コウの見た夢。
ーコウ視点ー
その夜、俺は夢を見た。
夢の中で俺は狼とレイバンに会ったのだ。
『ふん。
生意気なやつだ。こんな手段を使ってここへ辿り着くとはな。
まぁいい。
さて、お前にはコイツが誰か分かるのか?』
その狼の大きい事。
黒い毛に灰色の毛が混じる身体を横たえて。
そう。まるで自分の身体で後ろのものを守っているそんな風に俺は感じた。
鋭い牙を覗かせて俺を威嚇する仕草も不思議と恐ろしくは感じなかった。
それはたぶん俺たちの大切なものが一緒だからなのだろう。
狼の後ろには、大きな鷲(勝手に鷲と思っています。)が翼を広げたいままの姿で倒れていた。
『ククク。面白い。
お前にはコイツが何者か分かるのだな。
そうか…大切だと思う心は変わらぬか。
セレーネの約束は誠のものだったという訳か。』
夢だからなのだろう。
狼は俺の思う事を理解した。
そして近づきたくともレイバンに近づく事は出来ないと何故か俺は理解していた。
『コヤツをどうする?
お主ならここまで来るだろう。しかし来てどうすると言うのだ?
最早人間達に、コヤツの運命を変える力など無いぞ。
ん?懐に持っているのは何だ?
。。。
そうか……。ならばやってみるが良い。
この地の約束が果たされたならば、コヤツはお主らの元に返そう。』
何故だか俺にはその時は、その約束が理解出来ていたと思う。
だから、思いっきり頷いて笑った記憶がある。
あるが…約束は起きるとすっかりなんの事か分からなくてなった。
レイバン!待っていてね。
俺の心の叫びは聞こえたかは分からない。
だって、そのまま朝になり目が覚めたからだ。
だからこそ、最後に狼が言ったセリフも耳には届かないままだった。
『古き記憶が蘇ったわ。
お前は、俺の友人に似ておる。
その真っ直ぐな瞳で怖がらず俺を見つめるところなどそっくりよ。
コウ。レイバンはお前を信じておる。
今、この姿となっても変わらず、な。
では、俺もお前が来る事を信じて待ってみるとするか…』
狼の声が少し楽しげだった事は彼自身も気づかないままだった。
ー長老視点ー
知識の部族の長を引き受けたのは、異例の25歳の時だ。
私の前の長老が既に125歳を迎え儀式を行うと通知が来たのだ。
この部族の成人の者なら誰もが参加する。
それは、この部族の習わしである。
そして、その儀式には誰もが憧れる扉が関係していた。
長老が降りる時、扉は開かれなくなる。
その昔、この部族に相応しい者がいなかった時など250年もの長きに渡り扉は閉ざされた。
部族の者達は、その間はただひたすらに扉の警護任務に当たるのみとなる。
久しぶりの儀式は、何日もかけて行なわれた。
扉の前に立つだけ。
扉がその者を拒否するか、受け入れ扉を開くか。
単純な決め方の割に時間がかかる。
長老の『行ってよし』のセリフが終わりの合図。
それまで何時間でも扉の前から動く事を許されない。
3日目にして、私の番になる。
若い人間が選ばれた事は実はない。
そんな訳で長を長年『長老』と呼んできたのだから。
私はただ単に儀式を面白く思いながら扉の前に立った。
立った瞬間!
扉の隙間から光が溢れてた。
そして扉は、ゆっくりと開いた。
目を丸くした私は側にいた長老を見たらば、長老も目を見開いたまま固まっていたのだ。
「こんな…まさかこんな事が。」
振り向いた長老の青ざめた表情から良からぬ結果なのかと不安になる。
長老は扉の向こうに私をそのまま連れて行った。
暗さはないが、長い階段がありそれを降りるとまたもや長い廊下が現れた。
廊下の左右には幾多もの扉があり、おそらく必要でなければ開く事はがないのだと予測出来た。
突き当たりの扉は、何やら特殊な飾りがあり重厚な雰囲気を醸し出していた。
長老が手を翳すと扉はゆっくり開いた。
中は普通の部屋だった。
奥に本棚があり手前にはテーブルと椅子。
ありふれた姿にホッと肩の力を抜いた。
「お前の想像はこの様なのだな。」
長老の一言に首を傾げると。
「この部屋は代々の長老の想像を部屋が感じて姿を変える。
この部屋こそが知識の部族の心臓部なのだからな。」と。
そして、頭の全く追いついていない私に長は次の爆弾発言をした。
「あの扉が開くとき、知識の部族の終わりを意味する。
そう『約束の地』への道が開かれる時だ。」
伝説は本当だったのか。
以前は山も湖も森すらもある豊かな地『古代テーレント』
その復活が近いという事だろうか?
「まずは学べ。この部屋で為すべき事を学ばねばならぬ。良いな。」
その日、私はこの部族の長となる。
最後に長老が「こんなに若くしてなった者は無い。それも意味のある事だろう。」と呟いてまた、驚いた。
それから、数年が経ちコウ殿が現れた。
そして、今私はコウ殿達と約束の地へと向かう。
部族を離れる長は、私が初めてで反対もあった。
しかし、私は知っている。
今こそ、受け継がれてきた知識を活用する時だと。
旅立つ私の胸は高まっていた。
その後の過酷な旅を知らずに。
役立たない悔しさとの戦いを知る事も無く…。
しかし。
コウ殿は私を長老!と呼んでは頼りにする。
この草何?
これって、どう言う意味?
私の返事に「さすが長老だな!サンキュー」と。
そんな些細な言葉に励まされ私はこの仲間となっている。
しかし、しきりに言う『サンキュー』とは何か?
どの本にもその答えは無いのだが…。