ここから始まる新生活?
「これくださぁい!」
元気な子供の声が聞こえる。小学校に入って間もない様に見える女の子の手には可愛いキャラクターの書かれた小さいお菓子が3つ
「いらっしゃい!いつもありがとうねぇ30円です。数えられるかな?」
そうすると女の子は首元にぶら下げた可愛いがまぐちのお財布から10円玉を三枚取り出し。
「かずもばっちりかぞえられますっ!」と鼻息を荒くアピールしてくる。
「はい丁度頂きます。えらいねぇ買い物ができるなんてもう立派な大人だ」
赤ん坊の頃から大きくなるのを見てきた子が買い物できる年になるなんて年を取って嬉しいんだか残念なんだか....
閑静な住宅街の傍らにある桐谷米穀店を営む桐谷 麦は今年で30代半ば
高齢だった両親から引き継いだこの店も地域に愛されているお蔭か経営も苦しくなく出来ている。
そんなある日家で寝ていると轟音と共に家が揺れ始めた。
「なんだ!?こんな揺れ今まで感じたこともないぞ!!!」
焦って身の回りを確かめようとした時、ズズン!という地鳴りの様なものが聞こえた後身体が浮くような感覚と激しい衝撃に気を失ってしまった。
遠のく意識の中で光を感じたのは気のせいではなかったと思う。ある意味平坦で穏やかだった俺の日々はここで世界ごとがらっと変わるなんて思いもしなかった。
体中に打ち付けた痛みで俺は目が覚めた。
「痛ってぇ...」
周りを見渡すが普段と変わらない俺の家だ。一体何だったんだ...起き上がって窓の外を確認すると見慣れた住宅街ではなく鬱蒼とした森がそこには広がっていた。
元々店があった場所は都会ではないがそれでも住宅街だった、こんな木が生い茂るなんてありえない。
「落ち着け落ち着け...」
家と店の中に何か変わってるところがないか確認しないと...
寝室から出ると普段通りのリビングとキッチンがある。元々家族で住んでいた家兼店だから他にも部屋がいくつかあるが特に問題はなさそうだ。
店の方に出ると昨日まであった店の商品がすべてなくなっている。あれだけあった駄菓子達や米を含めた穀物が一切無くなっている。
「なんだってんだ...きれいさっぱり無くなってんな...」
とんだ泥棒もいたもんだと思ったところでレジを置いてあるカウンターに一つの紙が置いてあった。
内容を確認しようと紙を持った瞬間紙が光り輝き自分の身体を包み込んだ。
眩しい光に耐えながら目を開けるとそこには何もない白い空間、そしてその先にはこれまた真っ白な衣服を身に纏う存在が一つ
「桐谷様、この度は混乱を招く事態を起こしてしまい申し訳ございません。」
中性的な声と容姿をした存在は初めに謝罪をすると今の状況を説明してくれた。
「私は世界を管理する存在、想像しやすい言い方ですと神様に値する者です。」と前置きを置くと
「先日桐谷様のお宅を中心とした場所に世界の歪みが出来てしまいそのまま消滅してしまう所を急いで回収したという次第です。」
頭には?が出っぱなしだがそれが本当なら俺は死んでしまったのだろうか。
「いえ、桐谷様はまだご逝去されておりません。回収が間に合いましたので御身体と激しい混乱に陥らないようにと御宅を設置し起きられるのを待っておりました。」
そこまでしてもらうとは...もしかして原因は管理する貴方達側にあったとか...?
「はい、おっしゃる通りでございます、地球を管理する者が不手際を行いまして地球上にいくつもの歪みを生んでしまいました。」
なるほど昨日の地響きはその音か!
「不幸中の幸いと言ってしまえば桐谷様に失礼になってしまいますが、地球上に起きた歪みはほとんどが海上や山に出ており被害がないと思われたのですが、最後の歪みが桐谷様の御宅に出てしまったという次第でございます。」
だからここまで低姿勢で対応してもらってるんだな。でもそうなるとさっきまで俺がいたところは...?
「ここからは提案となります、大変申し訳ないながら地球上から一旦消滅しかけてしまった桐谷様を地球にお戻しすることが非常に困難でして...」
非常に困難って...ちなみにどれだけのモノか聞いてみても?
「理を曲げてしまうので...そうですね...一番被害が少なく済む方法でも恐らく桐谷様が住んでいらした御国の半分が消滅してしまうかと...」
それは...俺一人返すために途方もない数の人が犠牲になってしまうなんて流石に受容できないですね。
「それでなんですが、私が管理している世界に来ていただけないでしょうか。」
だからあなたが来られてたんですね。そう考えるとスッと納得できました。
「おっしゃる通りでございます。私が管理している世界は端的に言わせていただきますと剣と魔法のファンタジー世界が一番近いかと思います。」
ファンタジー世界かぁ...それだったらモンスターとかがいたら俺にはひとたまりもないな...
「それに関しましてはこちらからお詫びとして幾つかの能力を差し上げますので、余程の事がない限りは寿命を全うできるかと思います。」
そうですか、それなら安心かな?その方向でお願いします。
「私共が言うのもなんですが、良く落ち着いていらっしゃいますね?ここに来る人は大抵取り乱す方が多いんですが...」
自分が喋ってないのに意思疎通ができてる時点で自身の許容量を超える存在なのはわかっていますので...
「そうですか...大変失礼しました。最後になりますがこちらの世界に降り立ちますと私共からは干渉できなくなってしまいます。こちらの世界での生活を楽しんでいただけますと幸いです。」
そう言うとまた光が降り注ぎ気が付くとさっきまで立っていたレジカウンターの前に戻っていた。
「なんというか凄い体験だったな...ここはもう新しい世界なのか...変わったところはなさそうだけど...」
するとカウンターに置いてあった紙に文字が刻まれている事に気付く
「なになに...桐谷様へ付与しました能力の説明書っと」
紙には俺につけられた能力の内容が書かれていた。大きく分けて4個ほどあるらしい。
自動翻訳 ギフトショップ 神技結界 多機能インベントリの4つだ。まぁ翻訳に関してはわかりやすいだろう後の三つはなかなかの大層な物だった。
ギフトショップとは俺がこれまでやってきていた米穀店の物や元の世界の物を自由に発注して仕入れられるということらしい無料ではないがこれまでと同じような店を続けられるっていうのはありがたいことだな。
ショップにはレベルがあって今はある程度の制限がかかった状態だな。仕入れられるものが限られている。
神技結界は場所や人を指定してその者に有害なものや指定したものを出入り叉は触れたり出来なくなるという代物との事だ。まぁ何が起こるか分からないからなシンプルにこいつは有難い。
多機能インベントリは店を営む者からしたら頭が上がらないくらい有難いもので、物品を別空間に保管できるだけでなく数や質等で整理整頓できるようになっていた。
更にはショップから直接インベントリに置くこともできるので一々場所を取らなくても済むという事だ、遠出や移動に物が嵩張らないのは楽で助かる。
そんな説明の後「お話しさせて頂いた上で武力や権力等の力を欲していない様にお見受けしましたのでこちらを送らせていただきました。
その他も潜在能力として引き上げておりますのでご自由にこの世界をお楽しみください。」と書かれていた。
「確かに求めていなかったけど...まぁ考えても無駄かなぁ」
相手は理解のその先を行くような存在なんだからあれこれ考えても仕方ないな。