後編
美しい顔に見えるお尻をユラユラさせて、ココミック星人たちが大きなカエルみたいなお腹の顔をさらけ出し、潰れたような鼻の穴から1人残らず鼻血を噴出させている。謁見の間は瞬く間に鼻血の海だ。私はそれをただ眺めることしか出来ず、手足をワタワタさせていた。
『オダワラ様……』
シーナ女王の私を見る目が怖い。
『これはどういうことですのっ!?』
『貴様……』
オスカレ将軍がイケメン顔を歪ませて私を睨む。
『毒でも盛ったのかっ!?』
『オダワラ様……、ひどい』
マドレーヌさんが可愛い顔の下のカエル顔から涙を流し、私を詰る。
『私達が何をしたというのっ!?』
もちろん地球を侵略し、私を子種奴隷として拉致したのだが、そんなことは言わせてももらえない雰囲気だった。
『そのオトコのズボンを脱がし、パンツも脱がしなさい!』
女王が残忍さを顔に浮かべ、オスカレに命じる。
『何をされるおつもりですか? シーナ様。まずは治療が……』
『いいから脱がしなさいっ!!』
『……はっ。……おい!』
オスカレが命じると、配下のココミック星人が3人がかりで私を押さえ込んで来た。3人とも疑似顔から表情が抜け落ち、ぷよんぷよんとしながら襲って来るのでとてもキモかった。
「なっ……、何をする気ですかっ!」
私が床に仰向けに押さえつけられながら喚くと、シーナ女王が後ろ髪にしか見えないブロンドの豊かな陰毛を左右に分け、給油口のような陰部をあらわにする。
『女王様! ここで種付けを行う気ですか!?』
オスカレが制止しようとする。
『無理ですっ! ご存じないのですか? 男性がイレクトしなければ種付けは成功しないのですぞっ!?』
『オスカレこそ知らないの?』
女王は威厳を顔に湛え、言った。
『男性はすべて『ちんちん勃起症候群』という病気に罹っているのです。わたくしの美しいこの疑似顔を見つめさせれば、たちまち……』
悔しかった。恥だと思った。
女王の言う通り、彼女のこの世の物とも思えない、お尻に描かれた美しすぎる疑似顔を目の前で見せつけられ、私はたちまち準備OKになってしまったのだ。
『よくもっ……!』
女王の後頭部が、剥き出しにされ押さえつけられた私の股間めがけて降って来た。
『よくも毒を……っ!』
私は股間を女王の後頭部で強打された。何度も何度も、後頭部をそこに打ちつけられた。
「おおおおっほうっ!!」
私は叫びながら、しかし大した痛みは感じていなかった。それどころか結構な快感のようなものを覚えてしまっていた。ココミック星人の後頭部は実際には頭部ではない。そこに入っているのは頭蓋骨ではなく腰骨だ。しかも給油口のような穴に吸い込まれ、その周りは柔らかいクッションのようになっているので、腹筋運動をするようにガンガンと後頭部を打ちつけられながらも、なかなかいい感じだったのだ。
そして私は大勢が見守る前で温かいホワイトチョコレートペーストを女王にプレゼントさせられた。
それから私は地下の牢獄に閉じ込められ、拷問のように毎日女王の怒りのヘッドバットを股間に受けた。
しかし女王の怒りがある日突然収まった。医者が説明してくれたのだ。鼻血はチョコレートの食べすぎで起こったもので、私が毒など盛ってはいなかったことを。
それでも私は種付け奴隷として幽閉され、少しは優しくなったが女王のヘッドバットを股間に受け続けた。
人間扱いされていなかった。身なりは強制的にいつも清潔にさせられてはいたが、私は自分が家畜にされたような気持ちでココミック星の2つの月を毎晩見つめていた。
10ヶ月以上が経った。
半年以上も前からなぜか女王の拷問は途絶えていた。私は何をさせられることもなく、ただ生かされていた。清潔にさせられることも中断され、ドブネズミのように薄汚れながら、毎日ただ窓から空を眺めていた。
地球に帰りたいという想いが、自らの命を絶ちたいという切実な気持ちに変わりはじめた頃、久しぶりにオスカレ将軍が顔を見せた。
『釈放だ』
「え?」
私は耳を疑った。
「地球に帰れるのか?」
『そうではない。とにかく女王様がお呼びだ。来い』
わけがわからなかった。私はシャワーを浴びさせられ、綺麗な服を着せられた。服とはいっても何しろ女性しかいない星のことだから軍服だ。しかしドレスを着せられるよりは何倍もましどころか、勇ましいデザインのそれを着せられると、私は自分が立派になったような気がして、久々に気分が高揚した。
オスカレに連れられ、謁見の間に行くと、女王が玉座にいなかった。向こうに置かれたソファーを見ると、薄着姿のシーナ女王は寝転ぶような格好でそこにいて、胸にしか見えない腹部に赤子を抱いていた。
『オダワラ様』
穏やかな顔で、私に微笑んだ。
『あなたの子ですのよ』
なんだか空気が変だった。30人ぐらいのココミック星人がそこにいるのだが、やたらと皆しんとして、しかし顔は今にも騒ぎ出しそうに明るい笑みを湛えているのだ。
「それはそれは」
私は社交辞令のように言った。
「お役に立てて何よりです」
『オダワラ様』
女王が光り輝くような顔で私をまっすぐ見た。
『男の子ですのよ』
しばらく意味がわからなかった。
ココミック星は食品添加物が遺伝子に悪影響を与え、男児が産まれなくなったのではなかったのか。
男の子が産まれるわけはない。
『オダワラ様』
傍にいた白髪の老女が口を開いたので、私はそっちを振り向いた。
『チョコレートでございます』
「え?」
『私はココミック星の科学者でございますが、調べましたところ、あの日、あなた様が私達にプレゼントしてくださったチョコレートが、私達の遺伝子に変化をもたらしてくれたということが判明いたしました』
「ええっ!?」
『ありがとうございます』
科学者がそう言って私に頭を下げると、堰を切ったように、その場にいたココミック星人達が声を上げ、私はたちまち歓声に包まれた。
『英雄を讃えよ!』
『オダワラ様、万歳!』
『ココミック星の救世主だ!』
「いや……、私は……、チョコレートにそんな力があるなどとは知らず……」
『偶然でよろしいじゃありませんの』
シーナ女王が優美な微笑みで私を見つめる。
『貴方様がこの星を救ってくださったことに何も変わりありませんわ』
『オダワラ様!』
オスカレ将軍がいきなり私を抱きしめて来た。
『貴方は神だ!』
『オダワラ様……』
マドレーヌが下の顔から美しい涙を流しながら、私を讃えた。
『貴方様を誤解しておりました!』
『どうかわたくしの夫になってくださいまし』
女王が凄いことを言い出した。
『この星の王婿となって、わたくしと共に、美しい未来を築いてくださることを、わたくし達は願います。もちろん征服した地球も解放いたします。貴方は自分の星も、わたくし達の星も、両方救った英雄となるのですよ』
呆気にとられ、しばらく返事が出来なかった。それは輝くばかりに美しい、目の前のシーナ女王に見とれていたからでもあった。やはり彼女は私の目の中で、あまりに美しく、そしてあまりに可愛らしかった。
私は彼女の前にかしずくと、手にしか見えない彼女の足を取り、そこにキスをした。そして、永遠の愛を誓ったのだった。
私は一生をココミック星のために捧げることを決めた。
ココミック星に地球から冷凍保存した精子を届けさせ、彼女らに提供した。まったく、なぜ今まで両者ともこの方法があることに気がつかなかったのか。それとともに地球から大量のカカオ豆を搬入し、ココミック星の土壌での栽培を開始させた。これでココミック星産のチョコレートが作れる。
ココミック星人達はシーナ女王と私を心から支持してくれた。
彼女らは歌を作り、私がテラスに姿を現すと、声を揃えてそれを歌い、私を讃えてくれた。
ようこう
ようこう
ようこ、ようこ、よーこー
おーだーわーらー、よーこー♪
なんだかどこかで聴き覚えのある歌のような気もしたが、私はその歌を気に入った。救世主と呼ばれても決して驕ることなく、柔らかな微笑みを彼女らに私が絶やさなかったのは、ひとえにいつも隣にいてくれる妻のおかげだ。
『この星の未来は明るい』
私が囁くように言うと、私の隣で妻のシーナが、とても幸せそうに笑ってくれるのだ。
『すべて貴方のお陰ですわ』
その、お尻にしか見えない胸に息子を授乳させながら、光輝く笑顔を見せてくれるのだ。
(完)