朱里。食事の準備や洗濯などを手伝ってくれている。


車に乗りスーパーへ向かう。16人分の食料調達は大変だ。


「えっと……挽肉と豆腐と……クックドゥ。10箱。あ、12にしとくか……。高校生組がよく食べるからな。」

「あ、挽肉安いじゃん。冷凍しておけるし、ちょっと多めに買っておこう。明日はハンバーグだ。」


会計を終え、商品をエコバックに詰めていると、高校生組の幸樹から連絡が入った。


「もしもし?」

「あー、あきにぃ?今駅前なんだけど、チャリパンクしちゃってさ。迎えに来てくれる?」

「タクシーじゃねぇっつうの。まぁいいや。駅前ね。今行くわ。」


荷物を車に詰め、駅前へと向かう。大家の仕事は大変なのだ。



1部屋目 大久保海斗の場合


「海斗ー、起きろー。朝だぞー。」

「まだ……寝かせて……」

「学校だからダメでーす。ほら、朝メシ出来てるから。海斗の大好きな白菜の漬物もあるよ。」


しぶしぶ布団から出る。あくびをしながらカレンダーを見ると、花丸が書いてあった。


……あぁ、あの日から3年か。


俺はいわゆる統合失調症と診断され、親に捨てられた。親は完璧主義者なので、そういう病気が許せなかったのだろう。今でも治療を受けている。


雨に濡れてうずくまっていた俺を助けてくれたのが、明斗兄さんだった。


「…お前、大丈夫か?」

「……」

「とりあえずうち来いよ。風呂入れてやっから」


車に乗せられる。傍から見たら誘拐だ。


明斗兄さんの家に着くと、小さい子から大きな大人までたくさんの人がいた。


「みんな事情があってうちにいるんだよ。とりあえず風呂入ってこい。事情はそれから聞いてやる。服は…賢人のを借りるか。ほれ。」


程よく温まった浴室に入り、湯に浸かる。


涙が出た。泣いて泣いて泣きまくった。これから俺はどうなるんだろう。不安でしょうがない。


風呂から出ると、明斗兄さんがドライヤーを構えて待っていた。


「髪乾かしてやるよ。おいで。」


すとん、と椅子に座ると明斗兄さんがドライヤーを掛けてくれた。


「名前は?」

「…大久保海斗、12歳」

「12歳か。中1?」

「…はい。」

「敬語使わなくていいよ。あそこにいたってことはなんか事情があるんだって察したし。良ければうちに住みなよ。手続きはするからさ。」

「…僕は」

「ん?」


これまでに起きたこと全てを、明斗兄さんに話した。もちろん自分が統合失調症だってことも。


「そうか、じゃあ尚更うちに住まなきゃな。うちなら手厚い保護が受けられるし、病院にも連れてってやれるからな。」


その日のうちに、風鳴荘への入居が決まった。それから3年も経つのだ。


「もうあれから3年か…」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、別に。」

「あ、そうだ薬飲め薬。忘れるから。」

「あ、忘れてた。」

「服薬管理も重要な仕事だからなー。ほれ。」


そう言って明斗兄さんが薬を4つ渡す。俺はそれを飲み下した。


「あと水薬な。」

「あれ、苦いから嫌なんだよなー。」

「治療のためだから。」


コップ一杯のオレンジジュースに混ぜた薬を一気に飲み干す。


「やっぱ苦い…」

「よし朝ごはんだ。」

「海斗兄ぃおはよー!」

「おー、蓮おはよ。」


自分の席に座る。今日の朝は和食だ。


「じゃあ、いただきます!」

「いただきます!」


朝食を食べ終わったあと、支度をして学校へ行く支度をする。


「海斗今日病院だからなー。忘れんなよ。」

「あっべ、忘れてたわ。」

「16:00からだから15:30頃迎えに行くわ。」

「ありがと。よろしく。」


自転車に跨る。今日は暖かくていい日だ。


「おっす海斗おはよー。」


学校に着くと、クラスメイトの瑠衣が話しかけてきた。


「瑠衣おはよ。今日の数学の宿題やった?」

「やったよ。」

「写させて欲しいなー…なんて…」

「Aランチ奢りで許可するけど」

「高っか。」

「じゃあ写させない。」

「わかった。Aランチで手を打とう。」


俺が通う学校はいわゆる進学校で文系コースと理系コースで分かれている。俺と瑠衣は理系コースに進学したのだ。


「今日の化学、有機化合物の反応だっけ。有機苦手なんだよなぁ。」

「有機なんて薬学部に必要な知識じゃん。ここで克服しとかないと。」

「まぁなぁ…」


そう。俺は薬学部志望なのだ。明斗兄さんや朱里姉さんに迷惑を掛けないよう国立に進学する予定だ。


「1限選択理科か。俺生物だからここで。」

「おー、じゃー後でな。」


化学実験室へと向かう。そこで、1人の女の子と出会った。


「あれ、海斗くんじゃん。」


同じクラスの畠山優菜。化学で唯一の同じクラスだ。


「宿題やった?」

「やったけどギブした。とりあえず最後までは解いたけど合ってるかどうかだなぁ。」

「今回の宿題難しかったよね。あ、先行くね。」

「おー。」


その時、なんとなく胸がざわざわした。ポケットの中の頓服の水薬を飲む。


授業自体はすんなりと終わり、自分のクラスへと戻る。すると、畠山優菜が近づいてきた。


「何?どした?」

「…これ。」

「チョコ?何で…………あー、なるほど。」

「受け取ってください!」


畠山優菜はクラスのアイドルだ。そんな彼女がどうして俺なんかに?


「入学した時から好きでしたっ。付き合ってください!」

「ヒュー!優菜やるじゃん!」

「海斗後で殺す……」


「え、あー、こんな俺でよければよろしくお願いします。」


クラス中が拍手喝采である。優菜は顔を真っ赤にしていた。


次の授業は数学IAである。担任の森野がクラスの浮ついた雰囲気にきょとんとしていた。


昼の時間である。瑠衣と共に食堂へ行く。


「あ、今日Aランチ油淋鶏なんだ。よろしくね、海斗。」

「……しゃーねーな。Aランチ2つお願いします。」

「ごちです!」


話題は今日の優菜の告白についてだった。


「いやー、優菜ちゃん頑張ったなー。衆人環視の中、よく告白できたもんだ。」

「めちゃめちゃ恥ずかしかったけどな。」

「それは優菜ちゃんも一緒だろ。」


あっという間に完食した瑠衣は杏仁豆腐に手を付ける。


「それにしてもクラスのアイドルからチョコ貰うとかなー。クラス中の男子から標的にされるぞ。」


リプトンのミルクティーを飲みながら、瑠衣が茶化してくる。俺はキャベツを食べながらそれに応えた。


「だいたい何で俺なのかねー…。もっと似合う人いるだろうに。」

「(こいつの無自覚なとこたまに腹に立つな)」


食事を終え教室へ向かう。階段を登っていると優菜がいた。


「あれ、優菜?ここで何してんの?」

「あ、海斗くん。一人になりたい時はここで音楽聞きながら、リプトン飲むんだ。」

「そうなんだ。あと、チョコサンキューな。美味しく頂きました。」

「う、うん!」

「ねぇ、俺帰っていい?」

「あ、すまんすまん。じゃあまた後で。」

「うん、バイバイ。」


瑠衣が俺を抓る。痛い。


英語Iを終えて、その日は終了である。


「海斗ー、マック行こうぜー。」

「あー、悪い。俺今日病院の日なんだわ。」

「そっか、じゃあまた明日。」

「おー。」


校門に着くとワゴン車が止まっていた。


「お疲れ。」

「明斗兄さんありがとう。」

「いいってことよ。そら行くどー。」


病院。風鳴荘の子どもたちが通うかかりつけの児童精神科である。


「どう、調子は?」

「まぁ…いつもと変わらずです。頓服の水薬は欠かせないですけど。」

「じゃあmg数増やして量減らそうか。都合が悪くなったらまた元に戻すからね。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ海斗くん、明斗くん呼んでくれるかな?」

「はい」


明斗兄さんと変わる。俺は待合室でスマホをいじっていた。


「どうですか」

「前より大分いいんじゃないかな。顔色もいいし」

「そうですか」

「あとは周りの大人が見守って行くことだね。統失ってのは長く付き合う病気だし、見守ってのびのびさせた方がいいんだよ。特に彼は発症してすぐに捨てられたんでしょ。尚更だよ。見守っていく大人が必要。だから明斗くん頑張ってよ。」

「はい。」

「薬は?28日分持ってく?それとも14日分?」

「28日分でお願いします。」

「了解。じゃあまた28日後ね。」


支払いを済ませ、海斗の元へと戻る。誰かとのLINEに夢中だった。


「海斗終わったぞ」

「あぁ、うん。」

「彼女か?」

「……まぁ、そんなとこ。」

「海斗に彼女かー。あ、処方箋、薬局に送っておいたから。いつものコーヒー屋行こうぜ。」

「うん。」


風鳴荘には行きつけのコーヒー屋がある。子どもたちは病院のあと、必ずそのコーヒー屋へ行くのだ。


「いらっしゃい、お、明斗くんに海斗くん。」

「こんにちは。」

「こんちゃっす。」


窓際に座り、いつも通り注文をする。


「俺アイスコーヒー」

「お、海斗飲めるようになったのか!マスター、激甘にしてあげて!」

「ブラックでも飲めるよ!」

「あと、ショートケーキ2つと、俺もアイスコーヒーで。」

「あいよ」


コーヒー豆を挽く音を聞きながら、海斗と話をする。


「どうだ風鳴荘は?」

「うん、大分慣れてきた。」

「そうか。ならよかった。」

「もし明斗兄さんにあそこで拾われなかったら、俺死んでたよなー。」


笑いながら言う。俺はそれを苦笑いで返す。


「でも、あそこで明斗兄さんに拾われてよかった。ありがとう。」

「いいってことよ。」

「はい、お待たせ。アイスコーヒーガムシロ多めとアイスコーヒーとショートケーキ。」

「いただきます……あー!マスター、ガムシロもう一杯ちょうだい!苦い!」

「明斗兄さんださっ!」

「明斗くんは子どもの頃から子供舌だからなぁ。はいよ。」

「ありがとうございます…」


支払いを終え、外に出る。まだ明るかった。薬局で薬を貰い、ワゴン車に乗り込む。季節はもう春だ。




2部屋目 影山百合花の場合


「おはよー……お腹痛い……」


朝、起きるとお腹に鈍痛が走った。アノ日だ。


「あらー、来ちゃったのね。お腹空いてないでしょ?ポタージュにしてあげるね。」

「あーちゃんありがとー。」


救急箱の中から痛み止めを取り出し、2錠切り取る。


「はい、ポタージュ。薬は飲み終わってから飲みなさいよ。」

「はーい。」


暖かいポタージュを飲み終わり薬を飲む。


「あーちゃん今日生理痛だし学校休みたいなー……なんて……」

「あたしがあんた位の歳は生理痛でも休ませてくれなかったわよ。はい、貼るカイロ。行ってらっしゃい。」

「……鬼!」

「痛み止め持つのよ。あと必要なものは忘れずにね。」


何とか階段を登り、カバンを持つ。一応必要なものは持った。


「行ってきます……」

「行ってらっしゃい。」


痛み止めが効いてきたのか、少し痛みが和らいできた。


「百合花おっはよ!」

「痛った!」


クラスメイトの利華だ。思い切り背中を叩いてきた。


「今日生理なんだから勘弁してよ……」

「あ、そうなんだ?知らなかったわ。」


そう言いながら利華がケラケラと笑う。仄かに殺意が芽生えた。


高校に着く。お腹の痛みは落ち着いていた。


「影山ー。スカート短すぎ。もっと長くしなさい」


そういいながらあたしの前に立ち塞がる女。生徒指導で国語担当の渡辺久美子(58)だ。


「うちの魅力は誰にも止められないんでー。」

「馬鹿なこと言ってるんじゃないよ。」


頭を出席簿で殴られる。痛い。


自席に着きまずやる事はさっき買った雪印コーヒーを飲みながら、友だちと喋ること。何気ない会話でも、1番大切な時間なのだ。


「百合花宿題やった?」

「あ!忘れてた!やばち!一限なべクミやん!」


あたしの目は1人の男の子を狙っていた。モブAくんだ(名前は知らない)

あたしはモブAくんの太ももに乗り、目を見つめる。


「な、なななな影山さん何を」

「宿題見せてくれたらぁ、イイことしてア・ゲ・ル・❤」


モブAくんの唇に指を当てる。真っ赤になっていた。


「あに馬鹿なことやってんだ。とっとと降りろ」


と、なべクミがあたしの頭を出席簿で殴る。


「痛っ!やめろし!」

「あんたも、おっ立てたそれ落ち着かせんかい!」


モブAくんは真っ赤になっていた。


「おっ立てたとかなべクミまじ下品ー」

「渡辺先生だろうが!」


そう言ってなべクミがまた頭を叩く。しぶしぶ自席に座る。


あっという間に昼食の時間になった。利華や彩芽と一緒に昼食を食べる。今日の昼食はサンドイッチとリプトンミルクティーだ。痛み止めも忘れずに。


「あー、だるいなぁ。次の英語テストだし。」

「そんなこと言いながら百合花いつも満点じゃん。」

「文系科目は得意なんですー。ごちそうさま。」


痛み止めをリプトンで流し込み、お弁当を食べている彩芽を見つめる。


「何、百合花?」

「いや、彩芽っていい名前だなーって思って。」

「いきなり見つめてきたと思ったらそんなことを。百合花だっていい名前じゃん。」

「百合の花よ?まじエロいじゃん。名付けたの父親らしいんだけど、まじ下心しか感じない。彩芽の名前いいなー」

「別に百合花って名前エロくは無くない?木にしなくていいと思うけど。」


そう言って彩芽はトマトを外に向かって投げた。


「ちょっ、何しとん!もったいない!」

「嫌いだから。」

「ならあたしにちょうだいよ!あたしトマト好きなのに!」

「あ、そっか。次からはそうするわ。」


昼食の時間が終わる。クラスの人達は自分の席へと帰っていった。あたしも自分の席へと戻る。


何ともなく6限まで終え、放課後。


「百合花ー、カラオケ行かん?」

「行く行く!生理痛も収まったし!」


カラオケへ行く途中、利華がこんなことを言い出した。


「あんたまだ家出してんの?」

「…まぁ。住むところはあるし、連絡来ないから無視してるけどね。」

「いいかげんおじさん達心配してるかもよ?」

「してないしてない。あの人たちには美奈がいれば十分なのよ。」

「まぁ、あんたがいいならいいんだけどね。」


カラオケを楽しみ、風鳴荘へ帰る。明斗くんがいた。


「よっ!明斗くん!」

「お、百合花遅かったな。ご飯食べてきたか?」

「サイゼ寄ってきた!」

「サイゼいいなー。俺も今度行こ。」

「じゃああたしと行こうよ。奢りで。」

「奢りはキツイかな…」


明斗くんをからかったあと、自室へ帰る。課題を片付けた後、お風呂の中で利華の言葉を考えていた。


「家出少女だからねぇ。」


そう呟き、湯船に身を全て沈める。利華は幼なじみだから、あたしの両親のことをよく知っている。だからこその言葉だろう。


今は水に身を委ね、これからのことを考えていた。


いつかは帰る。


そう、思いながら。いつかなんて分からないけれど。


3部屋目 笠井颯太の場合


告白しよう。俺の性対象は男だ。いつからか、なんて分からない。少なくとも小学校の頃からだろうか。うちの両親は教育熱心で、小学校からエスカレーター式の男子校に入れられた。


だから、女子は苦手なのだ。環境のせいもあったのだろう。小学生にしてマシていた俺は、体育の時間の着替えの時間が楽しみだった。半ば合法的に小学生男子の身体が見られるのだ。


……こう書くと、やっぱり俺は小学生の頃からゲイだったのかもしれない。


とにかく、俺はゲイだ。


その事は自覚していて、周りにもきちんと話をしている。理解しなかったのはうちの両親だけだ。

高校卒業が決定すると同時に俺は、家を出た。


18歳ならもう一人暮らし出来るだろうと甘く考えていた。そう、保証人が必要なのである。俺は愕然とした。しばらく呆然としていると、職員の方が風鳴荘をこっそり紹介してくれた。


実際に風鳴荘へと行ってみる。児童養護施設ではなく、本当にマンションみたいな佇まいをしていた。


「おや、利用希望の人?」

「え、あ、いや。あの、不動産屋さんに紹介されて。」

「あー。なるほどね。良かったら中にどうぞ。中で詳しく説明するから。」


声を掛けられるがままに、俺と明斗さんは中に入っていった。


「…って感じ。保証人は俺になるから、契約してくれれば一人暮らしも出来るよ。」

「そう…なんですか。」

「大学も受かったんでしょ?せっかくなんだからうちと契約しちゃえば?」

「…はい。」

「じゃあここに名前とサインを。一人暮らしにする?それともうちで暮らす?」

「んー…じゃあこちらで暮らします。」

「うん、了解。部屋は…高校生組たちと同じにしたいから、302号室ね。はい、鍵。必要な家具とかは近い内に買いに行こう。」

「ありがとうございます。じゃあ、失礼します。」


部屋は普通の家と変わらない広さで、畳もあるし、洗濯機もあった。お風呂とトイレも分かれていて、この広さで月32000円は安いなと感じた。


畳の上に寝転がる。まだ新品の畳はとてもいい匂いがした。


「バイト探さなくちゃなぁ。」

-----------------


いつの間にか眠ってしまっていたらしい。起きたら真夜中だった。荷物も出さないまま、空腹に任せて下に行くと、知らない女の人がいた。


「えっと…。」

「あ、新入りくん?明斗から聞いてるよ。卵がゆあるけど食べる?」

「あ……頂きます……。」

「私は明斗の姉の長谷川朱里。よろしくね。」

「笠井……颯太です。よろしくお願いします。」


目の前に卵がゆと塩が置かれた。卵がゆは空っぽの胃の中に優しく吸い込まれていく。涙ぐんでしまった俺の目を、朱里さんは優しく拭いてくれた。


「男の子は泣いちゃダメだぞっ。」


そう言って朱里さんは俺の頭を撫でた。暖かった。


部屋に戻り、荷出しをする。大学への住所変更もしないといけないし、住民票の変更もしなければいけない。しばらくは忙しい日々が続きそうだ。

--------------


翌日。明斗さんと一緒に区役所へ行く。車の助手席に座り、明斗さんに尋ねた。


「いつからやってるんですか?」

「ん?あー、じーちゃんが生きてた頃からかなぁ。まだ小さい俺や姉ちゃんも手伝ってた気がする。最初は慈善事業だったんだけど、じーちゃんが国会議員でな。関係各位に頼み歩いて、今じゃ補助金がたくさん出てるんだよ。それで運営してるんだ。」

「そうなんですか……。」


住民票の住所を変更し、そのまま大学へ向かう。住所変更を行うためだ。


一連の変更を終え、車に乗り込む。


「お腹空いたね。ご飯でも食べに行こうか。」

「はい。」

「何食べたい?」

「んー…何でもいいです。」

「じゃあ焼肉でも行こうか。肉食べたいし。」

「はい!」


車は大学から30分位掛かる場所にある牛角へ着く。駐車場に車を停め、2人で中に入った。


「食べ放題だから好きなの食べていいよ。」

「いいんですか?」

「構わないよ。」

「ありがとうございます!」


120分後。


「はー、お腹いっぱい……。ありがとうございます。」

「いえいえ。お会計してくるね。」

「ありがとうございます。」


こんなに食べたのは何時ぶりだろう。思い返すと、こんなに食べるのなんて久々だ。


「お待たせ。行こうか。」

「はい。」


車の助手席に乗り、シートベルトをする。車が発進して、しばらくすると、軽く眠気が襲ってきた。


「眠い?」

「少し……」

「じゃあ寝てていいよ。着いたら起こすから。」

「ありがとう、ござい、ます……」


すぐに意識は途切れた。

……気づくと、俺は自分の部屋にいた。横には明斗さん。


「ベッド、ここ出てった人のお下がりだけど使って。たんすとか机もお下がりだけどごめんね。引き出しとかは半分援助するから、バイトして買ってね。」

「はい。ありがとうございます。」

「敬語じゃなくていいよ。フランクに行こうフランクに。」

「え……あ、うん……」

「そうそう。じゃあ夕飯出来たら呼ぶね。」


そう言って明斗さんは部屋を出ていった。



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