異空間の森で!
ーコウ視点ー
生い茂る木々に光りが遮られる深い森。
人が歩く道などある訳もない。
だけど、ちゃんとした道が無い森の中を歩くのは思ったよりずっとシンドイ。
長老の言う『言い伝えの山』を目指しているはずだが、先は見えない。
見たことの無い植物ばかりのこの森はまさに太古の森。虫や鳥、動物達も見知らぬものが多い。
だから油断は禁物だと皆で警戒しながら進む。
高い山は、近くに見えると言うけど本当だったよ。
はーー。歩いても歩いても近づいた気がしない。
休憩を挟んで貰うけど、圧倒的に足りません。
と、言うか俺のみ付いていけない感じなんです。
さすがに申し訳なさから必死になってみても足の豆が潰れただけで何も変わらないよ。
地味に痛いし。
僅かに進んだだけで、その日はキャンプとなる。
これでいいのかなぁ。不安が過ぎるよ。
このままじゃいつたどり着くやら…。
疲れたけど、料理は別!
だってこれは、俺のテリトリーなんだから!
ふふ。
今日は火を使わない料理として、サンドイッチだ。と言ってもハムと魚のフライのフライの二種類だ!
これさ、ヨーゼストで人気だったから大量にストックしたんだよ。
え?余剰在庫整理?
ち、違うし!!ちゃんと美味しいリクエストを…。
うー。実は体力不足でして。
もう、足がパンパンでお風呂〜!!とリクエストしたいくらい。
とにかく、皆んなには大人気だったから良かったよ。皆んなはまだ会議らしいけど俺はギブアップ!!
お先に寝袋に潜り込んで、と。
あぁーー。あったかい…。
えーーー???あったかい??
誰?誰か間違えて俺の寝袋に入ったのか?
どっから来たんだ?
子犬が1匹入り込んでいるし。
なんと!この異空間にも犬ならいるのか。
おーー。可愛い顔して見つめやがって参るなぁ。
これじゃ、追い出せないじゃん!
ま、負けましたよ。
こんなつぶらな瞳に負けない奴は人間じゃねぇ!
と、言い訳をして一緒に寝ました。
恐らく翌朝皆んなに叱られるけどラオが居ないから大丈夫だろうと予想して。
(もちろん予想は外れるけど…)
隣にいる暖かな存在に眠りに誘われて一瞬で寝落ちした。
翌朝…。
つ、潰れるーー!
た、助けてーー!
って夢を見ました。え?夢じゃないって?
マジか。
子犬め、一晩で成長を遂げるとは…やるな!
貫禄充分の大きさになって寝袋いっぱいとはな。
いや、それどころじゃないよ。俺が潰れるし!!
頼む、退いてくれ〜!!
俺の心の叫びを聞いてくれたのか寝袋から子犬?は飛び出してペロリと顔を舐めた。
えっ?これでOKってか?
あー。OKでしょ。
つぶらな瞳攻撃にまたもや負けて俺と子犬?はテントから出た。
ん?
何か忘れているような…あーーー!!!
子犬?を匿ってたの忘れてテントから出ちゃったよ。
ヤッベ。お説教決定か?
皆んなに取り囲まれてドギマギした。
「コウ殿。
このラゼは何処で拾われたのですか?
まさか異空間へ連れて来たとかでは。。。」とミゲル。
う、疑われている。
ご、誤魔化さなきゃ…えーと。
「いや、勝手に来ただけで俺は悪くないと思う!」
あちゃー。
言い訳として、全く成り立たないし。
地味に皆んなの目が怖い。言い訳まずったかぁ…。
ミゲルがラオ化して色々説明される。
その後、ラゼは人に懐かないとか。
人は襲わないけど獰猛とか。
そりゃ、色々聞いたさ!
(まぁ人はそれをお説教と呼ぶがな!)
ミゲルのラゼを野に帰せ作戦は結局失敗に終わった。
何故ならラゼがぴったり俺にくっ付いて離れないから。他のみんなには牙剥くから手も出せないし。
はい!根負けして連れて行く事になりました!!
良かったな。
よーし。じゃ、名付けだな!
『太郎』
うんうん。いい名前だな。
まあ、子犬を拾ったら太郎だろう。
俺の前世の記憶がそう告げている!
何となく太郎が変な顔した気がするけど、気のせいだな。きっと!
しかもだ。
太郎はすっげ〜いい奴だったのだ。
な、なんとーー!
俺を背中に乗せてくれたのだ!
これで悩み解決!ならば…と俺は意気揚々と森の探検隊となった!太郎の背中は乗り心地も良いし!
うーん。緑の風がいい感じだ。
余裕のある俺は、森を眺めて気がついた事がある。
時折強く風が吹いてくる。
しかも一定の間隔だ。
それは二つの山の間から吹いているように思えた。
その風は、特に朝一と夕方の二回が凄い。
日の出と日の入り。。。
何か意味あるのかなぁ。
俺がそんな事を考えていたから俺を見つめる瞳に気づかなかった。
太郎だ。
それは狼らしからぬもの。
そして何かを探るようなもの。
そう、まるでコウの心の行方を見定めようとするような瞳に見える。
まあ、それとてもコウは全く気づかないが…。
ーアーリア視点ー
無事渡ったようね。
女神セレーネ様もこれで安心なさるわ。
あの『地図』
恐らくは二つで揃いのもの。
二つを見比べようとしたのをまさか新種が気づくとは。
今はまだ危険と判断して雨の道を進む。
恐らくは…と考えていたら予想は的中となる。
我々の拒絶。
テーレントの民のみ通すと言う意思。
雨の道を作った『星』はコウ殿達が異空間へ入った瞬間!『落ちたのだ』のだ。
その途端雨の道は崩れ去り、激しく雨が身体に当たり痛みすら感じる雨。
激しく打ちつける雨から逃れて這々の体で我々は脱出したのだ。
振り返るとバリーの顔色が悪いような。
まあ、彼ならそうなるでしょう。
コウ殿を本当に大切に思っている彼は、前職が影であったとは思えないほど真面目なのだから。
異空間の話をして納得してもらわなきゃ。
ふふふ。
殿下方も納得したようね。
皆でテントを張って待機しようという事になった。
心配はしている。
だが…誰もが同じ思いなのだろう。
彼ならばと。コウ殿ならきっとこの地の古き軛を放つだろう。と。
さて、コウ殿。
テーレントの真なる禁足地へと向かってどうしているだろうか?
本当の禁足地とはこの場所だけだと、今となって知る者もいないが。
彼は主様に会えるだろうか?
永きにわたって自らの地を封じたあのラゼに。