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不死者な姉と屍術師の僕は迷宮の奥を目指します  作者: 紙風船


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第十七話 一人外食

 家に帰ると2階から姉さんの楽しそうな声が聞こえてくる。早速錬金台で作業をしているのだろう。久しぶりに出来る作業が楽しくて仕方ないのだろう。僕も屍術の研究は好きだ。僕が持つ唯一出来ることだから、いつか極めたいとは思っている。


「あ、おかえりー」

「ただいま、姉さん。行儀悪いよ」

「えー?」


 2階の床をすり抜けて顔だけだした姉さんがとぼけた顔で笑う。リッチーの特権ではあるが、行儀は良くない。


「羨ましいって思ってるでしょ」

「いや……んー……ちょっとだけ」


 自分が研究中に声を掛けられた時をシミュレートしてみると、確かに羨ましかった。手が離せない時って確かにあるからね……。


「でも駄目」

「ケーチ」


 イーッと年甲斐もない反撃をして2階へと消えていく姉さんに溜息を贈り、僕は1階のリビングの椅子に腰を掛ける。


 今日は疲れた。色々ありすぎて、頭が疲れた。体はそうでもないはずなのに、動くのが億劫で仕方ない。


「……お腹空いたな」


 動きたくないが、空腹には抗えない。意を決して腰を上げた僕は台所へ行く。が……


「食材とか何も買ってない……」


 この家に来てすぐにダンジョンに向かったことを思い出した。元はと言えばヴィオラさんが起きたらすぐに来いと言っていたからだが、それにしたって休む暇もなく、というのは些か急ぎ過ぎだ。


「明日は買い物の日にしよう。レイスの素材も欲しいし」


 戦場跡や管理されなくなったお墓とかあれば手っ取り早くレイスに出会えるのだが、街中では難しいだろう。珍しい素材だから値段は張るかもしれないが、自前で用意出来ないのであれば仕方ない。


 それに食材だ。食べる物がないと生きていけない。姉さんと同じリッチーになってしまっては意味がない。


「食材を買って、家に置いてから素材探しだな」


 手荷物の多さを予想して計画を立てる。明日はダンジョンはお休みだ。ヴィオラさんにも言った方がいいかもしれないな。


「でもまずは……今日の夕飯だ」


 今日は屋台料理で済まそう。うん、初めての屋台料理だ。ちょっと楽しみですらある。



  □   □   □   □



 家を出た僕はポケットにお金を入れて町を散策する。陽が沈んだ町は、昼間とはまた違った姿を見せてくれる。ただ、どちらも共通しているのは賑やかということだ。


 昼間は探宮者達が、各ダンジョンに向かう為に行き来をし、その探宮者を支える商人達が仕入れや販売の為に荷馬車で走る。その家族達もまた、仕事や用事など、様々な理由で通りを歩く。


 そうして沢山の人達が行き交った大通りは、夜になると宴会場となっていた。通りの左右で構えている店からは大きな笑い声が漏れ出て、その店の外でもテーブルの上に酒やつまみを乗せて探宮者達が乾杯をしていた。


 そんな声が左右から僕を挟んで合戦だ。右も左も、力量は同等。間に立たされた僕は鼓膜が破れそうになる。慌ててフードを被ろうとしたが、夜だからと置いてきてしまった。


「しくじったなぁ……耳が痛い」


 両耳を塞ぎたいところだが、それはそれで周りの人達に嫌がられそうだったので、我慢して歩く。


 我が家のある路地から大通りへ出て、2番街方面に向かうと、骨と骨の間に屋台街が広がる。その通りに近付くにつれ、どんどん胃を刺激する香りが強くなってくる。


「んん……ますますお腹が空いてきた……」


 通りに着く頃には耳も慣れ、気にならなくなった。関心は耳よりも鼻、下に向かっている。


「いらっしゃい!」


 まだいらっしゃってないが、一番手前の屋台のおじさんに声を掛けられた。恐らく僕だろう。目と目が合ってるし、逃がしてたまるかという念が伝わってくる。あっさり観念した僕の胃が勝手に足を動かし、屋台の前へと立つ。


「ひとつどうだい?」

「これは何ですか?」


 目の前には幾つかの溝があり、其処に焼けた炭がパチパチと爆ぜる。その溝の上には櫛に刺さった茶色い何かが、如何にも美味しそうな汁を垂らしてジュウジュウと焼けていた。


「此奴はダンジョン産のブルギルって魚のモンスターよ。牛みてぇな角の生えた魚で強ぇんだが、身は脂がのっていて最高に旨いんだ!」

「そうなんですね……1本ください」

「まいど!」


 セールストークにあっさり屈した僕は目の前の串を受け取り、代わりに代金を支払う。がぶりと一口。確かにこれは美味しい。魚とは思えない程のジューシーさで、それでいて脂っこくない。その点はあのおじさんの手腕だろう。屋台だと馬鹿には出来ないということだ。


結局それからも数々のセールストークに負け続けた僕は、結果的に沢山の料理を堪能し、大勝利を収めた。


「そろそろ姉さんも落ち着いた頃だろうし、帰ろうかな」


 お腹もいっぱいになったし、そろそろ……と帰路につく。あとは家に帰って寝るだけだが、この町はまだまだ眠らない。何処も彼処も賑やかで混沌としている。


「良い町……なのかな」


 聞いていた話とは結構違っていて、でも合っている部分もあって、それでも好印象だった。やっぱりその場所に住んでみないと分からないものだ。住めば都とはよく言ったものだ。


 家に帰り、2階を少し覗くと姉さんが楽しそうに調合をしていた。多分、アンデッド用固定剤だ。であればあとは僕が素材を見つけてくるだけだ。しかしいい場所が思いつかない。


「人が亡くなって、それでいてちゃんとした埋葬がされないような場所……」


 戦場、死刑場、墓地。そんな、死がありふれている場所には怨念が溜まりやすい。そんな不浄の地。


「あっ……そうか。あるじゃないか……そういう場所が」


 以前言われた事を思い出す。


『あんな場所に住んでみなさいな。翌日には死んでいてもおかしくないわ』


 腹骨街の探宮者組合で言われた言葉。8番街は死がありふれている場所だ。町としてのランクも低く、治安も悪い。夢を抱き、そして散っていった者達の眠る場所。つまり、怨念の満ちる場所だ。


 明日の予定は決まった。恐らく、戦闘になるだろうから、今日は早めに寝ることにしよう。

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