第二話 そっくりというより2Pカラー
その後、謎の騎士たちに捕まった俺は両手を縛られ、吹雪の中を歩かされていた。
騎士たちの人数はだいたい20人というところ。
全員がフルフェイスのメットを被っており、誰一人として顔がわからない。
湊ならば鎧を見ればこの集団の正体を特定できるのだろうが、あいにく俺にそんなマニアックな知識はなかった。
覆面の強盗集団にでも囲まれてる気分だ……。
ザッザッザッと規則正しい足音と、それに反するようなガチャガチャうるさいフルプレートアーマーの音だけが雪山に響いている。
寒い。
寒風がビュービュー耳元で鳴っているのが聞こえる。
どう考えてもダッフルコート一枚で耐えきれる寒さじゃない。
異世界転生初っ端から、なんだって生死に関わる状態に追い込まれないといけないんだ。
まあ、異世界転生とは限らないんだけどな。
「大丈夫? もう少し歩けば城に着くから……頑張って」
震えている俺に気がついたのか、後ろの騎士が心配そうに声をかけてくる。
ゴツい鎧の割に、女のようにか細い声だ。
あまり力が無いのか、装備の重量に振り回されてフラフラと歩いている。
たまに木にぶつかって、ゴンッと激しい音を立てているが、彼の方こそ大丈夫なのだろうか。
しかし……城か。
どうやら俺はこの騎士たちの城に連れて行かれるようだ。
ノイシュヴァンシュタイン城は消えてしまったから、きっとそれとはまた違う城なのだろう。
着いたら、一体何をされるのだろうか。
この雪山に置き去りにされても困るのだが、酷い扱いを受けないことを願いたい。
――くっそ、寒い通り越して眠くなってきたな。どこでもいいけど、早く着いてくれないと、今度は俺の意識が消えるぞ。
徐々に瞼が重くなってくる。
そんな俺を見かねたのか、隣を歩いていた長身の騎士がハルバードの柄で頭を小突いてきた。
小突くと言っても結構な威力だ。普通に痛い。
「寝てもいいが、起きたら天国だぞ」
声の調子からして、中は男だろう。
「ありがとうございます……おかげで眠気とか、色々吹っ飛びました」
「そりゃ僥倖」
こっちは痛みで泣きそうだけどな。
眠気が覚めたところで、折角なので彼に疑問をぶつけてみることにした。
「あの……ここってどこなんですか? ノイシュヴァンシュタイン城を仲間と一緒に見に来たんですけど……」
「……は?」
実にいいリアクションだ。
顔が見えなくても、こいつ頭大丈夫か、と思っていることが手に取るようにわかる。
だがここで引き下がってしまってはダメだ。
「あんなところをうろうろしていたのだって、わざとじゃないんですよ? 気がついたら本当に異世界転せ……じゃなくて、道に迷っていただけで、悪いことしようだなんて――」
「今お前……なんて?」
「?」
「何の城見に来たんだって?」
「ノ、ノイシュヴァンシュタイン城……ですか?」
ザッ、と男は足を止めた。
一体何だというのだ。
周りの騎士も、立ち止まった仲間を不思議そうに見ている。
さっきのひ弱な騎士は、突然目前で止まった男の背中にぶち当たり、ヒァッ! と情けない悲鳴をあげていた。
だが、それらを全く意に介さない様子の男。
彼はじっと俺を見つめたかと思うと、おもむろに兜を脱いだ。
「いやあ、敵だったらどうしようかと思ったら、僥倖なのはこっちの方だったな」
そんなセリフと共に中から現れたのは、猛禽類を思わせる金色の瞳を持ったイケメンであった。
長い黒髪を背中で結っているせいか、若干大人びて見えるが、歳は俺とあまり変わらないだろう。
しかし、そんなことはどうでもいい。
俺にとって、もっと重大な問題がそこにあった。
「か、幹事長……?」
その男の見た目は、先程行方不明になったサークルの幹事長そっくりだったのだ。
――幹事長本人……てわけじゃなさそうだよな。それなら俺を縛り上げるなんてしないはず……でも他人の空似にしては似すぎというか、ここまで来ると格ゲーの2Pカラーみたいだな。
「お、やっぱり俺の顔に見覚えある? ……これは当たりだな。ハインリヒ、コイツの縄を切ってやれ!」
「は、はい!」
幹事長似の男はニヤリと笑い、いまだに背後でよろめいているひ弱な騎士に声をかけた。
ハインリヒと呼ばれた騎士は、ワタワタしながらも俺の背後に回り、手の縄を切ってくれる。
あんなにもしっかり結ばれていた縄は、意外にもすぐにハラリと地面に落下した。
「あ、ありがとうございます……」
「こちらこそ……ごご、ご無礼をお許しください……」
少し腕に風が当たる感じはしたが、引っ張られる感覚など一切しなかった。どうやって切ったのだろう。
俺は地面に転がる縄の切れ目を不思議そうに眺めていたが、そんなのは知らんとでも言うように、幹事長似の男は俺の背に手をかけてくる。
人見知りの幹事長と違って、やけに馴れ馴れしいな、コイツ。
同じイケメンでも、幹事長は真面目、実直、人見知り、の三拍子だった。
そのせいで教授を敵に回し、留年を3度も繰り返すことになったのだが、この男はまさに正反対といった様子である。
言うなれば、軽率、適当、コミュ力爆発といった印象だ。
グループの中心で空気を作っていくタイプだろう。
そして、俺の苦手なタイプでもある。
「とっとと帰るぞ! お前に色々と話さなきゃいけないことがあるからな!」
俺はテンションの高い幹事長2Pカラーに引きずられるようにして、彼らの城に向けた残りの道のりを歩いた。
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