16. 作付け
ブクマ&評価してくれて本当に、本当にありがとうございます。
「マークス、お腹空いたしそろそろランチにしない?」
「そうだね。あそこの丘の上で食べようか。」
マークスが指した先は小高い丘になっていて、大きな木の下に座ると湖が一望できた。
天気も良くて、そこからの景色に思わず見入ってしまう。
「やっぱり、ここからの景色はキレイだよね。」
しばらく景色を楽しんでいたら、マークスがポツリと呟いた。
「マークス、この場所好きなの?」
「あまり覚えていないけど、小さい頃はよく両親に連れて来てもらってたんだって。」
ここでマークスが言う両親とは、現子爵夫妻のことではないんだろう。
マークスのお父様は騎士団に所属していて、10年以上前に事故で亡くなっている。
現子爵と仲が良くて、私にも優しかったらしい。小さすぎて、よく覚えていないけど。
「そうなんだ。ここで、ピクニックをしてたの?」
「うん。場所はあまり覚えていなかったけど、お義父様に教えてもらって。たまに馬車の試乗をする時に、寄っているんだ。」
湖を眺めるマークスの横顔は、少し懐かしそうで、でも切なそうだった。
「ここ数年は、両親のことをほとんど思い出さなくなってきてる。お義父様とお義母様が本当の家族のように接してくれるし、僕も両親のように思っている。だから、叙々に記憶が薄れて来ているんだと思う。だから、たまに思い出の場所に来てるんだ。」
「そうだったんだ。」
マークスから両親の話を聞くことはほとんど無い。たまにお父様がやお祖父様が、ふとした時に叔父様の話をする時はあるけど。
「今の生活は、とても気に入ってるんだ。領地経営を学ぶのは楽しいし、ちょっとずつ僕の裁量の範囲も広がって来ている。責任を感じるけど、やりがいがある。お義父様もお義母様も僕のことを認めてくれてるし、信頼してくれている。ソフィとあれこれ議論するのも楽しいし、この春からはジャガイモを本格的に植えるだろう?それもどうなるか、楽しみで充実した毎日だと思う。
でも、本当の両親のことを忘れつつあるのが嫌だから、こうしてたまに思い出す時間を作ってるんだ。」
マークスは、色んなものを乗り越えて今のマークスがあるんだ。
ちょっと変なところがあるけど、能力が高くて自分の興味があるものをとことん追い求めたくなる、私の従兄。
マークスが引き取られた頃のことは、なんとなく覚えてる。
元々仲の良い従兄妹だったから、無理に兄妹になろうとせずにそのまま仲の良い2人でいれば良いってお父様とお母様に言われたことも。
今思えば、従兄妹という関係を意識することで叔父様と叔母様のことを忘れる必要はないっていう、お父様達の配慮だったのかも。
「マークスが、今の生活を気に入っているなら嬉しいわ。家族と過ごす時間が、私も好きだし。」
「うん、僕も好きだよ。ごめん、ちょっとしんみりしちゃったね。サンドイッチ食べようか。」
そう言って笑ったマークスの笑顔に、何故か胸を打たれた。
なんだろう。なんかムズムズする。
「ソフィ?食べないの?」
少し後をついて来ていた執事から、サンドイッチとティーポッドが入った籠を受け取りながらマークスが聞いてくる。
「たっ食べるわよ。セバスチャン、ありがとう。貴方も食事をとってね。」
執事にお礼を言いながら、慌ててサンドイッチを受け取った。
太陽の下で、湖を眺めながら食べるサンドイッチはとても美味しかったけど、少し緊張しながらランチを楽しんだ。
マークスと喋るのに緊張するなんて、変なの。
そういえば、ダンスパーティでも緊張したんだっけ。
◇
「お嬢様、こっちの畑はひと通り終わりました。」
「ありがとう。こっちももうすぐ終わりそうよ。」
いよいよ作付けの時期がやってきた。約1週間かけて、すべての作業を終わらせるのだ。
私はジャガイモの、お母様は麦の作付けを手伝っている。
お父様はその間、あちこちの視察をしながら村長や町長達の話を聞いて回っている。
「ふぅ、なんとか休み中に終わりそう。」
この世界ではもちろん、農耕機なんてないから作付け作業は全て手作業だ。
こんな広大な土地に全て手作業で農業作業をして、得られる恵みも決して多くない。
栄養バランスも、衛生状態も良いわけではない。
よくよく考えると、人類が人口を順調に増やして行ったのって、わりと奇跡なんじゃ…?
週末になると、車中泊仕様の馬車でマークスも領地に来てくれた。
お父様と一緒に、村の近況報告や作付け計画を村長と共有するために。
「久しぶり、ソフィ。作業大変だったでしょ?お疲れ様。」
「マークスもお疲れ様。授業が終わってそのまま来たんでしょう?よく眠れた?」
「うん。この前の改造馬車と同じサスペンションにしたから、乗り心地が前より良くなったんだ。おかげでぐっすり眠れたよ。」
「久しぶり、マークス。私たちは明日の朝、王都に帰るけど、マークスとソフィは夜に出発してそのまま学園に行くつもりなんだろう?流石に疲れないか?」
お父様がマークスに気づいて、声をかけて来た。
「私は大丈夫よ。学園に提出するレポートも毎日コツコツ書いてるし。」
「僕も大丈夫です。」
「そうかい?無理はするんじゃないよ。ちょっと休憩したら、マークスは私と村長の館に行こうか。」
「わかりました。」
私たちも休憩のタイミングだったので、お父様が手配してくれたお茶を飲むことにした。
「ああ言ったけど、ソフィは大丈夫?無理はしないでね。連日の作業で疲れてるでしょ?」
「ちゃんと毎日、たくさん寝ているから大丈夫だよ。」
15歳の体力って、本当にすごい。感動。疲れが翌日に響かないなんて。ビバ。
お茶を飲みながら、お互いの近況報告をしていたら、あっという間に休憩時間が終わってしまった。
「じゃぁ、マークス、またあとでね。」
「うん、頑張ってね。」
「ソフィは凄いな。好奇心旺盛で、すぐに行動できちゃうなんて。僕も見習わないと。」
ぽつりと、マークスが呟く。その声は誰にも届いていないけど。
「ソフィといると、すごく落ち着くけど。たまにすごく落ち着かなくなるな。まいったよ。」
ソフィとマークスはじわじわお互いを意識して来ています。




