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転校生は私の護衛で婚約者?!強気な俺様のくせに溺愛してくるなんて聞いてない。  作者: ごんちゃん


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8/8

(8)思い出の花 (護久視点)

最終回です。

あいつが買い物の途中で誘拐された事件から、あっという間に2週間が経った。


あの時、俺は色んなことに改めて気付かされた。


俺がどれだけ美桜に惚れちまっているのかってこと。


そして、少しは縮まっているかと思っていた飛武さんとの実力の差は、到底埋まりそうにないってこと。




「別にあいつはあんな約束覚えてやしないってのに……」




子供の頃の、俺だけしか覚えていない約束。


そんなものに縋るだけじゃ足りなくて、なんとか手にしようと努力して一番近い位置まで辿り着いた。


手を伸ばせば届く距離にいるのに、この俺がたった2度のキスしかしていない。


大体、好きな女と同じ屋根の下に住んでるってのに自分がこれほど我慢強いとは思ってもいなかった。


だけどムリに距離を詰めても俺にとっては意味のないことだ。


俺は美桜のあの向日葵みたいな笑顔が欲しいのだから。




「嫌われちゃいないってのは分かるんだがな」




小さく溜息をついて自分の部屋を出ると、美桜の部屋に向かって歩いていった。


今日は行きたいところがあるから付き合って欲しいと言われていた。


正直、好きな女と一緒にいるのだから嬉しくもあるのだが、それが単にボディガードとしてであることが不満でもあった。


俺自身、なんであいつなのかと言われても明確な答えなんて出せそうになかった。


公式な場で見ていた財団令嬢としての凜とした姿も、クルクルと表情を変える無邪気な素顔も、膨れっ面で俺に噛み付いてくる姿さえ、全部が愛しく思えるんだから、『何故』が証明できずとも『好きだという事実』は覆せない。


物理や化学の公式や大学に提出する論文のほうがよほど簡単に思える。


扉の前に立って約束の時間が来たのでノックをしようとすると同時に扉が開かれて、満面の笑みを浮かべた美桜が顔を覗かせた。




「えへへ、時間ピッタリだったでしょ?」


「それが当然だ……いつもがのんびりしすぎなんだろ?」


「……そうでした」




扉をしめた美桜は少ししょんぼりしていて、この感情の起伏が見ていてすごく面白い。


きっと尻尾がはえていたら左右に振ったり下に垂れさがったりと忙しいことだろうと思う。


むしろ令嬢として振舞っている時はどうやってこの素顔を隠しているのか、不思議になるほどの差がある。


そんな美桜は、初めて見る淡い黄色のワンピースに俺のやったスイートピーのペンダントをつけている。


俺がプレゼントしてから美桜がこれをつけているのを初めてみた。


それぐらいの事で頬が緩みそうになる自分がいて、恋とは厄介なもんだと内心溜息だ。




「それで、行きたいところって何処だよ」


「うちの屋敷の敷地内なんだけど……いいかな?」


「屋敷の中?だったら別に俺がずっとついていなくても飛武さんがいるんじゃ…」


「今日は飛武じぃじゃなくって護久じゃなきゃ駄目なの!」


「ふーん…?まぁだったら別にいいけど……」




屋敷に行くと聞いて落胆したのが正直なところで……それは美桜を一人占めできないからだということも自覚している。


こいつに惚れてなきゃいくらでも恋人ぐらいできるってのに、俺も物好きだよな。




「じゃあ一緒に行ってくれるんだよね?」


「俺はお前のボディガードだからお前が行くのなら俺も行くに決まってるだろ」


「……そっか」




ほらな?やっぱり子犬みたいだよな…こいつ。


きっと尻尾と耳があったら耳も尻尾も垂れ下がってしょんぼりしてるって雰囲気だ。


だけどなんだか今日はというか先週から美桜の態度がどうもおかしい。


いつもと反応が違う気がする。




「ククッ……なんだその反応は…ほら、行くならさっさと行くぞ」


「はーい」




俺の前をパタパタと歩いている姿をみるととても財団の令嬢には見えない。


そそっかしくってコロコロと良く笑って良く食べる。


そんな美桜だからこそ、ここの学校でも違和感なく溶け込んでいるんだろう。


屋敷から迎えにきた車にいつものように後部座席に一緒に乗り込むと、途端に沈黙が車内を支配した。


いつもなら色々と学校の話しや友人の話しを延々聞かされたり、憎まれ口を叩いているんだが俯いたままだ。


一体どうしたというのだろう……他のことはすぐに分かるのに美桜のことだけは分からないことが多すぎるんだ。


車は屋敷の落ち葉に彩られた道を滑るように走って行く。


頭の中で、今日のスケジュールを色々と思い浮かべてみるものの、やっぱり屋敷にくるような用件はなかったはずだ。


一体なんの用事だろうと俺は首を捻っていたのだが、あと少し走れば正面玄関、というところで美桜が運転手に声をかけた。




「師岡さん、ここで停めてください」


「かしこまりました」




声をかけられるとすぐに、走り出す時と同じように静かに車が停まった。


ドアが開かれて俺が先に降りるとそこはまだ屋敷の林の途中で、正直俺にとってはこんな所で降りるのは初めてのことだった。




「美桜、こんなところで降りてどこに行くんだ?」


「あはは、まぁいいからついて来て?」




車を降りると落ち葉を踏みしめながら、軽い足取りで林の奥へと続く細い道を歩いて行く美桜。


楽しそうに歩くたびに長い黒髪がサラサラと揺れてその髪に指を絡めたい衝動にかられる。


俺は頭に叩き込んでいた敷地内の地図を思い浮かべてみた。




「………温室に行くのか?」


「ええ?!なんで分かっちゃうの?」




驚いて振り向いた瞬間に鈍くさく足元の濡れた落ち葉に足を滑らせた美桜を、間一髪で腕の中に収めてホッと息をついた。


本当に目が離せない……色んな意味で。




「ったく危ないな……お前のボディガードするって決まった時に屋敷内と敷地内の配置ぐらい頭に入れたんだよ」


「あ、ありがと………なんだぁせっかく着くまで内緒にしようと思ったのにぃ」


「で、温室で何するんだ?」


「ふふ、今度こそ着くまで内緒っ!」




俺の腕の中からスルリと抜け出して、懲りもせずに落ち葉の上を温室に向かって小走りに走っていく。


そんなことしてるとまた転ぶだろうが……。


大きな溜息をついて、俺も少し早足で美桜のあとを追った。




「ここに来たかったの」




大きな温室の入り口から入りながら嬉しそうに笑う美桜を見ながら、温室の入り口をくぐった。


温室に入るとここは春咲の花が植えられた温室らしく、温室一面に色とりどりの花々が咲き乱れていた。


そして部屋の花畑の真ん中に小さなベンチが置いてあってそこまでを細いレンガの道が繋いでいた。




「ここって………やっぱりただの温室だろ?」




温室の中を見まわしながら言った俺を入り口に残したまま、美桜はレンガの道を歩いて行く。


小さく溜息をついてその後をついて行くと美桜はその小さなベンチに腰をおろして隣をポンポンと叩いた。




「護久、ここに座って?」


「……ったく、一体何がしたいんだよ」




ベンチの横まで歩いて行くと、少し頬を染めた美桜が不安そうな目で俺を見上げている。




「別に座らないとか言ってないだろ……」




ベンチに腰掛けると思っていた以上に小さなベンチで、二人の肩がピッタリくっつくほどの距離になった。


触れているだけの半身が熱を持ちそうで、気を紛らそうと周りを見渡してみる。


見れば色は様々だがベンチの周りに植えられた花は同じものばかりで、それが俺をドキリとさせた。


なんだここ………スイートピーだらけだ。


胸の奥に何ががチリリと小さな明かりを灯したように何かを知らせようとしている。


俺の気のせい……か?


美桜はあの頃のこと、全然覚えてなかったじゃないか……俺のことも。


浮びかかった答えを頭を軽く振って否定した時、隣に座っていた美桜が立ち上がった。


ゆっくりと数歩歩いた美桜は目の前の花を一輪摘んで振り返ると、座ったままの俺の目の前に少しだけ身を屈め、目線を合わせてそっとそれを差し出してきた。




「護久………これあげる」


「……スイートピー…」




差し出されたピンク色のスイートピーを受け取りながら、俺はさっき否定した答えがもう一度頭に浮んでいた。


だってその花は俺にとって忘れられない大切な思い出の花だから…。




「約束、まだひとつだけ果たしてもらってないね……ふふ」


「約束って……美桜、お前…」


「飛武じぃよりも強く、なってくれるんでしょ?王子様」




悪戯っぽく笑いながらも頬が真っ赤に染まっている美桜の言葉に、俺は一瞬言葉を失った。


ああ、手を伸ばしてもいいって……そういうことなのか?なぁ神様。




「思い……出したのか?美桜」


「うん、ごめんね?なかなか思いだしてあげられなくって……ふふ、だって護久ってばあんまり雰囲気違うんだもん」


「お前は全然変わらないけどな?」


「あ、ヒドッ!これでもりっぱな女子高生なんですけど……」




拗ねたように頬をふくらませるのも可愛くて、愛おしくて……気がつけば俺は美桜を力いっぱい抱きしめていたんだ。




「ちょっ。く、苦しいってば護久~……」


「俺との約束、ずっと忘れてた罰だ……もう少し俺の好きにさせろよ」


「……うん…いいよ」




恐る恐るといった感じで俺の背中に美桜の手がそっと添えられ、指先でシャツをきゅっと掴まれた。


もうそれだけで、俺は柄にもなく胸が高鳴って頬が熱を持ってしまう。




「美桜、この前の質問の答え……まだ聞いてないぞ?」


「質問って?」


「お前、俺のこと好きだろ?」


「……………悔しいけど……好きみたい」


「フッ……なんだよそれ」




秋なのに春の優しい香りに包まれながら、遠い昔の約束の少女をようやく腕の中に捕まえた歓びを噛みしめた。


美桜は言うべきことを言った安心感からか、俺の髪に頬ずりなんてしている。




「護久は?私の事好き?」


「俺は最初に言っただろ?お前以外の女とか興味ない……昔からずっと好きだ」


「えへへ……なんか、照れるね?」


「バーカ……お前が言わせたんだろ」




少し腕を緩めると本当に苦しかったのか少し大きく息をついた美桜が、薄紅色の頬でふわりと笑った。


そのまま俺の膝の上に座らせると、恥ずかしいのか身を捩るがそんなことで逃がすわけないだろ?


腰を引き寄せるようにして腕の中に閉じ込めると、美桜は何度か身動ぎした後に諦めてされるがままに身を小さくした。




「ここ、私が小さい時に頼んで作って貰ったんだって……この前思いだすまで6年ぐらい来てなかったんだけど」


「この温室、お前のなのか」


「そうなんだって……妖精さんのピンクのフリルが沢山見たいって言い張ってたらしくって……ホント子供だよね」


「それって……」


「なんかさ……私も護久が初恋だったみたい」


「はぁ?!それを忘れるか?普通」


「仕方ないでしょ!忘れてたんだから!」




膝の上で暴れて落ちそうになるのを抱きとめてやると、途端に真っ赤になって俯く美桜。


だけど俺の膝に乗ってるんだから俯いてもその表情はしっかり見えてるんだけどな?


こんなところがこいつは反応が楽しくて仕方ない。




「で、約束ひとつだけ果たしてないってことは他は果てしてるってことだよな?」


「……え?」


「お前の親父さんよりカッコよくて、お前よりずっと背が高くて、学校の勉強教えてくれるぐらい頭がいい…だったよな?」


「う、あ……そ、そうだけど……」


「つーかお前、あの最後のひとつは……かなり無理があるだろ?」




自分が色々な格闘技を学んできたからこそ分かるレベルの差。


あれは普通の人間の到達できる強さじゃない、絶対。


飛武さんが正確には何歳なのか知らないが、経験値とか修行内容とかいう問題じゃない強さだということだけははっきり分かる。


あの人より強くなるまで求婚したらダメなんて条件は、流石に反則だろう。




「………そうかも?」


「で?どうするんだ?俺が飛武さんより強くなるまで何年でも待つのか?」




顎を掴んでニヤリと笑って見せると、真っ赤な顔に困ったような笑みを浮かべて俺を見つめ返してきた。


少し潤んだ瞳に、からかっていた俺の方が煽られているような気分にさせられる。




「……じゃあ、その代わりの条件を出そうかな」


「お?妥協するのか……ククッ…つまり、待ちきれないってことだよなぁ」




自分の余裕の無さを誤魔化すように美桜をからかってやるつもりで言ったのに、まさかあんな返しがくるなんて……。




「うん……その代わり、ずっと守ってくれますか?」




俺の頬にその柔らかくて小さな掌でそっと触れながら、桜色に頬を染めて恥ずかしそうに呟くなんて…それがどんだけ心臓に悪いか分かってないだろ?




「ーーーーーっ何だよそれっ……反則だろ」




俺はそういうのが精一杯で……。


美桜の頬にかかった髪をそっと耳にかけて、そのまま頬を指の背で撫でてやるとくすぐったいのか少し身を捩った。


それを引きとめると一瞬、至近距離で視線が絡んだ後、そっと美桜が瞼を閉じた。




「……上等だ、一生俺のやり方で守ってやるから…覚悟しとけよ?」




唇が触れる直前、掠れた声で囁いて……俺だけの蕾がゆっくり花開き始めるのを確かめるように優しくキスを落とした。


ガラス越しの日差しは朝のキラキラした光を思い出の花達に降り注いでいる。


三つ目の贈り物は俺が一番欲しかった、俺だけの花が綻ぶような笑顔と気持ちが通じた初めてのキスだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ようやく両想いになれた護久と、やっと素直になれた美桜なので、せいぜいイチャコラすればいいと思います。

現代学園モノに需要があるか分かりませんでしたが、楽しんで書いたものだったのでアップしてみました。

楽しんで頂けたら嬉しいです。


もし少しでも面白い!更新頑張れ!等思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいねなどして頂けたら嬉しいです。

優しい読者様からの応援、とても励みになります!


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