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第九話 お家探し

「っっっっっ……!!」


 その痛みは壮絶で言葉にもならないらしい。両手で殴られた頭を抑えながら机に突っ伏してしまった。


「もーほんとごめんなさいねぇ。お家が見たいのよね? ほら、こっちにいらっしゃい」

「いや、あの、彼女は……」

「いいのいいの。はい、こっちよー」


 案内されるがまま……いや、気圧されるがまま、指示されたカウンターへ移動する。無人のカウンターだったが、先程のだん……女性が空いていた椅子に座った。


「さて、新規の探宮者さん用に空いてる家はサウスフィッシュボーンよ」

「サウスフィッシュボーンですか……」


 まぁ、仕方ない。分かっていたことだ。


「そうね。誰でも最初はサウスフィッシュボーンからよ。でも、此処からはお金次第。サウスフィッシュボーンにもランクがあってね、住む場所一つで生活レベルが変わってくるわ」


 詳しく聞いてみると、あの大きな壁の先は、壁から離れるごとに……つまり、尾に向かう程に生活レベル、住人の質は悪くなっていくらしい。無一文でやってきたならば、あの尾に張り付いた違法建築に住まなくてはならなくなる。


「あんな場所に住んでみなさいな。翌日には死んでいてもおかしくないわ。あんなの穴の空いた箱よ、箱」

「そんなレベルですか……」

「そ。生活に困ってダンジョンで一発逆転! なーんて夢見てやってくる人間なんてどうせ一生地の底よ」


 世知辛い話だ。でも、それは誰にでもありえる話だ。


「だからある程度のお金は必要よ。お金があれば生きていけるんだから」

「そうですね……ではどれくらい積めば一番良い家を提供してもらえるのでしょう?」

「そうね。壁際の家が欲しいなら金貨300は必要よ」

「300……それは……」


 流石に出せない。姉さんも首を横に振っている。


「出せて50です」

「ふむ……ならば此処なんてどうかしら?」


 机の引き出しから出された紙には家の間取りが描かれていた。見た感じだと結構広そうだ。


「部屋が二部屋。台所と便所、浴室がそれぞれ一つずつよ」


 結構当たりではないだろうか。姉さんと一緒に住んでいた家よりは小さめだけど、設備は整っている。


「良い部屋ですね。治安はどうですか?」

「3番街だから問題ないと思うわ。サウスフィッシュボーンは1番街から8番街まであるの。さっき言った穴の空いた箱があるのが8番街ね」


 聞きながら先程遠くから見たブラックバスの全体図を思い出し、頭の中で壁から先を適当に8等分してみる。なるほど、結構一つ一つの町は広そうだ。


「その中の3番街ってことは、3番目に治安が良い町?」

「正解よ、お嬢ちゃん。その3番街に住むのは探宮者としては中堅ね。勿論、初心者も入り混じっているから基本的に治安は良いわ。まぁ、他所の町の人より素行の悪い人間というのがこの町の基本なのだけど。さっきの子みたいなね」

「あー……」


 チラッと見ると拗ねた顔と目が合った。あ、逸らされた。


「ま、あの子は今日、人手不足で出張だから此処には来ないわよ」

「となると何処へ行くんですか?」

「サウスフィッシュボーンね。あっ……」

「……」


 表情のない顔で見つめ合う。また会うことになるだろうなと、お互いの顔に書いてあった。


「……まぁ悪いのは口と態度だけよ。仕事は出来る子だから」

「何のフォローにもなってないとは思いますが、ご親切にありがとうございました」


 姉さんと揃ってきちんとお礼をすると照れ臭そうに手を振られた。見た目に反して可愛らしいところもあるらしい。可愛くはないが。


「あんた、苦労したでしょ。頑張りなさいよ。この町は実力が物を言う町だから、力さえあれば理不尽なんて吹っ飛ばせるわ!」

「何から何までありがとうございます」

「ふふっ、いいのよ。じゃあこの家で決定ということで」


 鞄から金貨の入った袋を取り出し、ぴったり50枚渡す。受付さんはそれをしっかり数えてから奥の部屋へと持っていった。


「はい、これで契約完了ね。退去する時に返金するわ。壊してなければね」

「分かりました」


 壊れた場合は其処から修理費が出ていく仕組みか。ちゃんと丁寧に使えば次の家へ移り住む際の頭金にもなるから良い制度だ。


「じゃあ家まで案内を出すわ。そうね……はぁ、どうせまた会うでしょうから、あの子に頼みましょうか」


 と、受付さんの方を見るので、僕も釣られて見てしまう。またしても視線が合ったが、今度は逸らされず、逆にこっちに向かってやって来た。


「聞こえてたでしょう。ほら、案内してあげて」

「チッ……」

「おい、返事はねぇのか!?」

「……はいよ」


 さっきまでのクネクネした声ではない、本物のドスの効いた声が聞こえた気がしたが、多分気の所為だろう。気の所為に違いない。気の所為だと思いたい。


「今日はそのまま帰っていいからね」

「あぁ……。じゃあ来いよ。おい、その紙持って来い」

「あっ、はい。えっと、よろしくお願いします」


 慌てて机の上の紙を手に取り、立ち上がる。カウンターを離れる前に、大柄な女性の受付さんにしっかりと礼をしたら手を振られる。


 そして振り返ると口と態度の悪い受付さんがギルドを出ようとしているところだったので、慌てて走った。『そういえば……』なんて声が後ろから聞こえた気がしたが、構っていると本気で迷子になりそうだったので振り切ることにする。


 色々な事を思い返し、もう既に疲れている僕が居るが、何とか今日という日を屋根の下で終わらせたい僕は、吐きたい溜息を飲み込み、慣れない駆け足で追いかけたのであった。

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