プロローグ 転移
二人の男が話している
「おいおい…冗談キツイぜ…」
「やるしかないですよ。ただの生物なら余裕でしょう」
「"ただの"生物ならな…アイツらは恐らく魔物って奴だ」
彼等は突然現れたまるでゴブリンの様な姿をした謎の生命体の群れと向かい合っていた。
3時間前・・・
硫黄島
7月23日8時36分37秒
「畜生、米兵共まだまだ来やがるぞ!」
1人の男が嘆いていた。男の名は井垣 吉男。大日本帝国陸軍少佐。様々な軍用車両を乗りこなせる数少ない人物。
彼は硫黄島防衛の為、前線を維持していた。
「嘆いていても仕方ないです!とにかく奴らを殺せば良いんです!」
「ああ!分かってるさ!」
同じ分隊の仲間、中村 拓夢中尉に返事をする。
「弾切れだ!再装填する!」
弾切れを伝えると突然空にまるで閃光手榴弾を使ったかのようなとてつもない光が発生する。
「前が見えねぇ!奴らの新兵器か!?」
「いくら奴らとはいえ、ここまでの兵器は作れないハズだ…作れても味方がいる場所では使わないだろう…」
「じゃあ一体なんなんだ!」
味方の言葉に返事をする。
やがて光が消え、先程まで見ていた海の至る所が変わっていた。
そしてアメリカ軍が行っていた攻撃が止む。
「なんだ?突然光が現れたと思ったら海から所々岩が出来たときて、米軍の攻撃まで止むとはな」
「ですが、奴らはまだいるようです」
「む、アレは…白旗?」
アメリカ軍が突然降伏してきた。
そして、無線から衝撃の言葉が発せられる。
「状況が変わった。作戦は一時中止。繰り返す、作戦は一時中止」
「なんだと?作戦を中止するだと?」
当たり前の反応であろう。何故ならば、防衛作戦を中止するというのだ。
それが何を意味するか。それはすぐに分かった。
作戦中止するということは、硫黄島を捨てると言うことだ。
そして引き続き無線から衝撃の言葉が発せられる。
「米軍は降伏してきた。本国との連絡が途絶えたようだ。それと同時にこれらも本国との連絡が途絶えた。だがそれより驚くべき情報がある。それはこの硫黄島が別の場所へ転移したのだ」
そう、硫黄島が存在する場所は文字通り本来の場所ではなかったのだ。
「硫黄島が転移しただと?冗談はよして欲しいな」
「偵察に向かった部隊によると、周りは陸地があるとの事。そして驚くべき事に地形全てが世界各地の地域で構成されているらしい」
原因不明であるが、世界各地の一部地域が突然転移し、陸地になって行っているのだ。
『106大隊は各分隊は周辺を探索せよ』
「まさかこんな事になるとはな」
「行きましょう大隊長殿」
「その呼び方はやめろと言っただろうが…」
そして現在
「ここじゃ軍刀も使えん…仕方ねえ、素手でやるか」
吉男が急に脱力する。
「隊長何やってんですか!死にますよ!?」
「まあ、見とけって」
ゴブリンの様な生命体が斬り掛かる。
「素人が…まともに剣も扱えんのか」
吉男が斬り掛かって来たゴブリンの様な生命体の腕を掴み、そのまま持っていた剣を刺す。
「殺人術覚えといて良かったぜ」
そう、彼は近接戦闘になった場合に備え、殺人術と呼ばれる物をマスターしていた。
「おい、1人じゃ勝てない事が分かっただろ?まとめて来いよ」
彼の言葉に反応したのか群れが一斉に斬り掛かる。
「話にならんな。これなら大佐の訓練の方が難しいぜ」
「流暢に話してて良いんですか!?」
「お前も周りに気を付けろよ。特に、後ろにはな」
中尉の後ろには2体ほどゴブリンの様な生物がいた。
「危なっ!?いるなら早く教えてくださいよ!」
「すまんすまん。なんせこっちは大量にいるからな」
ゴキッ
と生物の首の骨が折れる音が聞こえる。
「少しは戦略ってのを立てようぜ?」
吉男は近くにあった木の枝を掴み、肩甲骨を使って敵の首に枝を刺す。
「これで終わりか、呆気ないものだな」
「少佐が強いだけですよ…」
「そうか?」
通信が入る。
「106大隊第一分隊へ、どうやら海軍の連合艦隊も転移されたようだ。司令長官は106大隊、大隊長を呼んでいるらしい。至急、司令部に移動せよ。繰り返す、至急、司令部へ移動せよ」
連合艦隊司令長官が吉男を呼んでいるらしい。
「どうやらお呼びのようですよ。大隊長」
「だからやめろって…」
硫黄島防衛作戦司令部
「で、何の用ですかな。司令長官殿」
吉男の前には白い軍服で身を纏い、数々の勲章を付けている男がいた。
「来たか。吉男」
彼の名は内尾 理斗。山本司令長官が死亡してから司令長官となった男。学生時代の吉男の親友でもあった。
「お前も知っているだろうが、硫黄島と連合艦隊は転移した。そこでお前に頼みたい事がある」
「なんだ?」
「お前は軍用機を扱えるはずだ。探索をして欲しい」
吉男は過去にパイロットだった経歴もあったが、自らの意思で戦車兵、最終的に歩兵となった。
「お前も知っているはずだ。俺は海軍機を扱えない」
「いや、どうやら別の場所に陸軍の航空基地があるようなのだ。その基地はお前が所属していた基地のようだ。つまり…」
「俺の機体がある可能性がある…という事か…」
過去に搭乗していた愛機がある可能性があるという。しかし、大戦初期に搭乗していた為、操縦が出来るかどうかすら不明であった。
「やる価値はあるだろう」
「分かった。やろう」
「それでこそ"英雄"だ」
「辞めてくれ俺は英雄と呼ばれる様な人間じゃない。寧ろ呼ばれてはならない」
「そうだな。お前はそんな人間じゃない」
「さて、早速その場所へ行こう。早ければ早い程いいからな」
こうして彼は、かつて所属していた基地へ向かった。
「懐かしいな…」
彼は基地を見てそう呟いた。
「思い出に浸るのもいいですが、任務を忘れないでくださいね」
「ああ、分かってるさ。」
中尉と1人の整備士を連れて格納庫へ向かった。
「本当にあるとはな…」
彼の視線の先にあったのは、一式戦闘機、通称[隼]
制式名称一式戦闘機二型
試作名称キ43-II
全幅10.837m
全長8.92m
全高3.085m
自重1,975kg
正規全備重量2,590kg
発動機 ハ115 二式一一五〇馬力発動機(離昇1,150馬力)
プロペラハミルトン・スタンダード可変ピッチ3翅 直径2.80m
最大速度:548km/h/6,000m
巡航速度355km/h/4,000m
上昇力 高度5,000mまで4分48秒
実用上昇限度10,500mないし11,215m
降下制限速度600km/h[255]
航続距離3,000km(落下タンク有)/1,620km(正規)
武装機首12.7mm機関砲(ホ103)2門(携行弾数各270発)
爆装翼下30kg〜250kg爆弾2発ないしタ弾2発
連合軍コードネーム:オスカー
この様な性能となっており、連合軍のパイロットは零戦とよく誤認していた。
「本来は戦闘機なんだがな…」
「それよりこの機体、後期型じゃないですか?」
「俺は歩兵になってから航空機については、殆ど知らないが、確かに至る所が変わっているな」
彼の機体は何者かにより、後期型に変わっていた。
「しかも整備もされている。それに最近誰かが乗った形跡がない。まるで待っていたかのように」
「一体誰が…?」
「呼んだか?」
3人が振り返るとそこには2人の男がいた。
「お前ら、何者だ?」
吉男が警戒する。
「俺達はこの基地の整備士だ。他の基地の連中は突然消えた」
「これはお前の機体か?」
男が尋ねる。
「ああ、俺の機体だった」
「なるほどお前があの英雄、吉男か」
吉男が応えると、男の1人が吉男の名を口にする。
「申し遅れた。俺が伊藤 太陽で」
「俺が斎藤 純一だ」
2人が自己紹介を終える。
「この基地の連中はこの機体が英雄のだと言って、誰も乗ろうとしなかった」
「だが、流石に初期型のままじゃ、いくら英雄と言えど米軍の最新鋭機には勝てないと思ってな」
「で、改装したと…」
「ああ、その通りだ」
改装した理由を2人が話す。
「早速だが、この機体を使いたい。飛ばせるか?」
「いつでも大丈夫だ」
吉男が隼に乗り込む。
「司令長官、何時でも行ける」
吉男が司令長官に連絡する。
「了解。5分後に離陸せよ」
「さて、こいつに乗るのは約4年ぶりか。腕が落ちてないといいんだがな」
最終チェックを終え、操縦桿を握る。
5分が過ぎ、エンジンを起動させる。
「隼、離陸せよ。幸運を祈る」
スロットルを上げ、離陸する。
「こちら管制塔、聞こえているか?」
「ああ、バッチリ聞こえてるよ」
「それは良かった。高度を上げ、周辺の地形を報告した後、北へ向かえ」
「了解」
彼は高度を上げ、周辺を確認する。
「これは…」
西に目を向けると、その地形は明らかに伊豆半島の形をしていた。
その大きさは、実際の伊豆半島ほどの大きさはなく、小さかった。
東を見ると、房総半島が見えた
そして、再び伊豆半島を見ると、明らかに大きくなっていっている。
それが何を意味しているか、それはすぐ分かった。
今も元の世界から転移され続けているという事だ。
「管制塔、どうやらここは東京だったようだ」
「何を言っている?詳しく報告せよ」
「陸は日本列島の形をしているようだ。実際の大きさほど無いようだが、確実に日本列島の形になっている。西には伊豆半島。東には房総半島があるようだ。何より驚いたのは、今も元の世界から転移し続け、その大きさを増しているという事だ」
吉男は確認できた事を全て話す。
管制塔にいる伊藤達は内心、戸惑っていた
「了解した、北へ向かい、引き続き報告せよ」
「了解、北へ向かう」
(この陸が日本列島の形になっているとすれば、北には北海道があるはずだ)
北へ数十キロ向かったところ、予想通り北海道が見えてきた。
やはり実際の大きさ程は無く、大きさは数百キロといったとこだろう。
そして、見ている間にも大きさは増していた。
「管制塔、北海道があった。だがやはり実際の大きさ程は無い」
「了解、基地に帰還せよ」
吉男は基地への移動を開始した。