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不死者な姉と屍術師の僕は迷宮の奥を目指します  作者: 紙風船


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第四十四話 5人で夕飯

 少し戻ると階段が確認出来る。後は其処を目指すだけだ。


 ただ問題だったのは、やはり上り階段だった。


「ひぃ……ひぃ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」


 僕とアストンさんは息も絶え絶えになりながら重い足を持ち上げる。それに対して女性陣はまったく疲れることなく上っていた。


「情けない……」

「リューシ、大丈夫?」

「やはり背負った方が……」

「いや……大丈夫……」


 大丈夫ではないが、これだけの人の前で背負われるのは流石に恥ずかしかったので何とか返事を返す。アストンさんに関してはもう声も出ていない。隙間風のような空気音を発するだけだった。完全に生ける屍となっていた。


 それでも何とか上り切り、出入口の扉を押し開くと、外はすっかり暗くなっていた。


「遅かったじゃないか。……大丈夫か?」

「えぇ、問題ないです。けれど、何処か休める場所は……」


 へたり込んだ僕とアストンさんの代わりに姉さんが門番さんに対応してくれた。それを耳にしながら息を整える。


「それならこの先に食堂がある。広い場所だ。スピナーベイト帰りの探宮者が多いが、まぁ座れるだろう」

「ありがとうございます。助かります」


 なるほど、この時間なら食事がてら休むのもいい。これまでの事も聞きたいし、話したい。


 戻ってきた姉さんが僕の前にしゃがみ、顔を覗き込んできた。


「大丈夫? 歩ける?」

「……うん、なんとか」


 姉さんの手を取り、ふらつきながらも立ち上がる。後はパイド・パイパーを文字通り杖にしていけば、多分歩いているうちに回復するだろう。


「……ほら」

「……ん」


 エルンさんが投げ出したアストンさんの足裏を靴で小突くと、微かに反応したアストンさんが背中を預けた壁を頼りに立ち上がった。一見、乱暴だが二人ならではの空気が其処にはあった。


「しかし毎回こうなると思うと対策は必要だな」

「そうだねー……やっぱり背負うしか……」

「私なら落ちても平気だから……」


 物騒な会話が聞こえるが、あの階段は本当にきつい。体力がありそうなアストンさんですらああなのだから、これは考えるしかない。


「とりあえず姉さんに背負ってもらうよ……」

「む……私じゃ不満か?」

「自由落下は嫌だね……」


 姉さんなら速度を調整出来るからまだマシだ。アストンさんの方は……そっちの問題だ。潜らなければならないこともないのだし、ダンジョンは変えても問題ないだろう。武器の相性も悪いし、他の場所へ行くのが賢明だ。まぁ、それを決めるのは二人だから僕がとやかく口出しする必要はないかな。


 門番さんが教えてくれたお店はこの辺りで一番大きい食堂のようだ。ちょっと道は入り組んでいて、大通りからも離れているが、人気のようでギャーギャーと騒ぐ探宮者達の声が外にまで漏れ出ている。音楽も聞こえてくるな。


「此処かな……じゃあ入ろう」


 半開きの扉を押し開くと、中は明るく、そして熱気があった。幾つものテーブルはほぼ満席で、正面にはカウンターが設置されている。席に着いた人達はジョッキを手に、叫びながら右奥を向いていた。


「何だろう?」

「あっ……そういうお店か……」


 覗き込んだエルンさんと一緒に奥を見ると、肌を露出させた女性が一心不乱に踊っていた。聞こえていた打楽器や弦楽器の音は、この踊りの為の曲のようだ。


「リューシの教育にはちょっと悪そうなお店だね……」

「僕は気にしないよ。踊るのだって立派なお仕事だ」


 険しい顔をする姉さんだが、あの踊りだって相当な技術と努力の賜物だ。研鑽と研究は僕達にも通ずるものがあるから、尊敬の念しかない。


「目のやり場には、困るけどね……」


 ぽつりと呟いた心の声は誰にも拾われることなく、僕達は店内へと入っていった。



  □   □   □   □



 騒がしい店内ではあるが、お客への対応はしっかりしていた。ちゃんと僕達が来たことにも気付いてくれたし、料理もしっかり提供された。


 問題があるとすれば、これだ。


「よぉ姉ちゃん、あんたも踊ってくれや!」

「ガキが来るような店じゃねぇんだよなぁ」

「生白いガキだな……」


 姉さんやカディ、エルンさんに絡む酔っ払い。僕に色んな意味で絡んでくる奴も居る。まぁ、こういうのはある程度は覚悟していた。仕方ない部分もある。人間、酔っぱらうと気が大きくなるものだ。まぁ僕は酔ったことないが。


 そうして良い気になってしまった者には、それ相応の制裁というものがある。


「私達に構うな……」


 カディによる相手を選別し、限定した威圧。それはすっかり酔いが覚めるレベルの密度の殺気だ。


「わ、悪かったよ……」


 一同は謝罪の言葉を残し、足早に店を去っていった。


「さて、静かになったな。いやしかし人間の食べ物というのは実に旨いな!」


 騒がしいし煩わしいと思っていた周りの人間は喜び、一層騒ぎ出す。そんな中、カディは骨付き肉を両手に満足げに笑うのだった。




 大皿の大半がカディの胃に納まった頃、すっかり回復したアストンさんと僕は出会ってからの事を語り合っていた。


「……それで、まぁ数人始末して事無きを得ましたね」

「はぁー……可愛い顔して容赦のないことで」

「命を大事にがモットーなので」

「ま、それが一番だな。そうなると俺達も考えるしかないな……」

「というと?」

「今日行ったダンジョン、あれは相性最悪だったぜ」

「あー……」


 僕達が駆け付けなかったらアストンさん達はモンスターを引き連れたまま階段まで逃げるつもりだったらしい。それは最善の選択であり、最悪の結果でもある。


「謝り倒す覚悟で逃げるつもりだったが、マジで助かったよ」

「いえ、無事で良かったです。今後は別のダンジョンへ?」

「そうなるな。同じ難易度のダンジョンがこの町に3つあるんだ。元々、全部周るつもりだったんだが、一番最初に選んだ場所が一番合わなかったよ」


 隣のエルンさんが骨を咥えたままうんうんと頷く。


「他のダンジョンってどんなところがあるんですか?」

「えーっと……なんだっけ?」


 虚空を見つめ、思案したアストンさんはあっさりと思考を停止させ、エルンさんに投げた。


「はぁ……。ベイトリールと同じフィールド型ダンジョン《シャッドテール》。クランクベイトと同じ通路型ダンジョン《スイムベイト》。そして坑道が飲まれたダンジョン《ジグヘッドリグ》」


 お酒を飲んだ所為か、普段より饒舌なエルンさんが教えてくれた。アストンさんより数倍しっかりしてるな……。


「おい今失礼なこと考えただろ」

「いえ、どんなダンジョンかなーって考えてました。ジグヘッドリグというダンジョンは今までのと比べると、ちょっと異質ですね」

「ダンジョン以外の収入をと考えた昔の探宮者が適当に掘った坑道が近場のダンジョンに飲まれた生成されたらしい。元々あったジグヘッドというダンジョンは通路型で、リグという男が掘った坑道と合わさり、ジグヘッドリグ」

「なるほど……今日めっちゃ喋りますね」

「お酒の力」


 グッと親指を立てるエルンさんだった。ジグヘッドリグか……ちょっと興味あるな。


 ふとカディの様子を見ると、勝手に注文した野菜をバリバリと食べていた。てっきり肉主情主義かと思っていたが、そうでもないらしい。口に入るものは何でも旨いらしく、ニコニコ顔で貪っていた。


「私的にはジグヘッドリグが気になるなー」

「僕も。スピナーベイトの後はそっちに行ってみようか」


 意見の合った姉さんが頷き、ポーションを呷った。


「さて……そろそろ出るか」


 ちょうど踊りと曲が終わったタイミングでアストンさんが切り出したので、僕達は腰を上げる。あれ程重かった足は、さっきよりは軽くなっていた。


「む……ちょっと待て。まだ残ってる」


 カディが皿に乗った付け合わせを手に取り、そのまま口に運ぶ。それやってたらいつまでも帰れないんですが……。


「ははっ、無理やり引き摺って行ったらまた脅されそうだな」

「此処は私達が出しておくから、ゆっくり食べていって」


 そんなエルンさんの申し出に慌てて両手を突き出して首を振った。


「そんな、悪いです。これの食い意地が悪いだけなんで」

「おい、これって言うな」

「いいよ、気にしないで。今日助けてもらったお礼だよ」


 取り合ってくれないエルンさんはポンポンと僕の頭に触れる。何故だか、それには逆らえない何かがあった。


「すみません……ありがとうございます」

「いいよ。おやすみなさい」

「おやすみなさい。お礼はいつか必ずしますので」

「ふふ、お礼にお礼って何?」


 おかしそうに微笑むエルンさんは手を振って店を出て行く。アストンさんも片手を振りながら、振り返らずに店を出て行った。


 むぅ……去り際が大人だ。僕もああなりたいなと思いつつ、美味しそうにトマトを食べるカディを見て溜息を吐いたのだった。

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