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(6)二つ目の贈り物 (護久視点)

事件回です。

「ねぇねぇ!これなんかどうかなぁ?」


「ネクタイなんてお前の親父さん、山のように持ってるだろ…高級品ばかりをさ」


「んーでも…それじゃどんなものがいいかなぁ」




来週に控えた美桜の父親、すなわち守神財団総帥への誕生日プレゼント。


それを買うのになぜだか百貨店でもブランドショップでもなくある街中にやってきてる俺達。


今日は真っ直ぐで艶やかな黒髪を緩く編み上げていて、そこらのアイドルなんかよりよっぽど可愛らしい顔がいつも以上に目立っちまう気がして、出掛けに部屋にあったキャスケットを被せてやった。


おかげで少しだけ顔は隠せたものの、そんなもので隠せるほどの可愛らしさじゃなかったなと内心思いながら、平気なフリをして隣を歩く美桜を見下ろした。




「そもそもなんでここ何だ?こんなとこだと大したものないんじゃないのか?」


「あははは、やっぱりそう思う?このあたりにデザイナーズの1点モノ扱ってるとこがあるんだって!」




普段こんな街をうろつくことのない俺たちにとって、細い路地の多いこんな街は珍しいものばかりだ。


もっとも俺は留学先のアメリカではいろんな所に出入りしていたので、それに比べれば可愛いものだが。




「うん、古い建物にデザイナーさんばかりが何人かでショップ出してるらしいんだよね」


「店の名前は聞いてないのか?」


「……ごめん、忘れちゃった……もう!そんな怖い顔で見ないでよ」


「別に怖い顔したわけじゃない…心底呆れただけだ」




ビルとビルの間の広場のような所にある大きな木の下にベンチがあった。


秋も深まって広場は掃くものもいないのか落ち葉に埋め尽くされていた。




「はぁ…そのベンチに座って待ってろ!俺が良いと言うまで動くなよ?動いたらあとでお仕置きだ」


「ええ!護久、何処行くの?」


「すぐ戻るからいい子で待ってろ」




ニヤリと笑ってさっき曲がった角で見かけたドリンクショップまで走る。


楽しさで気になって無いみたいだが、もう2時間歩きっぱなしだ。


まさかこんな所にくるなんて思ってもいなかったから、あいつがミュール履いてきてるの忘れてた。


もうじきしたらきっと足も痛くなるし、喉も乾いてくるはずだ。


その場を離れたのはほんの3分ほど。


ドリンクを両手に持って戻ってみればあいつがいたはずのベンチはもぬけのカラで…。




「……何処いった?」




慌ててベンチにドリンクを置いて発信器の位置を確認した。


あいつの服のボタンには小型の発信器をとりつけている。


本人は知らないだろうし、知ったら知ったで怒りそうだけどな。




「なんだ…?移動速度が歩きじゃない…」




自分の失態にチッと舌打ちをする。


なんであいつを一人でここに残しちまったんだ。


俺がボディーガードについてから何にもなかったから油断しちまったのか…。




「…くそっ!」




丁度歩いてきたカップルに乱暴にドリンクを押し付けると、俺は通り沿いにあったバイク屋に駆けこんだ。




「このバイク、燃料が入ってるな?おい、このバイク今すぐよこせ!」


「ちょ!ちょっとお客さん!今すぐって!!印鑑や住民票もいるし手続きに時間が…」


「だったら試乗だ!購入費用でこれぐらいあれば足りるだろう!」




ガソリンが入っていた400CCバイクに有無を言わさず跨ってエンジンをかけた。


ヘルメットも二つ奪うように購入してそのまま店を飛び出していた。


後ろで札束を手にうろたえた店員が何か叫んでいたが、今はそんなことに構っている場合じゃなかった。


発信器の位置を確認しながらバイクを飛ばす。


まだそこまで距離をとられていなくて助かった。


問題は相手の人数と目的だ。


たまたま通りがかりに美桜を見掛けた変質者による連れ去りなら犯人は大した武装はしていないだろう。


犯人も1人からせいぜい4人ぐらいってとこだろう。


相手としては問題ないが、この場合がある意味最も美桜の身が危うい。


財団に恨みを持つものの犯行の場合、あの場所で殺さなかった以上はとりあえずすぐには殺さないだろう。


だがこの場合が最も相手の武装が重装備で、人数が多い可能性が高い。


最悪の場合は美桜が暴行を受ける動画を撮影して送りつけようとしている可能性も捨てきれない。


金目当ての場合であればある意味金で解決するならどうとでもなると思っている。


なにより金の受け渡しするためにはなんらかの方法で接触しなくてはならないからだ。


色んな可能性を考えながら、俺はひたすらに美桜を乗せているであろう車を追った。


移動しつつ飛武さんにも連絡をいれる。




「すいません、俺の失態です…美桜を何者かに拉致されて追跡してます!現在環状線を南下中です」


「…分かった、そのまま追ってくれ!私も向かう」


「よろしくお願いします……俺が必ず連れ戻しますから…」


「ああ、君ならできると思っているよ……美桜お嬢様を頼むぞ」




通信を切って改めて視線を前に向ける。


まさかすぐに追って来ているとは思っていなかったのだろう。


ゆっくりと走行する一台の黒いセダンを見出した。




見えた!あれか!!




更に速度をあげて車の横にバイクをつければ、中には3人の男と泣いてる美桜の姿。


男たちは同じようなスーツに身を包み特に二人は体格も大きそうだ。


俺の姿をミラーに捉えた運転手が2人に何か言ってるのが見えた。


その言葉に弾かれたように窓の外を見て、泣き笑いの表情を浮かべた美桜。




ーーー畜生っ!俺の女を泣かせるなんてよほど痛い目に会いたいらしい




バイクを並走させながら胸ポケットからカスタムスチールミニ警棒を取りだす。


視線で美桜になるだけ後ろに下がるように促して、警棒を振りおろして後部座席の窓ガラスを叩き割った。


砕け散ったガラスの向こうから、後部座席に乗っていた男が鉄パイプを持ちだしてきた。


窓から太い腕を出してブンブンと振りまわしてくる。




「ったく……お前、邪魔なんだよちょっと寝てろ!」




ミニ警棒をしまうと今度は上着のポケットからあるものを取り出して拳につけた俺は、挑発するようにニヤリと笑ってみせた。


ますます苛ついたそいつが振りまわした鉄パイプが車体に当たって一瞬止まった隙を見て鉄パイプに拳をぶつけた。


バチバチバチッ


火花のような電気が走り、大男が鉄パイプを取り落として気絶した。


電圧をちょっとばかり俺がいじったナックル型のスタンガンだ。


おそらく掌はやけどもしているだろうし、大男でもしばらく気付かないだろう。


俺の女に勝手に手を出すからそんな目にあうんだ。


後部座席の男が気絶したのを知って、運転席の男はバイクの方へ車を強引に寄せてくる。




こいつら、絶対堅気じゃないな…


銃を持ってる危険性も高いってことだ




「美桜!来い!!」




叫んで美桜に片手を伸ばすと、美桜は一瞬の迷いもなく俺の手を取って窓から車外にダイブした…。


助手席の男が伸ばした手が宙を掴んで空しくカラ振りする。


俺はなんとかバランスをとって美桜を受け止めると、そのままバイクをUターンした。


後ろからは飛武さんと、おそらく警察も追ってきているはずだ。


今の俺にとってなによりの優先事項は、あいつらに報復することでも捕まえることでもなく、美桜の安全確保だった。




「…よく頑張ったな?」




本来ならば後ろに乗せるはずなのだが、美桜は未だに震えが止まらずにいる。


ハンドルと腕の中に閉じ込めるように膝の上に抱いたままバイクを走らせた。




「…ふっ……ぅ……護久っ……こ、怖かった…っ」




俺の背中に手を回し、しがみ付きながら涙で胸元を濡らして行く美桜。


できることなら今すぐバイクを止めて抱きしめてやりたい衝動にかられるが、急ブレーキをかけてUターンしたあいつらの車がそうさせてはくれない。


撒くだけなら路地に入って撒けばいいが、今後の安全確保の為にも連中の身柄を押さえる必要がある。




「飛武さん!美桜は取り戻しました!今どこですか?!」


「心配いらない、今、君たちと追ってる車を発見した……あとは任せなさい」




通信を切って視線を一瞬上空へとやれば、黒塗りのヘリが低空飛行に入るのが見えた。




「ハハハ……飛武さんも無茶するなぁ」




走りながらミラーに視線を移せば、ヘリから走る車の屋根に飛び降りる人影。


さすがの俺も驚いてバイクを止めて振り向いた。


そこには既に大破した車と真っ青な顔をした男が二人。


気絶していた大男を車から片手で放り出す飛武さんの姿があった。




「やっぱあの人にはまだ勝てないか……」




溜息をついて膝の上の美桜をなだめるように軽く抱きしめて背中をポンポンと叩いてやる。


潤んだ目で見上げてくる顔は俺の理性を追いつめるが、あの飛武さんの前でキスなんてできないな。


指の腹で涙を拭いてやって額に小さくキスを落とした。


結局犯人は美桜を人質にとって身代金をとった上で、自分たちの組の組長を釈放させるつもりだったらしい。


3人とも身柄を警察に引き渡され、後で知った話だがあいつらの組は『何者か』によって壊滅したらしい。


聞いたところによると一人の老人にって……あの人を知らなきゃただの笑い話だ。


その日、そのままバイクに乗ってさっきの街に戻った。


驚いていたバイク屋から正式にバイクを購入した俺は、ついでに例の店の場所を聞いた。


ようやくたどり着いたそこは線路沿いの古い建物にあった。




「ここでいいのか?随分アンティークな建物だな」


「うん、なんかそういうのが好きな人たちばっかりが集まってるんだって!」


「ふーん…まあデザイナーの工房らしいといえばらしいか」


「あ!これ、どうかな?」


「……いいんじゃないか?お前の親父さんにも使ってもらえそうだしな」




美桜が手に取ったのは本革1点モノのカードケースとペンケース。


なかなか良い品物だ。




「じゃあこれにしよ!護久はちょっと店の外で待ってて!」




命令されるのは性に合わないが、今日のことでの負い目もあって言われた通りに店の外に出た。


もちろん美桜は常に視線に入れておくのは譲れないが。


ガラス戸越に様子を見ていると、ふと隣の店先に並ぶ手作りのアクセサリーのひとつに目がとまった。


スイートピーモチーフのピンクゴールドのペンダント。


気付いたらそれを買い求めてる自分がいた。




「護久、おまたせ」


「ん?ああ…別に……結局あれにしたのか?」


「うん!良いのが買えたよ……あ、あとね…」


「…なんだ?」


「これ!護久にあげる!」




顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら突き出すように差し出された紙袋。


受け取って中身を見れば、丁寧に細工が施された眼鏡ケースで……。




「これを俺に?なんで?」




嬉しさはもちろんあるけれど、今日は酷い失態をやらかしたばかりの俺。


贈り物をもらえる理由も特に思いつかなかった。




「ーーーお礼っ!助けに来てくれて凄く嬉しかったから、そのお礼!」


「助けにって…俺がお前の傍を離れたから攫われたんだぞ?」


「分かってるよ!でも来てくれて嬉しかったの!」




顔はそむけても耳も頬も真っ赤なのは明白で、そんなこいつが可愛くて可愛くて。


ついつい腕を伸ばして美桜を引き寄せるとすっぽり収まる腕の中。




「サンキュ…大事に使うな?お前からの二つ目の贈り物だ」




耳元で囁くとますます真っ赤に火照るのが楽しくて嬉しくて仕方ない。


さっき買ったペンダントをポケットから取り出してそっと首につけてやった。




「え?え?!…護久、これどうしたの?」


「…今日の詫び……ていうのは口実で、似合いそうだからさっき買ったんだよ」




思ったことを素直に口にしてやれば、照れながらも嬉しそうに鮮やかに微笑む。


一つ目の贈り物、こいつはきっと覚えてやしないんだろうな。


心の中で苦笑しながら二人、バイクで寮へと戻っていった。

飛武じぃの規格外っぷりの為にプロローグがあったりします(笑)

買い物している街のイメージは駅周辺の再開発する前の下北沢とかをイメージしてもらうと良いかもしれません。

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