表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/33

04. ジャガイモ(仮)

ブクマ登録ありがとうございます。とても励みになります。


5月1日、少し修正しました。

「ねぇ、ソフィ。どうしたの?その花。花を愛でる趣味なんてあったっけ?」


帰りの馬車でマークスが物珍しげに、ジャガイモの花(仮)を眺めている。

お茶会の後マリアンヌ様に頼んで、少し分けてもらったのだ。もちろん根っこごと。


「マークス。私、食べられない花に興味はないわ。キレイに咲いているのを愛でて、その後に恵みを美味しく頂くまでが私流の花の楽しみ方よ」

そう、食べられない花にさして興味はない。「あ、キレイだな、フフ」って一瞬思って終わりだ。

その点ハーブはキレイだし、いい匂いがするし、お茶にすると美味しいし、いろんな効能があるし。まさに完璧。花のあるべき姿と言っても過言ではない。


「これ、もしかしたら根っこが食べられるかもしれないの。今日学園で見つけて、マリアンヌ様にお願いして分けてもらったのよ」


「マリアンヌ様?王太子殿下の婚約者の?入学式早々、お茶会に呼ばれたり、謎の花をもらってきたり、相変わらず行動力がすごいな。ソフィは」


「あ、お茶会で余ったアップルパイ、お土産に包んでもらったよ。晩ご飯の後にみんなで食べよう」

ホールで用意されたアップルパイ、余った分は包んでお土産に持たせてもらった。マークスもお母様も、アップルパイが大好物だから喜んでくれるだろう。


「うーん。突っ込みたいところが色々あるけど、ソフィのことだから不敬なことをしたわけじゃないと思うし、まぁいいか。アップルパイかぁ。久しぶり。楽しみだなぁ」


多分、もうマークスの頭の中はアップルパイ一色だ。いきなり王太子殿下とその婚約者様のお茶会に出向いて花とアップルパイを貰ってくるなんて、普通もっと問い質す案件じゃなかろうか。まぁ、説明もしづらいし、信頼してくれてる証だろうからいいけどね。




「ねぇ、お父様お母様。今日学園で分けてもらった花を調べてみたらね、新大陸から持ち帰られた植物みたいで根っこが食べられるかもしれないの。」


夕食後、アップルパイと紅茶を幸せそうに頬張っている両親とマークスに報告してみた。


帰宅後、書庫にこもって交易品や植物についての文献を調べていたら、どうやらこの花は予想どおり、新大陸から渡ってきたものだということがわかった。

スペン王国が新大陸から持ち帰り、今ではフラン王宮やスペン王宮で観賞用の花として愛でられているらしい。

新大陸から持ち帰られた観賞用の花。これ、やっぱり根っこはあのジャガイモじゃない?見た目もそれっぽいし。


ジャガイモ。蒸して食べても良し、シチューに入れてもよし、お肉と一緒に炒めて食べてもよし。フライドポテトにしたら最高すぎて一度食べたら止まらなくなる。主菜にも副菜にもにもなれる。保存も効くし、食卓の万能戦士だ。

寒さに強く、痩せた土地でもよく育つ。根の部分をを食べるので、嵐が来ても虫が大量発生しても、鳥や動物が畑を荒らしにきても、影響を受けにくい。

炭水化物が豊富で主食ポジションに立てるが、実はビタミンCも多い。上手く行けば、収穫高が上がるだけじゃなく、領民の栄養状態が改善するだろう。


もしこれが本当にジャガイモなら、痩せた土地が多い寒冷気候のグリュックス王国の食糧事情を大きく変えるはず。

事実、ジャガイモが食べられるって分かってから、世界の食事文化も農業文化も大きく変わって、庶民のお腹を満たしてくれたんだ。まさにジャガイモは人類の救世主。新大陸から伝わってからは、しばらく観賞用として利用されていたらしいけど。もったいない。


「相変わらずソフィの好奇心はすざましいね。今日学園で見つけて、帰ってきてからもうそこまで調べたのかい」

ひと通り見解を述べたら、お父様が感心しながら褒めてくれた。


いや、確かに持って帰って文献調べたけど、半分以上前世知識なんです…。


「ソフィ。とりあえずその花の根のポテンシャルは分かったけど、未知の植物を食べるのはかなり注意が必要よ?ハーブだって、毒性のあるものだってあるし、組み合わせや体調によっては無毒のものも有毒になることがあるんだから。好奇心のまま食べて、毒がありましたなんて目も当てられないわ」

流石はお母様。冷静かつ至極真っ当な意見をぶつけてくる。


確かに、未知の植物をいきなり食べるのは危険だ。未知じゃなくても、下処理を間違えたりすると毒抜きができない植物もたくさんある。

ジャガイモだって、芽の部分を食べてしまうと中毒になって腹痛と下痢の症状が出るらしいし。

ジャガイモじゃなかった場合、もっと致死性の高い毒が含まれている可能性もある。


「まぁ、まずは動物に食べさせてみて、徐々に様子を見ながら人で試していくしかないね。」


「まぁ、その辺はハーブティー事業始めるときに培ったノウハウがあるから、大丈夫だよマークス。ソフィ、まずはお父様がお母様とその根に毒があるかどうか調べるよ。毒がないことがわかったら、今度は調理法、作付け方法、どれくらいの耕作地が必要か、収穫時期など検討することはたくさんある」

さすが、領民ファーストなお父様。領地の食料備蓄が少ない事を気にして、領民のお腹を満たすことを第一に考えてくれる領主様。普段ゆるふわ系貴族だけど、こういう時は頭が柔軟で、話を早く進めてくれるので助かる。

…口の端についてるアップルパイのカスがなければ、文句なしに格好よかったんだけどな。


「はい。まずはお父様とお母様に任せます。調理方法については、その後に料理長と一緒に考えてみるよ」

「あ、ソフィ。それ僕も一緒に考えたいな。庶民向けだけじゃなく、貴族向けメニューを考えたら、普及するときに役に立つと思うんだ。」

「うん。ありがとうマークス。」


「ソフィもマークスも頼もしいわね。確かに、主食を麦だけに頼るのは良くないなって思ってたのよ。ほら、毎年嵐や虫害や鳥害に悩まされているでしょう?そのせいで思うように収穫高が伸びなくて、このままだとお母様、にっくき鳥と虫を全部焼き払う政策を遂行しかねなかったわ」


…お母様。そんなに虫と鳥に恨みがあったんですか。さらりと怖いことを言わないでほしい。まぁ、奴らのせいで結構な量の麦を持っていかれてるから、恨む気持ちはわかるけど。

そしてさりげなく(もないけど)、お父様の口の端を拭いてあげている。

恋愛結婚を経ておしどり夫婦として両親だが、今でもとても仲が良い。たまに、見ていて恥ずかしくなってくるくらいに。


「ありがとうマリア。お礼に私のパイの最後の一口をあげよう」

「あら、よろしいんですの?嬉しいですわ」

「うん。ほら、あーん」


あ、やばい。両親のラブラブスイッチが入った。

同じくお察ししたマークスと目配せをして、私たちは無言でさっさとお茶を流し込んで席を立つことに決めた。



「ソフィ。とりあえず、その花の根に毒は無かったみたいだよ。だけど芽が出ているところは危険かもって報告が上がってる」


学園が始まって1週間、朝食の席でお父様に報告された。

調べるの早いな。ていうか芽の毒まで何となく嗅ぎ分けるって、どういう方法で誰が調べているんだろう。ちょっと気になる。そのうち教えてくれないかな。


「ありがとうお父様お母様。じゃぁ、休日にでも試食したいから、厨房と料理人を借りても良い?」


「あらソフィ。行動が早いわね。もちろん良いわよ。子爵領の商会長(うちの実家)前子爵(お父様の実家)の親戚も呼んで試食パーティもしてみる?」


「え、お母様いきなり規模が大きすぎませんか?」


「こういうのは貴族だけじゃなくて商人の意見を聞いた方がいいのよ。それに意見は多い方が助かるし。ねぇ、あなた。どうかしら」


「うん、いいんじゃないかな。最近なかなか皆んなで集まる機会もなかったし。ちょうど良い機会だから、次の休暇で領地に戻ろうか。」


子爵家の領地は、ここ王都の別宅から馬車で1日ほどかかる。

王国貴族のほとんどは、社交シーズンに王都(とその周辺)にある別宅に住み、社交の場に顔を出して情報交換をしたり、宮廷での仕事をしながら領地経営をこなしてる。

わざわざ王都に来なくても良いに、とは思うけど。社交の場で情報交換をするのは大事だし、お父様もちょくちょく宮廷に足を運んでいるみたいだし。いわゆる、フルタイム勤務ではないみたいだけど。

まぁ、子爵家(うち)は弱小貴族だし、宮廷で派閥聞かせるよりは必要最低限の出仕をしてあとは領民ファーストな経営をするのが最優先だからな。

お父様とお母様は、よく社交シーズンも泊まりがけで領地視察に行っているし、私も何度かついて行ったことがある。

マークスも必要に応じて学園を休んで、視察について行ってるし。


「え、ちょっと待ってください。そんなに大掛かりになるなんて。準備とか含めたら2、3日ほど学園休まないとですし。そもそもそんなにジャガイモ(仮)ないですよ」


慌てて言うも、ここで止まる両親ではない。


「うん、もうちょっと分けてきてもらったりできないかなぁ。あと、確かうちの花壇にも少し植えてあった気がするから、全部引っこ抜いて試食しちゃおう。」


簡単に言ってくれるなぁぁぁ!

高位貴族専用サロンに咲いている、最近流行りっぽいお花だぞ。そんなホイホイくれるかなぁ…。

ていうか、うちの花壇にもあったっけそんなの。気づかなかったよ(そもそも花に興味がないから仕方がない)。


「ソフィ、事情を話せば王太子殿かもわかってくれるかもしれない。僕も一緒にお願いに行ってあげるから、頑張ろう」


もうこうなったら両親は止められない。こういう俊敏さと柔軟さと、ちょっぴり強引なところがあるから、事業拡大ができて領地経営もうまく行っているんだろうけど。


とりあえず、マークスの言葉に甘えて、明日一緒にお願いに行くしかないか…。



結論から言うと、ニコラス殿下とマリアンヌ様は快く花を分けてくれた。


「この花の根が食べられるかもしれない?着眼点が面白いなソフィア嬢。マークス殿、ソフィア嬢、上手くいったら私にも食べさせてくれ。」

「まぁ、キレイなだけじゃなくて、そんな可能性を秘めていたなんて。全部は流石に無理ですけど、これくらいならお渡しできますよ」



ちなみに、我が家の花壇を観察してみたら、確かにジャガイモの花が植えられていた。お父様が全部使っていいって言ってくれたけど、とりあえず7割ほど引っこ抜かせてもらう。庭師のおじさんがちょっと悲しそうな顔をしていたのが少し心苦しい。

マークスと根っこごと採集させてもらっていたら、お母様が空いたスペースにいそいそとハーブを植え始めるし…。もう、庭師のおじさん、遠い目をしちゃってるよ。ていうかさすがお母様。ブレないなぁこの人は。

ごめんね庭師のおじさん。お詫びと言ってはなんだけど、試食パーティに出す料理が決まったらジャガイモ料理を御馳走させてもらうから。せめて心の代わりにお腹を満たしてもらおう。

ジャガイモおいしいですよねぇー。


評価してくれると、とても嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ