08 領主のお仕事
無事にミエードは開放された。
これから俺がすべきことは領主として領地経営になる。
神の仕事って究極的にはこの仕事の延長線上にあるんじゃないのか?
そんな気がしなくもなかった。
政治、経済を当面の問題として
問題点を書き出してみたのだが・・・
いやいや、ミエードって領地の広さの中には
サミラの大森林
ソンデの砂漠
ギルタの街
ゾハルの街
セキルの街
広大な領地の割に街が3箇所しかなく
森と砂漠が領土の大半を占めていた。
ミエードの街は大都市にできる。
外に出られず重税に苦しんでいた民が数多くいる。
貴族以外の住むスラムを領地から吸い上げて溜め込まれていた金を使い
住民に家を与えた。
共産主義にするつもりはない。
共産主義とは全てが国のものであり
貧富の差がなく、住民の物は国の物
住民は働いても働かなくても同じ金銭を手に入れられるという政治方法だ。
神の知識に触れてわかったことだが、この考えでは政治は破綻する。
軍の独裁でしか機能しない上に、独裁国家の末路などいくらでも歴史が証明しているのだ。
経済については当面の間、税金はなしにする。
領地を富ませる過程で今まで重税に苦しんだ民が逃げる必要がないことをわからせるためだ。
現在の住民に生活する以上の余裕はない。
貴族への借金も多いだろう。
貴族は全て排除するから借金も証文も全てなかった事にする。
圧政に苦しんだ末に開放されてバーゲンセールを行ったのは
重しが取れて浮かれてしまったからという冷静な判断をしていた。
今の俺は全知全能とまでは言わないが
神の知識にアクセスできる。
多重の次元を統治する神の知識にアクセスができる。
モデルにするのは地球の織田信長という男の楽市楽座と
同じく武田信玄という男の治世である。
民を富ませ、活気と生気に満ち溢れた土地にすることを第一目標とする。
その中で頭角を現す者も出てくるだろう。
神は基本的に干渉せずに、民が率先する統治に期待したほうがいいと思っている。
それこそがこの世界に繁栄をもたらす礎を築くのだ。
ミエードを頂点としてギルタは教育と濃厚の土地とする。
ある程度の建物があり税金も一番多く取っていたようなので
発展都市として推し進める。
サミラの大森林に面しているゾハルの街は
農耕を主産業として推奨する。
砂漠で実りの少ないオアシスのセキルの街
ここが一番の問題だった。
牧畜にも栽培にも向かない土地
砂塵が舞っているこの土地が成長する方策が何も見いだせないでいた。
「セリナ、ちょっといいか?」
何かを書き連ねているセリナに声を掛ける。
マリンがこっちを睨むから先にマリンに相談したほうがいいのはわかってる。
でも、気持ちと政治は別と割り切らないといけないのだ。
「何でしょうか?」
筆を止めてセリナがこちらに向き直る。
「セキルの街はどうしたらいいと思う?
正直言って何かできるほどの発展が見込めると思えないんだけど?」
うーんというふうに口元に人差し指をかけて少し考えて
「砂漠を渡る時に街というものは必ず必要になります。
今回コルタ様は税金を免除するというお触れを出しましたわ。
そうなると砂漠を渡る行商人はセキルを通るのではありませんか?
行商人が砂漠を渡り街に入るということは
経済発展が見込めるのではありませんこと?」
確かにそのとおりなんだけど
問題は盗賊とかそういう問題なんだよな~
自警団を・・・待てよ?
剣術指南学校と魔法学校を作ればいいのか!
自警団を育て道徳を説く
皆を守る力を手にするための学校という役割を与えておけば
砂漠経由で領地を侵そうとする輩も退治できるというものか。
商売として護衛を付ける輸送護衛団を編成してもいい。
砂漠を開拓する発明や魔法も制作されるだろう。
方策は決まった。
「セリナ、ハゼル王に剣術、魔法、勉学のスペシャリストの派遣を要請してくれ。
恐らく、領民の中にこれらを教えることができるものは居ないからな。
ついでにハゼル王配下の者が指南に当たるのだから
やましい心がないことも証明できるだろう」
「それはオススメしませんわ」
即答で断られた。
「確かに二心を抱いていない証明にはなるかも知れませんわ?
ですが、それは領地の運営を国に頼ろうとしているのも同じことです。
この場合そうですわね・・・デスタさんに剣術を
ハリスさんに魔法を
勉学は私が担当するのがいいと思いますわ」
え?ハリスに魔法を教えさせるの?
大丈夫か?
いまいちハリスの実力を認められない。
暗黒魔法的なヤバそうなのしか教えられそうにないしな。
ギルタの街に人を移住させて戻ってきたハリス。
結局ハリスにも相談する羽目になった。
嫌々ながら
「ハリスは何の魔法が使えるんだ?全て教えろ」
「わしは全ての魔法を修めております。
わしには基礎魔法から究極魔法まで全てを操ることが出来ますが
コルタ様に敗北するまではわしの魔力の殆どをデスタを従えるのに使っていたので
今、デスタがコルタ様に従属したことでわしの魔力は全ての魔法を操ることが出来ます」
え?ただのお荷物と思ってたこのおっさんは魔法のエキスパートだった。
「わかった。ならデスタと共にセキルの街で魔法学校を建設しろ。
デスタには剣術学校を建設してもらい魔法と剣術で街の発展を目指せ
一応言っておくが良からぬことに魔法を使うように教えたり
自分の味方にしようなどとは思うなよ?
一瞬でお前の目の前に現れてお前を滅ぼすからな」
脅しも忘れない。
ハリスは俺に従っている。
でも、それは結局力で従えているに過ぎない。
力を結集すればなんて考えた瞬間不要になるのだから
そのあたりも釘を差しておく必要がある。
デスタは剣術だろうとうまくやるだろう。
道徳心を教えることもできる・・・と思いたい。
何度も殺された俺がデスタを信用できる理由がある。
デスタは俺に忠誠を尽くしている。
別にハリスのように俺の魔力で従属させているわけではないのだが
力量差を感じ取ったことで真の主と認めているのだ。
俺の意図しないことをすることは考えにくかった。
学校建設には元領主が溜め込んだ金をありったけ注ぎ込んだ。
人員はいくらでもいるし、皆食べ物にも困る生活でまともな仕事もなかった者達ばかりである。
人件費を惜しげもなく注ぎ込み
完全無料の学校が誕生した。
6歳以上15歳未満は学校に通わなければいけないこととした。
セリナが担当するのは6歳から12歳までの読み書き等の基本教育
12歳以上は適性試験を受けて剣術、魔法、勉学への道を目指してもらうことになっている。
つまりセリナは6~12と12~15を同時に受け持たなければならない。
こうなってくるとセリナの負担が半端ないので俺とマリンも基本教育に赴くことになっている。
領地経営には俺とマリンの人格をコピーして主導権を俺達二人が握る完全コピー体を用意した。
問題があった場合に俺達の指示を仰ぐようにしてある。
神の叡智に触れられるのは俺だけでコピー体は判断できないことも多いから俺が判断する。
俺は基礎教育の4,5,6年生を受け持つ。
マリンは1,2,3年生
セリナはそれ以上ということだ。
セリナは王族
知識を独占しているとまでは言わないが
知識量と知恵は信用できる。
こうして俺達の領地経営第1フェーズが幕を開けた。