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デヴィッドの告白

「デヴィ様の事がお好きなの?」

 

 エルリーヌの直球な質問に、マリアンナはどう答えて良いのか、どう答えるべきなのか、咄嗟に言葉が出てこない。


 デヴィの事は勿論好きだ。でもそれは話し相手という立場があって、その括りの中での話。

 デヴィが男性なのかもしれないと思ってはいても、何故自分の前で女装をしているのか理由がわからない。そんな状態で好きだと言うのは何か違う気がする。


「マリアンナ様は気付いてらっしゃるのかしら?デヴィ様のこと」


「とおっしゃいますと?」


「ああ、もう!まどろっこしいわね!本音でとお伝えしましたでしょう?  

 正直に言いますわ。デヴィ様はデヴィッドが本名で、れっきとした男性ですのよ!」


 エルリーヌが若干キレ気味に叫んだ。


「ああ、そういう事ですか。

 えっと、あの、そうですね。そうではないかと薄々思っておりましたが、初めは全く存じ上げなくて、完全に女性だと思っていて」


 しどろもどろに答えるマリアンナ。自分でもどうして良いのかわからない。


「ですから、デヴィ様の事は女性として勿論素敵な方ですし、好きと言いますかお慕いしていると申しますか」

「男性として見た場合はどうですの?ジェイムス様とそっくりで大層な美形でいらっしゃるでしょう? 

 見つめあってときめいたりなさいませんの?」


 その時、奥の衣装部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。長い銀の髪を一つに纏めて片側に流し、白いシャツに紺色の細身のパンツにブーツ姿、肩からは同色のジャケットを羽織っているその人は……


「もうそのくらいで、マリアンナを虐めるのはやめてほしいな」


「え?デヴィ様?じゃなくて、ええ??」


 エルリーヌは仕切り直しだとばかりに、デヴィッドにマリアンナの隣の席に着くように目で合図をした。


「本当にもうどうしようもない人ね。淑女の衣装部屋に匿ってくれだなんて、貴方が婚約者ジェイムス様の双子の弟でなければ、幼馴染でなければ、絶対許せませんわよ」


 軽く睨みつけた後で、エルリーヌは面倒臭そうに言った。

「マリアンナ様、ロックフィールド公爵家三男のデヴィッド様をご紹介しますわ。」

 


「マリアンナ、ごめんね、騙していて。これには一応深い事情があるんだ。それは追々話すとして。

 改めて僕はデヴィッド・ロックフィールド、ジェイムスの双子の弟になる。」


 そうか、やはりデヴィ様は男性だったんだ…… 

エルリーヌ様の言葉を信用していなかったわけではないけれど。

実際目の前に、男性の姿をしたデヴィッドが居ると緊張からまともに見る事が出来ない。

何故?という疑問はたくさんある。しかしそれよりも男性として堂々と目の前に現れてくれたことが、マリアンナにはなんだかとても嬉しかった。


 双子だからジェイムスと勿論似てはいるが、マリアンナには二人の区別がつく。まず纏っている雰囲気が柔らかい、それにデヴィッドは笑うと片側だけえくぼが出来る。ジェイムスにはそれがない。


「デヴィッド様、事情がおありだということは理解しました。お身体の方は大丈夫なのでしょうか?」


「うーん、それもごめんね。全然大丈夫なんだよ。人前に出ないための言い訳にしか過ぎなくて。普通に走り回ったりするし、剣も振れるし、全くもって健康だ」


「子どもの頃は、デヴィッド様は女の子の恰好で泥遊びをしたり木登りをしたりして、世話係によく叱られていましたわ。まあいわば、お転婆さんだったのです。

 わたくしは、ロックフィールド家のお嬢様と年が近いから遊び相手になるようにと父親から言われまして、大切にしていたお人形を持参致しましたの。貸してあげるつもりでしたのに、女の子の格好のデヴィッド様にボロボロにされて、随分泣いたことを懐かしく思い出しますわ」


「ははは、あの頃はなんかちょっと荒れてたから……。

でもそのお陰で、ジェイムスと仲良くなったでしょう?泣いているエルリーヌをジェイムスが慰めてプレゼントを贈ったりしたじゃないか。僕はふたりの恋の仲介役なんだからむしろ感謝して欲しいな」


「あの意地悪なデヴィッドがデヴィと偽って、マリアンナ様の側にべったりくっついているのを見た時には、貴方の狙いを垣間見た気がしたわ。マリアンナ様、この人は油断大敵の策士なのですわよ。それも相当しつこいのですから、お気をつけあそばせ」


 二人の幼馴染が、ポンポンと言葉をやりとりする仲の良い様子にマリアンナは目を白黒させた。


(デヴィッド様の秘密もわかったし、話し相手という名目も早々に解消されるでしょうね。そうなると公爵家を出て行かねばならないわね)


 マリアンナは二人の会話を聞きながら、今後の身の振り方について考えていた。

 学院卒業までまだ一年はある。とりあえず寮に戻ろう。



「このままでは、女性の姿のままマリアンナ様に抱きついたり、抱き締めたり、今でも過激な行動が度を越してしまいそうでしてので、ジェイムス様に相談しましたのよ。

 デヴィッド様はともかくマリアンナ様にとって、異性との過剰なふれあいは誤解の素になりますめしょう。しかも男装のデヴィッド様はジェイムス様とそっくりですからね!

 諸々の誤解解消のために、お二人で話し合うべきですわ」



 デヴィッドとマリアンナは馬車の中だった。


「騙していて悪かった。ただマリアンナと仲良くなりたかったんだ。普通に接してたら君はきっと壁を作るだろうから、いっそ女性として接したら警戒されなくて済むだろうって家族が言ったんだよ。 父上も兄達も僕のことに気を回し過ぎでね」


「デヴィッド様は皆様に愛されていらっしゃるんですね」


「今回のこと、オディール子爵家を助けて欲しいと父上に願い出たのは僕なんだ。

 たまたま父上と子爵が同窓であったことから、父上もすぐに了承してくれた。

 マリアンナの力になって守りたかったから、策を弄して女装してまで、君を我が家に連れてきてしまった。騙していたことで気を悪くしていたら申し訳ない」


 デヴィッドは頭を下げた。マリアンナは慌てて、気を悪くなどしていないしむしろ感謝している、女装にもきっと理由があってのことだと理解している、と真面目に答えた。それに。


「女性姿のデヴィッド様は本当にお綺麗で、わたくしのような身分の者にも優しく接してくださいました。お近くでご一緒する時間を過ごせてとても嬉しく思います。

 これで話し相手は不要になりましたね。今までありがとうございました」


 マリアンナの方こそお礼を述べると頭を下げた。


 デヴィッドは下を向いたマリアンナの顎に手をかけると、上を向かせてマリアンナを見つめた。


「そういう気遣いと遠慮はいらないよ。僕はもっと君と親しくなりたいし、僕の話しを聞いて欲しいと思ってるから、話し相手は続けて欲しい」


 マリアンナは真っ赤になった。

「デヴィッド様、女性に気軽に触れられると、相手は誤解しますからお戯れはおやめくださいね」

と、顎に添えられたデヴィッドの手をそっと外した。


「全く君は手強いな」とデヴィッドは微笑んだ。

 


 

お読みいただきありがとうございます。


2025/2改稿

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