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不死者な姉と屍術師の僕は迷宮の奥を目指します  作者: 紙風船


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第十六話 和解

 幸いにもヴィオラさんの家は知っている。隣の隣だ。


「……」


 意を決して扉を叩く。


「…………あれ?」


 しかし何の反応もなかった。部屋はまだ明るい。寝ている感じではないけど。


「うーん……もう一回叩いてみよう」


 ドンドンと今度は少し強めに叩いてみる。するとバタン! と家の中で大きな音が聞こえた。それに続いてドスドスという足音。僕くらいになれば、もう怒ってるのが分かる。


「うるっせぇな! 何だ!」

「うわっ」

「ぁあ!? てめぇおい、何のつもりだ?」

「いやヴィオラさんこそどういうつもりですか。服着てください」

「るせぇ! てめぇが風呂入ってんのにしつけぇからだろうが!」


 タオル一枚でキレ散らかすヴィオラさんを宥める。まだ人通りが多い時間だ。目のやり場に困るが、彼女の名誉の為にも僕は無理矢理家へ押し入った。




 バタンと扉を閉じ、はぁ、と溜息を吐く。


「いい度胸だなリューシ。このあたしをどうするつもりだ?」

「どうもしません。先程の事を謝りに来ただけです」

「ハッ、なるほど。言い訳があるなら聞こうじゃねぇか」


 ドカッと椅子に座り、足を組み、聞く姿勢をとってくれるが、まずは服を着てもらいたい。眼に毒とは正にこの事だ。


「いや、服を」

「あたしの家であたしがどんな格好しようがあたしの自由だ」

「くっ……正論だ……」

「で?」


 ジッとヴィオラさんが僕を見つめる。服を諦めた僕は姿勢を正し、頭を下げた。


「先程は心配してくださったのに、失礼な態度をとってすみませんでした」

「……理由は?」

「僕が人の優しさを素直に受けられなかったからです」

「ふん……捻くれてんな」

「自分でもそう思います」

「理由があんだろ?」


 下げていた頭を上げ、ヴィオラさんを見つめ返す。するとヴィオラさんは顎で椅子を指すので、僕は向かい合うように腰を下ろした。


「あたし命令だ。言え」

「めちゃくちゃですね……少し長くなりますけど、いいですか?」

「構わねぇよ、聞いてやる」


 初めてのことだった。僕が、僕自身の事を他人に話すなんて、したことがなかった。


 だから拙いながらも、頑張って説明した。


 自分が屍術師になった出来事。そうなった事で起きた事。村での僕達の扱い。それから姉さんに起きた事。その結果。そして此処に至った理由。


 一つ一つ話す度、ヴィオラさんは相槌を打ってくれた。分かりにくいことがあれば質問してくれたし、僕もそれに答えた。


 そして全てを話し終えた時、ヴィオラさんはポツリと呟いた。


「……寒い。服着てくる」

「あ、はい」


 奥の部屋へと行くヴィオラさんを見送り、僕は背もたれに身を預けて天井を見上げた。僕の家と同じ木の天井であることに何処か親近感が湧く。


 沢山喋って疲れたな……それに支離滅裂だった気がする。話し慣れてないというのは大変だ。


「大丈夫か?」

「あっ、はい、大丈夫です」


 服を着て、両手にカップを持って戻ってきたヴィオラさんが片方を差し出してくれたので受け取る。仄かな湯気が昇るそれを口に含むと、とても甘かった。


「あたしはこのクソッタレな町で生まれ、まぁあたしなりに人生を歩んできた」

「はい」

「でもそれはあたしの人生だ。話したってあたしにしか分からない人生だ」

「……はい」


 それはそうだ。僕の人生だって僕にしか分からないものだ。話しても仕方ない。……この時間も無駄だったということだろうか。


「でも共感は出来る。分かったような顔も出来る。大変だったなって言葉を投げかけられる」

「ヴィオラさん……」

「お前が大変だったのは分かったって事だよ。ああいう態度を取っちまうのも、まぁ、分かる」


 多分、僕は嬉しかったんだと思う。こんな拙い話を真剣に聞いてくれて、理解してもらえた。そんなこと今まで無かった。

 僕はどうしても涙腺が緩むのを止められなかった。だって止めようとしたら目の奥がとても痛かったから。


「あたしは口が悪いから言葉も汚いけどな、それでも人間だ。お前が歩んできた人生を思えば、辛くもなるよ」

「はい……っ」

「無理すんな。辛かったらあたしんとこに来いよ」

「っ、はい……」


 口も態度も悪いがそれだけだ。ヴィオラさんはとても良い人だった。


 あの村では他人は全員敵だった。病気の姉さんを置いて逃げるなんて考えられなかった。だから生活せざるを得なかった。それがどれだけ辛かったか……それを初めて、敵ではないと心から思える他人に話せた。


 これがどれだけ大きな出来事か、きっと僕にしか分からないだろう。小さな心配が、これだけの結果に結びついたなんて、今までは考えられなかった。


「それ飲んだら今日はもう帰れ。姉貴が心配してるぞ」

「分かりました。今日はありがとうございました」

「おぅ」


 短くぶっきらぼうな返事だが、表情はとても柔らかく、穏やかだった。これがこの人の本当の顔なんだろうな……。そう思えるくらいには、歩み寄れたと思うし、理解出来た気がする。


 僕はカップの残りを飲み干すまで、ゆっくりと時間を掛けることにした。ヴィオラさんは何も言わず、時間稼ぎをする僕に付き合ってくれた。

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