09. 第2王子の帰還
「ソフィアさん、ダンスパーティ参加されますか?私は婚約者と行く予定なんです。何を着て行こうかな」
「第2王子の帰国パーティも兼ねるみたいですし、楽しみですね。」
最近の淑女コースの学生の話題は、冬至祭の学内ダンスパーティで持ちきりだ。
ランチタイムで友人たちが、うきうきそわそわと、ダンスパーティに想いを馳せている。
グリュックス王国の冬は、厳しい寒さに加え日照時間も短くなるから、皆気分が沈みがちになる。
なので、パーティなどの娯楽に貪欲で、王立学園では毎年、冬至祭のダンスパーティがすごい盛り上がりをみせるらしい。
しかも、今年は留学していた第2王子の帰国パーティも兼ねるとのことで、令嬢たちがざわついている。
第2王子のフィリップ殿下は確か、マークスと同い年だったっけ。婚約者が居ないんだよな、確か。
学園の令嬢達は主に、「あわよくば婚約者の席に」派と、「王族はあくまで観賞用」派と、「あわよくば狙いの令嬢のバトルが見たい」派に分かれている。
ちなみに、リリーさんは言うまでもなく、「あわよくば狙いの令嬢のバトルが見たい」派で、他の友人達は「王族は観賞用」派だ。
「うーん。ご馳走が出るらしいので、参加はしたいんですけど。ダンスは得意じゃ無いんですよね。相手もいないですし。」
そう、ダンスパーティの参加条件は「王立学園の学生であること」「パートナーを連れてくること」の2つなのだ。
何このリア充養成パーティ。けっ。
でも、聞いた話によると仔牛肉や牛肉、アヒル肉のローストや、アップルパイにレモンパイも出るらしい。
子爵家の食卓はメイン料理の基本は豚肉と乳製品だから、久しぶりに他のお肉食べたいし、アップルパイのみならずレモンパイも出るらしいし。
しかもしかも、バターミルク粥も出るらしいし。うぅぅ、食べたい。でも、相手を見つけるのめんどくさい…。
「私はまだ婚約者が居ないので、兄と参加する予定ですよ。多分、ダンスパーティでは面白い見せ物もありそうですし。」
にこにこ笑いながらリリーさんが視線を投げた先には、最早日常になりつつある、アンさんと愉快な仲間たちのキャッキャうふふランチ会だ。
「そうなんですよ。私、ダンスパーティって初めてだから緊張しちゃうなー。でも、憧れてたので、参加できたらとっても嬉しいですぅー」
「アン嬢。私で良ければ、ダンスの練習をさせて頂きますよ。」
「あ、僕も、時間に融通きかせやすいので。」
「えー、本当ですか?嬉しい。皆さん親切にしてくれて、私とっても幸せだなぁー。あっニコラス殿下!」
あ、ニコラス殿下にの元に行った。多分、ランチご一緒にとか誘ったんだろうけど、丁重にお断りされてトボトボ帰ってきた。
そしてそれを、愉快な仲間たちが慰めている。
「…相変わらずですね、アンさん。」
「えぇ、あそこまで恋心を隠さないで居られるって凄いですよね。そんなアンさんを見てもめげない殿方たちもすごいですけど。」
最早尊敬の域に達しつつある。すごいなぁ、あのアグレッシブアタック。
「ねぇ、ソフィ。学園のダンスパーティ僕と一緒に行かない?」
帰りの馬車で、唐突にマークスにお誘いを受けた。
「え?マークス、ダンスパーティ苦手じゃなかったっけ?」
毎年、ダンスパーティは何やかんや理由をつけて欠席してるし、社交の場も最低限しか参加しないのに。てっきり今回も欠席かと思ってた。
「うん、ああいう空気は得意じゃ無いんだけどね。気の合う友人とボードゲームしたり書庫で好きなだけ本読んでる方が好きなんだけど。でもフィリップ殿下が帰国するだろう?恐れ多いことだけど、留学前は少し交流があったからさ。久しぶりに話をしたいなって思って。」
「そうだったんだ?そんな繋がりがあったんだ。」
「うん。フィリップ殿下は芸術に秀でているからね。よく2人で装飾や建築について語り合っていたんだ。ボードゲームも得意みたいで、今の所は勝率が五分五分ってとこ。」
へぇ、マークスと勝率が五分五分って、すごい強いんだろうな、フィリップ殿下。
そういえば、マークスは私より芸術に興味があって、よくお母様やお父様と屋敷の内装やなんやかんやについて議論してたな。
私はその辺あまり得意じゃ無い。大まかに好き、普通、苦手とかはあるんだけど、細かいトコロはよくわからない。
正直、王立学園に制服があって助かっている。毎日着る服を考えなくて良いなんて、本当に助かる。
「そっか。私もご馳走食べたかったんだよね。マークスが一緒に行ってくれるなら、私も参加できるな。」
マークスがパートナーになってくれるなら、ダンスパーティのハードルがかなり下がるからなぁ。
皆、婚約者候補を連れてきたり、意中の相手を口説き落として連れてきたり、パートナー選びで恋の駆け引きが繰り広げられるのだ。
その点、身内だったり婚約者を連れて行くのはザ、ベスト、オブ、無難。ありがとうマークス。
「うん。僕も他のご令嬢誘うの、煩わしいからさ、色々と。アン嬢も何とかしてパーティに参加したいらしくて、あちこちに期待を持たせる発言を繰り返してるよ。キープされている令息たちも少なく無いし。僕のこともキープにしようとしたみたいで、何かやたらと上目遣いで話しかけてくるんだよねぇ。ちょっともう面倒くさい。」
あぁー、アンさん。ブレないその姿勢はいいけど、相手ちゃんと見極めた方が良いよー。
「マークスは何で、ご令嬢方に興味がないの?子爵家の将来が心配だわ。」
「興味がないわけじゃなくて、優先度がかなり低いだけだよ。まぁ、ダンスパーティの化粧ゴテゴテ、髪の毛もりもり、何層にも重なるレースのドレスをきた女性は確かに苦手だけどね?僕は今のところ、子爵家の経営補佐させてもらったり、ジャガイモの可能性について議論したり、隣国の文化を学んだり、仲間とボードゲームしたりする方が楽しいんだよ。」
「まぁ、相変わらずだよねー。マークスは。」
「ソフィこそ、ダンスパーティ誰からも誘われなかったの?」
「ちらほら居たけど、断ったわ。よく知らない人とダンスしても楽しくないし、婚約者候補とかそんなめんどくさい話になっても困るし。マークスとだったら楽しくダンスできるし、ご馳走に目が眩んでも非難されたりしないだろうし。」
「まぁ、お互い様だよね。」
「そうよねー。」
◇
「ソフィ、ダンスパーティのドレスどうしましょうか。折角の機会だし新調する?装飾品も見繕わないとね。」
晩ご飯の後、お父様とマークスは書載で経営の話をしに行ったので、久しぶりに母娘で紅茶を楽しんでいたら、お母様がどことなくウキウキしながら切り出してきた。
「お母様の娘時代のドレスをいい感じにリメイクすればいいかなって思っていました。あんまり社交の場に出る機会も無いですし、新調するのも勿体無いかなって。ちょうど、デザインを相談したいと思っていたんですよ。」
「まぁ、ソフィならそう言うと思ったけど、遠慮しなくて良いのよ?最近は収入も余裕があるし、ドレスくらい、全然新調できるのよ。」
「ありがとうございますお母様。もし、どうしても欲しくなったらお願いします。とりあえず今回は、たくさんご馳走を食べてもお腹が目立たないようなデザインで行きたいのですが」
「…ソフィ?学園のダンスパーティに行くのよね?ご馳走目当てなの?」
「大丈夫ですよお母様。淑女コースでダンスの練習もしていますし。ちゃんとダンスも楽しんできます。」
「なら、いいんだけど。じゃぁ、メイド達にいくつかドレスを持ってきてもらって、デザインを相談しましょうか。」
「はい。よろしくね、皆。」
「「「「お任せください!!」」」」
何かすごい勢いでメイド達が部屋を出て行った。
え、何。そんなに皆で気合いれてドレス取りに行かなくても良くない?どうしたの?皆。
「ソフィア様とマークス様がお2人でダンスパーティ。ついにこの日が!この展開だけで、パンのおかわりができるレベルに尊いわー。」
「わかるわー。あの2人、お似合いだと思うのに、なかなか恋に発展しないのよね。」
「まぁ、2人とも恋愛の優先順位低いだけでしょう、でも、この前の収穫祭では楽しそうに踊ってたって情報が入ってるわよ。」
「それ私も聞いた。とりあえず、ソフィア様の魅力を引き出す様にドレスをリメイクして、マークス様を驚かせましょう。」
「「「賛成!!!」」」
「ソフィア様、結構出るところ出てるので、さり気なく引き立てられるといいんだけど。」
「マークス様はゴテゴテした装飾が苦手だって言う情報を執事達から入手したので、シンプルなデザインでさり気ない装飾を。」
「何その情報いつ入手したの偉いわ貴女。久しぶりに腕が鳴るわね。奥様のドレスは基本センスがいいから、リメイクもそんなに難しくないでしょう。」
メイド達がキャッキャ盛り上がりながらドレスを運んでいることも、お父様が気を利かせてマークスを書斎に呼んだことも気付かないまま、その日は夜遅くまで衣装選定が続いたのだった…。
だから、細かい装飾の話とかって、よく分からなくて苦手なんです。ルールのわからない間違い探しをしてる気分になるんです…。
最終的に、メイド達とお母様で細部を詰めると言うことになって、夜更前に解放されたけど。
皆、不甲斐なくてごめんね。あとは任せました…。
◇
冬至祭ダンスパーティ当日。
「ソフィア様、そろそろ準備を始めませんと。」
「え?まだ昼過ぎだけど。パーティは夕方からだし。」
「今から湯あみをして頂いて、お肌のお手入れやお化粧や髪を結い上げたりなど、忙しいんですよ。」
え、そうなの?
「うふふ、皆ソフィをよろしくね。」
「「「お任せください」」」
えー、お母様。ちょっと止めて欲しかったなぁ。
お父様とマークスに救いを求める眼差しを向けても、諦めろと言わんばかりにふるふる首を振られたし…。
あなたたち、メイドたちの気迫に圧されているでしょう…。
なんか、ドナドナされる子羊の気持ちがわかるなぁ。
「お待たせ、マークス。」
ぐったりしながら準備を終えた私は、居間で寛いでいるマークスに声をかけた。
いや、本当に疲れた。早くご馳走を食べたい。
ギブミーお肉。お腹すいた。
メイド達に大変身させられた私を見て、お母様とお父様は目をうるうるさせている。
最終的に、お母様達がリメイクした淡い緑色のドレスを、白いスカートの上に被せて着ることになった。ドレスの前丈が大きく開いているので、白いスカートとの切り替えが可愛らしい。腰はリボンで絞られており、胸元も白のフリルで覆われている。
こんな可愛らしいデザイン、前世では着ることがなかったなぁ。ゴテゴテしすぎてなくていい感じ。
化粧は目元と唇に薄く施しただけで、いい香りのするハーブの精油を使って髪を結い上げ、ドレスと同色のレースのリボンでまとめてもらった。
すごいなぁ、15歳のぴちぴちの肌。ベースメイクをしなくても良いなんて。
「うん。とっても似合うわソフィ。貴女の髪色とドレスの色が合っていて、とても可愛いわ。」
「ソフィも素敵な淑女になったな。感慨深いよ。マークス、今日はソフィをちゃんとエスコートするんだぞ。」
「えっと、ソフィ?何か別人みたいだ。すごく似合っているよ。」
デザインにこだわりのあるマークスが褒めるってことは、本当に似合っているんだろう。
「ありがとう。今日はよろしくね、マークス」
ふわっと笑いながら促すと、一拍遅れてマークスが腕を差し出してきた。
そっか、エスコートしてくれているのか。マークスにエスコートされるって、なんか変な感じ。
「それじゃぁ、お父様お母様、行ってまいります。」
学園に向かう馬車に乗り込む頃、子爵家は大変なことになっていたらしい。
「貴女達、本当にお疲れ様。凄く似合っていたわ。」
「ありがとうございます奥様。マークス様からお褒めのお言葉を頂いた時は、ガッツポーズしたい気持ちを抑えるのが大変でした。」
「あら、抑えなくても良かったのに。」
「いえいえ、マークス様とソフィア様の時間を邪魔するわけにはいきませんもの。」
「ソフィア様をエスコートするマークス様。尊い。尊すぎて天に召されそう。」
「マークス様も少し見惚れていましたよね?頑張った甲斐がありました。」
「あのドレスリメイクで余った布をリボンにする案最高に良かったわ。本当にお似合いだった。」
「あら、それを言うならドレスの前丈を大胆に開ける案を思いついたのも、最の高よ」
「うふふ、あの子達、パーティを楽しんできてくれるかしら。」
「あんなに可愛くて綺麗になったソフィは他の男に狙われないだろうか。頼むよマークス」
◇
「みんなに紹介しよう。私の弟で、先日留学から帰ってきたフィリップだ。」
「フィリップ=フォン=グリュックスです。来年から、王立学園に復学する予定なんだ。よろしくね」
ダンスパーティは、第2王子殿下の帰国の挨拶から始まった。
あれが第2王子か。ニコラス殿下と同じシルバーブロンドの髪にアメジストの目で、やはり美青年。
ニコラス殿下に比べて、どちらかと言えば「可愛い系」の顔立ちをしている。
…そしてあちこちで「あわよくば」狙いの令嬢たちが、話す機会をうかがっている。
「今日が冬至で暗くて寒い冬も折り返し地点になる。皆が春まで災禍無く過ごせるように祈っているよ。さぁ、今夜はダンスパーティを大いに楽しんでくれ。」
ニコラス殿下の口上と共に冬至祭のダンスパーティが幕を開けた。
各々歓談したり、冬至祭のご馳走に舌鼓を打ったり、思い思いに楽しんでいる。
「さぁ、思いっきり食べるぞー」
「ソフィ、ドレスを汚さないようにほどほどにね。」
マークスが頬ましそうな顔をしながら嗜めてくる。
「何よマークス、その顔。何か変なものついてる?」
「ううん。ソフィはやっぱりソフィだなって、安心しただけ。」
「変なの。楽団の演奏が始まったら、一緒に踊ってね。」
「うん、もちろん。ダンスは久しぶりだなぁ。足踏んじゃったらごめんね。」
「えー、いやだ。ちゃんと踏まないように努力してね。」
かくして色んな思惑と下心の渦巻く、ダンスパーティが始まった。
そろそろストック切れてきたので、次からは隔日更新となります。すみません。
皆様のブクマ&評価が励みになっています。どうもありがとうございます。
最近の子爵家使用人の間で「ソフィア様とマークス様を見守る会」が発足しているようです。




