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初めまして、おはようございますこんにちはこんばんは。ジュゴンもちと申します。
異世界転生モノを執筆するのは初めてなのでドキドキです。
どうか完成まで頑張りたいと思いますので、最後までお付き合い頂けますと嬉しい限りです。
春の温かな日差しに包まれる中、ルーレシアス王国の王女として一人の赤子が生を受けた。髪も瞳もルビーのような赤い色。
名はラビル・ルーレシアス。
「まぁ、なんて可愛らしい子なのかしら!」
「ああ、本当に可愛らしい……ビリアス。妹をちゃんと可愛がってやるのだよ?」
「うん、わかってるよ。お父様」
この新たな家族の一員が増えて微笑み合う肖像画は、今も長い廊下の豪華な額縁に収められて飾られている。
時折、お母様やお父様がこの肖像画を見つめてよく微笑み合っているのを王城内で知らぬ者は居ない。
そんなこんなで誕生から早10年。
心優しい両親と、不器用ながらも優しい兄である第一王子のビリアスに愛される平和な日々を送っていた。
平和で穏やかで幸せではあるけれど、最近ふと思う事があった。
時折、王城の外から聞こえる賑やかな声に一度も城を出た事がないのを退屈に思うようになっていたのだ。
ぼんやりと自室から窓の外を眺めていると、ちょうど馬車に手荷物を乗せていた兄ビリアスの姿が目に入り、ラビルは駆け出していく。背後でメイドが注意する声は聞こえないフリだ。
「お兄様! どこかお出かけするの?」
「……ああ。今日はフィラスの家で約束がある」
「そう……。あ! じゃあ、お兄様。明日のご用事は、」
「ラビル。ビリアスは今から親交関係を広げるのが大切な事なんだよ。分かってくれるね?」
いつも通り言葉少ない兄に言葉を重ねようとした矢先、いつの間にか近くに来ていた父の僅かに困ったような声に続きは呑み込む。
「……はい、お父様」
「うん、良い子だ。じゃあ、行こうか、ビリアス」
「はい。……ラビル」
「お兄様? 何か忘れ物でもーー!」
「帰ったら、また今日の‘お話’するから」
「お兄様……。うん、待ってるから早く帰ってきてね!」
馬車に乗る直前、くしゃりと軽く髪を撫でてビリアスはふわりと微笑む。その笑みにラビルも自然と微笑みを返す。
緩く振っていた手は馬車が見えなくなったところで、ゆっくりと降ろす。
(やっぱり、お兄様は優しいなぁ)
2つ上の兄であるビリアスは昔ほどラビルと共に過ごす時間はなくなっていた。
ルーレシアスは小国とはいえ、第一王子であるビリアスはいずれ国王となる身だ。
その為に今の内から交友関係を広げておく為に、公爵家達の子息や婚約者候補とのお茶会に出向いたりと、日中は王城に居ない方が多くなった。
昔からあまり口数は多くなく分かりにくい兄ではあるが、城内に居る時は本を読んでくれたり、外の話を聞かせてくれる。
妹であるラビルを大切に思ってくれているのは分かっていたから、ラビルは兄が大好きだった。
また王城内にはベテランといったメイドや執事しかおらず、歳の近い子は居らず兄が居ないと話し相手が居なくて退屈な日々。
*
そんなある日のことだった。
(はぁ……今日はお兄様もいないし、お父様もお母様もお仕事で退屈だなぁ)
いつものように自室の椅子へ腰掛けて、中身の無くなったカップを持て余してぼんやりと窓の外を眺めていた時、ふと違和感に気付く。
(……あれ? あそこの壁、なんか微妙に歪んでる?)
中庭で慌ただしく物干し竿から手慣れた動きで洗濯物を片していくベテランのメイドを視界の隅に捉えながらも、じっと一か所を凝視する。
しかし、窓を挟んで距離があるからかその場所はよく見えない。
(うーん、気になる。ちょっとだけ見に行ってみようかな)
思い立ったが吉日、とばかりにラビルは周囲に人が居ないのを目視で確認して窓から庭へ出た。
先程まで忙しなく洗濯物を片していたベテランメイドはさすがベテラン、既に全て回収し終えたらしく姿はない。
中庭の目立たない場所ではあるが、確かにそこは微妙に境目が他とは違う気がする。
その場所へ近付いてそっと手で触れると、ガラガラと壁の一部が音を立てて崩れてしまった。咄嗟の出来事に動揺して、すぐ周囲へと視線を走らせるがちょうどメイド達は夕飯の支度の時間だからか、近くには誰も居ない。
ホッと安心してもう一度、その場所を見ると子供の1人くらいは通り抜け出来るような穴が出来ていた。
(……そういえば、先日に激しい嵐があったからその影響かしら?)
基本的に天候が穏やかな日の多いルーレシアス王国だが、年に数回だけは激しい嵐に襲われる日がある。両親や兄は嵐を嫌っていたが、ラビルは少し違った。
もちろんルーレシアス王国が誇る美しい花々が強風や豪雨で散らされてしまうのはとても悲しいし、激しく窓を叩く音は恐ろしい。けれど、嵐の時だけは多忙な両親も兄も城内に居てくれるのだ。
その時だけは家族全員で穏やかな時を過ごせる。だから、ラビルは嵐がそこまで嫌いにはなれなかった。
どうやら今回の嵐はちょっとしたイタズラを残していたようだ。
穴の外から僅かに聞こえるのは城のすぐ近くにある王都ルーレンからの賑やかな声。
恐らくこんなチャンスはもう無いだろう。城に仕える騎士たちは巡回も厳しく、虫の一匹たるもの城内には入れないという完璧ぶりだ。
今、こうして穴の第一発見者となったこの瞬間でなければ翌日か、早ければ今日にはもうこの穴は塞がってしまうだろう。悩む時間などない。
(……ちょ、ちょっとだけならいいよね?)
少しばかり自分に言い聞かせるようにラビルはその穴へと飛び込んだのだった。
*
道に迷うのではと思っていたラビルだったが、王都ルーレンまでは一本道で思っていたよりもすぐに到着できた。
「すごい……ここが王都ルーレンなんだ!」
城内にも多くの人が居たがそれはメイドや執事、騎士達と城に仕える者達。誰もが子供とはいえ、王族であるラビルには頭を下げて礼儀正しく接する。
もちろん子供ながらにそれが仕える者達としての礼儀だとは分かっているが、それが少し寂しかった。近くには大勢の人が居るのに寂しい、と。
けれど、ここは違う。
多くの人が自分の意思で歩いて、話していて、何よりも表情が活き活きとしている。大人も子供も、皆が楽しそうだった。
初めて目にしたその光景はただただ、ラビルの視線と思考を一人占めした。
だからこそ、気付けなかった。
知らず知らずのうちに市井の賑わいに夢中になっていたせいで、その賑わいの中心から遠ざかってきているという事に。
ラビルがハッとして周囲を見渡す頃には視界に入ったのは、覆い茂る緑ばかり。
そこでふと以前、父が言っていた言葉を思い出す。
『いいかい、ラビル。王都は自然で溢れていて食糧などには困らないが、森の中は危険だから絶対に一人では行かないようにな。……まぁ、城の外にはまだ当分出ないだろうから問題ないか』
なんて朗らかに笑っていらしたお父様、ごめんなさい。今絶賛その森の中にいます。
泣きだしたい気持ちを必死に堪えて、自分自身を奮い立たせる為にもパシッと自分の両手で両頬を叩く。
「だ、大丈夫よ、ラビル。きっと出られるわ。来た道を戻ればいいだけなのだから!」
そうして気合いを入れて歩みを進めたがもはや、どのくらいの時間が過ぎたのか分からない。気が付けば真上にあったはずの太陽が沈みかけていた。
「……どうしよう、全然分からない。……わたし、ずっとこの森から出られないのかな……」
気合いを入れた筈なのに、朱色の瞳からじわりと何か熱いものが込み上げてくる。
「ううん、ダメ……泣いたらダメよ、ラビル!」
必死に涙を堪えようと真上を向いた瞬間、草むらがガサガサっと大きく揺れた。
(な、何か……居る……?)
草むらが揺れる音が近づいて来る。何かがこちらに向かってきているのだ。
(ど、どうしよう……怖い! お父様、お母様……お兄様!)
前も後ろもあるのは緑ばかりで、どちらへ行けば城へ戻れるのかも分からない。けれど、近付いてくる音は止まらない。意を決してギュッと瞳を強く閉じた、その時。
「あれ? 君、こんな所で何してるんだい?」
固く閉じた瞳を恐る恐ると開けば、目の前に立っていたのは太陽を反射させたかのような美しい金の髪と、宝石ベニトアイトのような
濃い青の瞳を持った少年が居た。
その美しい碧眼と視界が重なった瞬間、まるでおとぎ話のワンシーンかのような映像が頭の中で溢れだす。
『――ちゃん、僕は……君のことが、――」
「君、本当に大丈夫? 具合が悪いのかい?」
脳内で聞こえた声色と、目の前の少年の声色は全然違う。それなのに何故か声が重複して聞こえた。
知らない筈なのに、どこかで聞いたような懐かしくて安心する声。
「……あの時、なんて言ったの? ――……くん」
「……え? 今の名前……あっ、ちょ、危ない!」
ふっとラビルの意識が遠のく。背中に温かな体温を感じながら。
* * *
本当に最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます……!!
まだまだ不慣れで執筆速度も遅い人間ですが、完成までお付き合い頂けますと嬉しいです。
また評価やコメントなども貰えましたら、執筆の活力になりますので気が向いたぜって方は下さるととても嬉しいです。
それではここまでのお付き合い、ありがとうございました。次回の更新をお待ち頂けたら嬉しいです。




