ーヘレ視点ー山へ到着!
ーヘレ視点ー
この空間は異常だ!
それは我々の感覚に訴えるものだった。
未知の植物・動物を始め、こんな森の中も慣れない我々には不安を煽るものだ。
が、コウ殿がいる!
とにかく、予想を覆す方だ。
歩くのが苦手なコウ殿が疲労困憊でテントへと入ると、ミゲルがすかさず提案した。
「明日は俺がコウ殿を背負うから。」と。
まぁあの調子では、前方の山への到着は遥かに先になる。長の事もあるし。
すると…。
「いや、自分が背負います!」と仲間の一人が進み出た。
「ミゲルさんは、今や長の代わりです。ですから是非自分に!」
手を挙げたのは、部族の中でも力持ちの異能持ちだ。
「あ!待てよ!俺だろ?俺の腕力があればコウ殿を軽々運べます!」
おや?腕の異能の持ち主か?
「「「待って下さい!!それなら、俺だって!!」」」
あー。こぞって手を上げて会議は紛糾した。
まぁ分かる。
これまで、防虫煙玉やら、美味い飯やらと散々お世話になってきたのだ。
その上、あの性格。
恩を返したい仲間は幾らでもいる。
ハハハ。
珍しくミゲルが権力を傘に背負う権利を手に入れているとは。
ところが、だ。
翌朝、テントから出てきたコウ殿の横にはラゼが?
怪しいと側に寄ろうとすると、鑑定の異能持ちがコッソリとミゲルへ進言する。
「あれは、我々を超える存在。逆らう事は危険です。ましてやコウ殿に加護を与えているようです!」と。
その後、コウ殿を背に乗せ運ぶラゼにかなりがっかりした様子のミゲルに久しぶりに心の底から笑った。
しかし、こんな和やかな時は続かなかった。
ある日、予知の能力が発動したのだ。
見たものは…正気を失った仲間達。
そう。獣人化だ。
獣人化…俺達の恐怖は大変なものだった。
何故なら獣人化は、太古の暗黒の歴史。
それを知らぬテーレントの民はいない。
なのに、だ。
コウ殿は『カッコいい』と。
え?
全員がさすがに呆気にとられた。
この姿を見て恐ろしくはないのか?
なんと…無いらしい?
しかし、だからと言って不安が解消された訳では無い。
すると…
不安を解消すべく出されたのは…ミルク?
『じゃあ、これ飲んで!』と気軽なコウ殿の言葉に半信半疑で飲めば、あっさりと我々の懸念は消え失せたのだ。
じゃあ、行こうか!と。
気軽な感じコウ殿に我々も後を追う。
姿は未だ獣人化中だが、チラチラと我々の耳や尻尾を見ては嬉しそうなコウ殿に皆で首をひねる。
『カッコいい』は本気だったのか?
慰めでは?
触りたそうなコウ殿に我々も暗い気持ちから脱した。
たった一人の理解がこれほど慰めてられるものとは。
獣人化した我々の足は素早く、ほんの数日で山へと到着するとかになった。
「だから言ったろ!獣人化は正義なんだよ!」
と、威張るコウ殿に苦笑いになったのは仕方ないだろう。
我々は遂に来たのだ。
あの伝説の山へと。
恐らくここに『約束の地』へのヒントがあるはず。
長…もう少しです。待っていて下さい!!