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17. 新しい事業と、商会の噂

5/12 時系列を見直して、17.暗雲と話数を入れ替えました。

17. 暗雲→18. 暗雲

18. 新しい事業と、商会の噂→17. 新しい事業と、商会の噂

「はぁ〜。久しぶりに飲むコーヒーは体に染みるっ。」

「最初はびっくりしたけど、中々クセになるわよねぇ。」


ある休日、久しぶりに母娘水入らずでティータイムを楽しんでいた。

ティータイムといっても、今日飲んでるのはコーヒーなんだけど。


そう、コーヒー。

この世界で嗜好品飲料はお酒の他、紅茶やハーブティーが一般的で、コーヒーがまだ普及していない。

原材料のコーヒー豆は南国で取れるものだし、東の乾燥地帯が広がる地域では飲まれていると思うけど調達するのは難しいだろう。資金には限りがある。

作付けが終わった後、領地と王都の屋敷周辺でタンポポを摘んで(というか掘って)、根っこでコーヒーを作ってみたところ、なかなかの出来だったのだ。


前世では紅茶も飲んでいたけど、コーヒーも好んで飲んでいたし。今世では紅茶やハーブティーは飲めるけど、出来ることならコーヒーも飲みたい。

庶民も貴族も、一息つくときにお茶(品質や値段はピンキリだけど)を飲んでリフレッシュするのだ。嗜好品の選択肢があるに越したことは無い。

タンポポはそこらに自生しているので、試作するのに資金もかからないし。


と、いうわけでコーヒーは作れずとも代替品は作れるかも、と思い立ってタンポポコーヒーを作ってみた。

ちなみに、あちこちでタンポポの根を収穫している私の様子を、「また何かやり始めたのか」と家族(と領民)が生暖かい目で見ていたのは気づかないふりをしたけど。

厨房の一角を借りて、タンポポの根を洗って乾かしてなんとか焙煎してたら、お母様が興味を持って手伝ってくれた。一緒に試作を重ねて出来上がったコーヒーを飲んだ家族の反応は上々。お父様とお母様から、ハーブティーと並べて売り出そう、と提案してもらった。


「来週末、王都に商会長(お祖父様)が来て商談や視察をする予定だったから、ついでにコーヒーの話を通してみましょう。あわよくば、ハーブティーに並ぶうちの商会の看板商品にしちゃいましょう。」

「そうだね。製造方法は非公開にして、漏れないように徹底しないと。希少価値のある新しい嗜好品は商機があるねぇ。ソフィ、紹介長(義父上)と相談する場に同席して報告しなさい。」

毎度のことながら、お父様とお母様でとんとん拍子で話をつくてくれる。

それにしても、実際に自分が商売に携わるっていうのは、初めてで緊張するなぁ。


「僕はこっちのミルクを入れたやつが好きだなぁ。ねぇ、ミルク入りとか砂糖入りとか、レシピにレパートリーもっと持たせて売れないかな。レシピをまとめた冊子みたいなのも売れない?」


「マークス!なんて良いアイデアなの。さすがね。ソフィ、料理長とメイドちゃんたちにも手伝ってもらって、マークスと協力してレシピのまとめとコーヒーについてまとめた資料を準備できる?」

おぉ、いきなりタスクが増えたぞ。まぁ、作付け時期も過ぎたしレポートも一通り出したから、大丈夫、なはず。


「ソフィ。僕も手伝うから、一緒に頑張ろう。早速、料理長にアポ取りに行こう。」

マークスもノリノリだ。マークスはハーブティの香りが苦手であまり好んで飲まないし、紅茶も嗜む程度くらいしか飲まない。そんなマークスにとって、コーヒーは衝撃的だったらしい。いたくお気に召したみたいだ。


ふむ。こういう客層を掴めたら、販路も広がるのかも。





「奥様、お嬢様。商会長様が到着されました。」

コーヒーに思いを馳せていたら、執事がお祖父様到着の報告をしに来てくれた。


「コーヒーのおかわりと、お父様向けのカップと椅子を用意して、こっちに通して頂戴。」

「かしこまりました。」


「マリア、ソフィ。久しぶり。今日は面白い飲み物が飲めると聞いて、楽しみにしてたんだよ。」

「お父様、お久しぶりです。そうなの、ソフィが面白い物を作り始めたのよ。」


お互いの近況報告やたわいも無いお喋りをしていたら、メイドのシャルロッテがコーヒーを運んできてくれた。

ちなみに彼女、シャルロッテは凝り性な性格とコーヒーがいたく気に入ったことで、空き時間に美味しいコーヒーの入れ方の研究を重ねていたのだ。その結果、とても美味しいコーヒーを相手の好みに合わせて入れられるようになった。最近はマークスと執事と料理長と一緒に、「子爵家コーヒー倶楽部」を作って日夜研究を重ねている模様。

もはや、前世知識を持つ私より遥かな高みに登りつつある3人を見て、素直に感動している。|オタク《その道のスペシャリスト》ってすごいなぁ。一気に追い抜いていくんだもんな。助かるけど。


「うん、良い香りだね。今までに無い香りだ。それに結構美味しいね。ソフィ、すごいじゃないか。」

コーヒーって好み分かれるから心配していたんだけど、意外とウケが良くて嬉しい。


「こちらがコーヒーを使ったレシピと、コーヒーの材料や作り方をまとめた物です。原材料はタンポポです。取り尽くさないように、綿毛になってからタネを飛ばしてから収穫した方がいいかと思います。」


「へぇ、タンポポで作るのか。面白いな。」

「えぇ、庶民は自分たちで葉っぱからお茶を作ってるから、改めて商売にするのは難しいって思っていたのよ。根っこにこんな使い道があるなんて。」


「そうだね。ジャガイモと言いコーヒーと言い、ソフィは根っこに注目するのが好きだね。」

「あら、たしかに。新しい価値を、斬新な視点で見つけるなんて、流石私の娘ね。」


お祖父様とお母様が報告書に目を通しながら、コロコロ笑っている。

っていうか、言われるまで根っこに注目してるなんて、自分で気づかなかったよ。

言われてみれば、確かに…。


「タンポポは勝手に自生していますけど、商売にするなら畑を用意したほうが良いと思います。生命力が凄いので、手間はかからないと思いますし。」

「たしかに、毎年あちこちで力強く群生しているからな。」


「どんぐりでもコーヒーが作れると思うので、秋になったら試してみようと思います。とりあえず今の季節は、作付けが終わって少し手が空いた領民に、タンポポを収穫してもらうのはどうでしょう?雑草として抜いて捨てられる事もありますし。お金になるってわかれば、みんな協力してくれると思うんですけど。」


「そうね、現子爵(旦那様)と相談してみるわ。ソフィは私と、王都のタンポポを収穫しましょうね。」

「はい、お母様。」


「ジャガイモも秋の収穫次第で、一部商会の商品にして、宣伝しようと思っているんだが。ソフィ、どうだい。」

「えぇ、お祖父様。その時はまた相談させてください。」




「そういえば、商業ギルドで気になる噂が入ってきたよ。」

「まぁ、ギルドで?何かありましたの?」


コーヒーについての報告や議論、販路や値段設定などを相談させてもらった後は、お祖父様が仕入れてきた情報を教えてもらう番だ。

持っている情報が多いほど、自分の身を守る盾にも家のために使う武器にもなる。


商業ギルド。王国全体の商業を取りまとめる組織。各領地で、その地を取りまとめる商業ギルドが存在するが、領に捉われず王国で一つの組織として運営されている。

商業をするには加盟する義務があり、売り上げに応じた税を収める代わりに商会の仲介や斡旋、取りまとめなどのサービスを受けることができ、その庇護下に入れるので何かあったときに協力してもらえる。

商会長を務めているお祖父様は、フレデリクソン子爵領にある商業ギルドのトップの1人であり、お母様の実家が運営するハンス商会の会頭でもある。


度々、王都や他領のギルドと会談して、あちこちから噂や伝手などを拾ってきてくれる。


「フラワートン男爵領の劇団や商会がいくつか、不自然に資金繰りが良くなったみたいなんだが、成果を出せていないみたいでな。一部、夜逃げした部隊もいるみたいだし。男爵領の商業ギルドから、経済が混乱する前に対策するからって相談されたんだが。男爵家は、まだ動いていないみたいだし。」

フラワートン男爵領って、アンさんの実家じゃない…。


「まぁ、資金繰りが良くなるってことは、どこからか借金して運営資金に当てたってこと?借金返済などは大丈夫なんですの?」

「いや、それがな。その劇団も商会も借金はしていないみたいなんだ。ギルドが確認したから、間違いないはずだ。かと言って、商売がうまくいって資金を得たわけでもないみたいでな。」


「お祖父様、お母様。それ、同級生がしている商売が関わっているのかもしれません。」

そういえば、有志で資金を集めて見返り金リターンを貰って利益を得る株式会社的な商売をしたって言ってたな。

その話を2人に報告したら、案の定眉間にシワをよせていた。


「なんだ、その商売は?なかなか斬新なアイデアだが。うまくいけば確かに、商売の効率が上がるが…。下手をしたら資金だけ受け取って逃げられるだろう。」

「そうよね。男爵家の当主はこのことを把握しているのかしら。」


やっぱりその反応になるよねぇ。

っていうか、アンさん。上手くいくのかって心配してたけど、やはり上手くいっていないのか。

でも、資金繰りが良くなったってことは、協力者は集められたのか。


「ソフィ、学園で何か情報が入ったら、報告してほしい。商業ギルドとしても、監視案件になると思うから。」

「わかりました。お祖父様」


「コーヒーの販路の件は、一旦こちらで預からせてもらって良いか?帰って紹介で検証して、販売戦略や販路を詰めてみようと思う。もちろん、ちゃんと報告するから安心しなさい。」

「私も協力するから、安心してねソフィ。お母様のハーブ畑にタンポポ枠を作らないと。うふふ、タンポポの新しい可能性にワクワクするわね。旦那様にも相談しないと。」



お祖父様とお母様の頼もしい言葉を貰って、とりあえずコーヒー事業は一旦私の手から離れることになった。

まぁ、|子爵家コーヒー倶楽部《マークスやシャルロッテ達》は引き続き、研究を重ねるんだろうけど。


それにしても、アンさん。何をしているんだあの娘は。

コーヒーはトルコなどのイスラム世界では早めに普及していたみたいですが、ヨーロッパは少し遅れて普及したそうです。


ちなみに、タンポポコーヒーは戦時中のドイツが物資不足の中、情熱を注いで作った代替コーヒーです。ちなみにカフェインレス。


マークスとシャルロッテちゃんはそのうちラテアートとかできちゃいそうな感じ。今は焙煎具合と挽き具合に対する味の変化を研究中だそう。


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