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03. お茶会

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ほかほか湯気がのぼるアップルパイ。大きめにカットされたリンゴがサクサクの生地に包まれて、添えられた生クリームと溶け合ってなんとも言えない美味しさを作り出している。


うーん。美味しい。最高。

アップルパイを食べては、口の中を紅茶でさっぱりさせて、またパイを口に運ぶ。


至福。この組み合わせは、罪深いわ。いくらでも食べられちゃいそう。


放課後、ニコラス殿下とマリアンヌ様とのお茶会で、ソフィアは大好物のアップルパイを堪能していた。

ちなみに場所は、学内の高位貴族専用サロン。キレイなお花が咲き誇って太陽の光を浴びながら気持ちよくお茶会を楽しめる場所だ。

よく考えたら、一介の子爵令嬢が入れる場所ではないし、さりげなく人払いもされている。護衛も声が届かない範囲で目を光らせているし、よくよく考えたらトンデモナイ状況に置かれているんだろうけど。とりあえずその辺はあとで考えることにして、今はとりあえず目の前に出されたアップルパイに集中している。


「そんなに美味しそうに食べていただけるなんて、用意した甲斐がありますわ」


優雅に、そして可憐に紅茶を口に運ぶマリアンヌ様の言葉に、ハッとする。

まずい、ちょっと貴族令嬢としてはしたなかったかも。


「すみません。はしなかったですね。つい、美味しくて自分の世界に入ってしまいました」


「いや、マナー的には何も問題なかったし、美味しそうに食べてもらえるのはこちらとしても嬉しいよ」

アップルパイ二切れをペロリと平らげたニコラス殿下がフォローしてくれる。

いや、あなたいつの間にそんなに食べたんですか?さすが王族、優雅な所作だなぁって思ってるうちに、しれっとおかわりしていたんですか。



「ソフィア嬢。今朝の非礼について弁明させてほしいんだが、本題に入って良いかな?」

アップルパイを食べ終えて紅茶のおかわりを頂いていると、ニコラス殿下が話を振ってきた。




この大陸にはいくつかの王国が存在し、小競り合いがあるものの、今は概ね平和に国交を維持させている。

各王国は必要に応じて情報を共有しており、そのひとつに「約50年に一度、ストロベリーブロンドの髪を持ち、平民の血を引く貴族令嬢(だいたい弱小貴族らしい)が現れる。この令嬢が現れると、かなりの確立で高位貴族を巻き込んだ混乱が発生する」というものがあるらしい。

どこの王国に現れるか、例えばA国に現れた後はB国に現れて、という風に法則があるわけでも無く、いきなりぽっと出てきて気づけば混乱を巻き起こしていくんだとか。グリュックス王国は200年ほど前にその令嬢が現れ、当時の王太子殿下や高位子息を次々籠絡。当時の王太子殿下の婚約者だった侯爵令嬢に、無実の罪を着せ婚約破棄騒動を起こした挙句に国外追放し、正妃の座についたらしい。


「その後王妃となった彼女は、政を顧みず贅沢三昧をして国庫を空にし、親族を要職につけ権力を乱用しまくり、王家の歴史に悪女として名を残している。ちなみに国外追放された侯爵令嬢は当時敵国だった隣国の王弟妃になって、国の発展に尽力。我が国は多大な被害を受けたと記録が残ってる」


ふんふん。悪役令嬢もののテンプレヒロインじゃん。王道、オブ、ザ王道ですね。ていうか各国に定期的に現れるストロベリーブロンド令嬢って、もはや天災の類じゃない?

とりあえず、無実の罪で追放された御令嬢が隣国の王族に保護されてよかった。多大な被害って事は何かしら、ざまぁ!をやったんだろう。

あと、それテンプレヒロインも大概だけど、当時の王太子が無能だから起きた悲劇じゃね?簡単にぽっと出の女に誑かされた挙句に婚約者を捨てて、贅沢三昧させるって何なんだ。国庫を空にさせる前に気づけよせめて。国民の血税を無駄なことに使うな馬鹿なのか。


「すべてのストロベリーブロンド令嬢が混乱を起こすわけでは無くて、特に何もせず平凡な貴族女性としての生涯を終える方もいるそうなの。

 それでね、今年の特待生がストロベリーブロンドの髪を持つ子爵令嬢だっていうじゃない?国王陛下に様子を見るように依頼されていたというわけ」

マリアンヌ様が困ったように微笑みながら補足説明をしてくれる。いちいち絵になる人だなぁこの人。


でもそうか。お母様が元平民、ストロベリーブロンドの髪を持つ子爵令嬢(わたし)って明かに怪しいじゃん。

なるほどそれで朝からロックオンされたのね。


「でもいいんですか?そんな重要事項私に教えてしまって。もし私が実は典型的な(ティピカル)ストロベリーブロンド令嬢だったら、どうするんですか?」

もちろん私は王族や高位令息を誑し込むつもりはないし、国を混乱させる災いの元になるつもりはない。でも、もしかしたら最初に上手く尻尾を隠しているだけかもしれないのに、そんなにペラペラと種明かしをしてしまっていいんだろうか。


「うん。完全に警戒を解いているわけではないよ?でも今朝の君の立ち居振る舞いや、言動はまともに見える。アップルパイに夢中になっている間も、貴族令嬢としてのマナーは申し分がなかった。情報共有されているその娘の特徴として、貴族としての礼儀やマナーがなっていない、自分至上主義でお花畑思考で言ってることがちょっとよくわからないっていうのがあるみたいだしね。とりあえずは君を信用するけど、監視…ゴホンっ。警戒は続けさせてもらうよ。」


ニコラス殿下?今、監視って言いました?まぁ、いきなり警戒を完全に解かれても、大丈夫かこの国はってなるからいいけど。一応年頃の娘なんだし、プライベートに踏み込まれすぎることもないでしょう。…多分。きっと。


「特待生になれるほど優秀な令嬢というのも確かですし。我が国の発展のために親交を深めるのも私たちの務めなんですよ。警戒も確かに必要ですが、それ以上に今後の王国の未来について、是非ともお話させていただきたいわ」

「アン。君ほど未来の王妃にふさわしい人はいないよ。でも、優秀な人材との交流も大事だけど、私との時間はあまり減らさないようにしてほしいな」

「まぁ、殿下。もちろんですわ。私としても、殿下との時間はとても大切なんですの。」

「アン。結婚まであと1年半もあるなんて待てないな。本音を言えば、今すぐ君を王宮に攫って共に過ごしたいと考えている」


ニコラス殿下、マリアンヌ様のことをアンって呼んでるんだ。普通に考えたら、マリアンヌ様の愛称ってマリーだと思うんだけど。

あのー、もしもし?話の途中で2人の世界に入らないでもらえます?

ニコラス殿下、マリアンヌ様の手を握って情熱的に見つめている場合じゃないですよ?

マリアンヌ様もうっとりとした顔で見つめ返している場合じゃないですし。仲が良さそうで何よりですが、思い出して本題。

あれ?なんか朝もこんな気持ちになったような…。デジャブ?


…コホン。


「それで、ソフィアさんは淑女コースだけでなく農業コースも受講するんでしょう?どういったことを学びたいと思ってるんですの?」

私の視線と咳払いに気づいたマリアンヌ様が、アップルパイと紅茶のおかわりを侍女に出すよう勧めてから、話を振ってきた。実はもう一切れ食べたいと思ってたのよね。アップルパイ。しかも、さっきよりちょっと小さめにカットしてくれている。さすが、未来の王妃。気遣いが半端ない。

ありがとうマリアンヌ様。これでさっきのイチャイチャは見なかったことにしますね


そう、貴族令嬢は淑女コースと外国語コースを受講することが多いのだ。淑女コースで社交界を渡るために必要な教養やマナーを学び、自領の政策や貿易のために必要であれば、外国語コースで近隣国の言語や文化を学ばなくてはいけない。この淑女コースと外国語コースを履修するだけでかなりの時間と労力が必要となる。しかも、高位貴族であればあるほど、求められるレベルが高くなるので、能力に応じて追加授業を受けたりするらしい。

私の場合、しがない弱小貴族だから社交の場に出る機会はそんなに無いだろうし、淑女コースは最低限の単位が取れる程度に履修して、他の時間を農業コースに使いたいと思っている。外国語は家庭教師に少し教わったし、マークスが履修していて得意なはずだから、家で練習相手に付き合ってもらう程度の知識でいいだろう。別に子爵家(うち)は他国と貿易してるわけでもないしね。



「子爵家の領地は今のところ経営が順調ですが、農業的に厳しい土地なので、十分な食料備蓄があるわけじゃないんです。何かあったとき領民が飢えなくてもいいように、農作物の収穫高を上げる農法や技術、新しい農地開拓する技術、代替作物の知識などを学びたいんです。また、疫病が流行るかもしれないですし。」


数十年前、大陸を襲った恐ろしい疫病。東の国から遊牧民が攻めてきて、何とか撃退できたと思ったら今度は恐ろしい疫病で人が次々死んでいったのだ。

発症したら3日ほどで死に至り、有効な治療法も見つからず大陸の人口の3分の1以上が死んでしまった。当時は食糧不足だったこともあり、体力のない老人や子供だけでなく、若者も飢えて抵抗力が落ち、次々死んでいった。今でこそ、各国はようやく立ち直りつつあるが、また疫病が流行って悲劇が繰り返されるなんてごめんだ。子爵領でも、たくさんの人が亡くなったと聞いている。



「疫病に対抗するためには、食料を行き渡らせて体力をつけさせること、衛生環境を向上させることが大事です。でもまずは、食料備蓄を増やしてお腹を満たせる術を確保して、その後、衛生環境向上について考えて行けたらいいなって思ってます。」

いくら前世知識があるとはいえ、農業に関しては素人なのだ。きちんと学ばなくては。


こう言った事は、いつも家でマークスと、書庫で文献を読み漁って、あーだこーだ子爵家の領地経営について話し込んでる。お父様の弟夫婦の息子であるマークスは、5歳の時に事故で両親を亡くしてから、うちに引き取られて跡取り教育を受けている。でも、1人で出来ることには限りがあるし、私は彼のサポートをしたいと思っている。


じゃぁ、将来結婚するのかって?まさか。恋愛は前世で懲りたし、私も彼もお互いを戦友、悪友、幼なじみ以上の感情を持っていない。次期子爵になるんだから、そのうちマークスは妻を迎えるんだろうけど、結婚したからって小姑を追い出すような事はしないはずだし。私は影に日向に、次期子爵夫妻を支えて行けたら良いなって思っている。


そして喋りすぎたり考え込みすぎて気づかなかったけど、今目の前にいるのはマークスではなく、この国の次期国王夫妻。いつもの癖で話しすぎてしまったかもしれない…。やんごとなきお方だという事を忘れて熱中してしまった。大丈夫か…?


「ソフィア嬢。貴女は本当に、優秀なんだな。食料問題は、子爵領だけでなく我が国全体の課題でもある。是非、勉学に励んで実現してほしい。」

おーぅ、ニコラス殿下にお褒めの言葉貰っちゃったよ。何か感心したようにこっちを見ているし、なんか褒められると照れちゃうな。よーし、ソフィアさん、この2人の期待に応えられるように頑張るぞー。

あわよくば信頼を勝ち取って警戒を解いてほしいぞー。


でも、言うのは簡単。実行するのは困難。

農業事業って時間がかかるからなぁ。何年かかるんだか。そしてそんな長期事業に投資できる体力、子爵家(うち)にあるんだろうか。



ふと、サロンの花壇に広がる花をよく見てみた。白と、紫の可憐な花。

そういえば、今って夏だったよね。

夏に咲く、白と紫の可憐な花…



「この花、もしかして…」


「あら、ソフィアさんもそのお花が気に入ってくれたのね。フラン王妃のお気に入りの花で、5年ほど前から我が国でも栽培してるんですのよ。」


夏に咲く、白と紫の花。フラン王妃お気に入り…。


もしかしてこれ、ジャガイモの花じゃない?

アップルパイのリンゴはゴロゴロ大きいのが良い派!


疫病やジャガイモや史実を参考にしていますが、時代設定はフワッとしてます。

かの有名なマリーアントワネット王妃はジャガイモの花が好きだったという逸話があるらしいです


ちなみに日本では花が咲くのは初夏ですが、北の地域なので夏休み後の学期に咲かせてます。

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