襲い来る新種!!
ーコウ視点ー
ラオの指摘でようやく皇太子殿下だと認識した俺は、慌てて跪く…予定でした。
全力で2人が止めて来なきゃ出来ましたよ。
なんで?
「僕らの恩人で、僕らの両親の恩人でもあるのですから。」だとさ。
え?あれですか?
あの時ロイスの隠れ家まで連れて行った時の事か?んー。あれは白仮面がやったことだし。
え?飴玉とかって…。
あー!忘れてましたよ。子供の純真な心!!
飴玉如きとか思う俺は、もう汚れている。
そーか…そうなんだぁ。
俺と殿下達がバタバタしていると、長老から今一度テントへと皆さんを誘う声が聞こえてきた。
アーリアさんが「早くあれを!」とかおっきな声で殿下達に呼び掛けていた。
ヨーゼストで仲良くなったらしいけど。アーリアさんの適応力の高さは凄いなぁ。
テーブルに広がっていた地図を見て、殿下達が懐から一枚の地図を出してきた。
なんだ?この地図…。
俺がそれに手を伸ばした時だ。
ドカンーー!!!
突然の攻撃はテントを吹き飛ばす勢いでテーブルの上の物がバラバラと飛び散ったの所で、俺達は慌てて外へと飛び出してそのまま…固まった。
夥しい数の闇影獣。
地平線まで続くほどのその数は、絶望感より驚きの方が上回わり呆然となる。
どこから?
なぜ?
こんなにたくさんなんて…。
頭の中をぐるぐるしているだけで、やるべき事など頭に無いまま、俺どうしたらいいんだろうとか、役立たずだし、なんて全く役立たずの考え事をして攻撃に対して構える事すら忘れ突っ立っていた。
もちろん、そんな俺を闇影獣が見逃す筈もなく、前列の闇影獣から俺に向かって一斉攻撃が放たれ火柱が放たれた!
何本もの火柱が立つも、俺の周りにはバリー達光魔法の一団の防御バリアを張って貰ったお陰でピカピカと光っているだけで傷ひとつない。
傷はない…無いのだが、この攻撃は俺の心臓を震え上がらせるのに充分だった。
震えながらも、我に返った俺が周りを見渡せば、ミゲル達は武器を構えると次々に闇影獣に襲いかかっているところだった。
その攻撃は激しく、闇影獣は次々と倒されていく。
それでも圧倒的な数の有利は覆らず戦いは苦戦と言って良い状況だ。
あの長老も、なんと戦いに加わっていて長剣を華麗に操っていたから驚きだ。然もその姿は騎士顔負けであるのだから。
後方で味方に守られている俺とナット君の側にまでやがて戦いの余波は迫ってきた。
防御バリアを超えて飛んでくる土や石を撃ち落としているのはなんと…ナット君だ。
剣を構えて、次々と撃ち落とす姿は真剣そのもので、いつものあの笑顔はない。
ジリジリと状況が悪化していたその時!!
「危ない!!」
叫びはまだ12歳の殿下達のものだった。
殿下達が張ったと思われる光魔法のバリアは、俺達を襲う火を纏う石を弾き飛ばした。
子供と言える12歳でも戦っているのに。
俺はただただ逃げるしか出来ないまま。
「コウ殿・ナット殿。後ろに下がって!!このままでは足手まといだから!」
ラシェット殿下の言葉に頷きながら、ジワジワと後ろに後退する俺たち。
そう、足手まといそのものだよ。間違いなく、な。
いや、俺だけかもしれない。
必死に剣を構えるナット君の勇姿は俺には眩しいばかりで。
しかも、戦いは更に激しくテントへと後退する道すら見つけられない。必死なのは俺とて同じなのだけど逃げる事すら難しいんだ。
何故なら闇影獣は、やたらと俺たち目掛けて攻撃がヒートアップしてくるからだ。
まさに狙い撃ちか?
「チッ!!」
舌打ちしながらも、僕らを庇いつつ戦うラシェット殿下は光魔法と、剣の両方で激しく応戦中でこちらを構う暇とて無い。
どうしたら…。
その時だ。
「真なる姿で荒れ狂え!」
横手から声が聞こえた瞬間!炎が意思をもったかの如く闇影獣に向かって地を這うのが見えた。
ゼンさんだ!
あぁ、有り難いよ。さすがピピランテの長!
今まで出来なかった隙が生まれ俺たちはテントへと後退した。
再びテントへ…。
ザザザーーー!!!!
テントの入り口に手を伸ばした俺の横から、暴風が吹き荒れテントをはたき飛ばした!
隠れ家を失い呆然とする俺達の前に、殿下達を飛び越えた闇影獣が1匹目の前に立ちはだかる。
大型の犬サイズながら、真っ黒な身体からは息をするのも躊躇われる煙のようなものが染み出す。
まさに『地獄の番犬』の様な風情に身体から嫌な汗が噴き出す。
庇われ、逃げ出す足手まといの俺だけど息は上がり足はフラフラとする。
正直言って立っているだけで精一杯な状態だ。
チラリと横を見ればナット君が膝をついていた。
「ナット君!!」
恐怖から固まっていた喉から叫ぶにも、振り返る余裕がある仲間などいる訳もない激しい戦い。
すでに防戦一方となっていた。
それほどの数。
それほどの攻撃。
俺は必死にナット君を立ち上がらせせめてナット君だけでもと、逃がそうと手を貸していたら目の前から声がした。
『ふふふ。無駄な事を。
お主はこのままここで朽ち果てるのだよ。
散々吾の邪魔をしてきたがそれもここまでだ』
闇影獣は知能は無い。
えーー??
喋る地獄の番犬とは、新種なのか?
でも、なんで俺狙いなんだよ!
せめてナット君だけ…。
短い時間に様々な事が頭を駆け巡るが、大きな口を開けて攻撃体制に入る新種に為すすべとて無い。
悔しい。
こんな事…。
義父さん!!!
あれ?
目を閉じて身構えている俺にいくら待っても攻撃が来ない。
恐る恐る薄っすら目を開けて見た状況に頭が混乱してついていかない。
何?何でこんな展開に??
地を埋め尽くす闇影獣を更なる敵が襲っていた。
それは…ゼラブ達?
いや、正確にはゼラブ達小動物や、ザルド達鳥の仲間達。
特にゼラブ達の強さには空いた口が塞がらないよ。
だって、口から激しい炎を出して闇影獣を攻撃しているんだから!
小ちゃな身体のどこにそんなパワーが??
目の前の新種にも凄い数のゼラブとザルドが襲いかかっていた。
ザルドなんて、口から鋭い氷の粒を飛ばしていた。
ゼラブの攻撃と相まって新種は防御一方だ。
「ええい。やめよ!!
己はなぜ吾に従わないのだ…クーーッ忌々しい。
この借りは必ず返すからな!!」
そう言い捨てた新種の姿がボスンッ!と音を立てて消え失せた。
え?
やっつけた訳じゃないよな…??
新種の消えた地面にはゼラブがいつものように立っている姿があるだけだった。
すると、後ろから凄い歓声が聞こえた。
「「「おおーーーー!!!!」」」
何?闇影獣が消えたのか??
そう思いながら振り返れば、消えたのではなく倒された闇影獣で埋め尽くされていた。
形成逆転にしては、妙な具合だな。
俺が首を傾げながら考えていると、足元に不穏な動きを感じ下を見た。
ゼラブが見上げていた。えーー??
まさかのこの状態からの餌やりタイム発生なの?
こんな混沌でか??
増え続けるゼラブや小動物に、必死に胡桃を蒔き続ける俺は怪我してカリナ殿から治療を受ける仲間の元へ行く事も出来なかった。
「いいのよ。怪我人は私とカリナに任せて!」
髪が乱れたままのアーリアさんの笑顔が眩しい。
俺は、自分の出来る事を。
しみじみと役立たずの自分を噛み締めながら餌やりを続ける。
だからか。
どんどん増えいるゼラブに気がつかず、更には戦闘に全く参加していない動物にまで餌やりをしていたのに胡桃を蒔いていた。
しかし…胡桃は袋の中にどんだけあんだよ。
もしかして、胡桃って自己増殖するのか?
やっぱ前世とは違うよな。
すっげー。
その日の夜までかかった餌やりを終えて、今日は料理をする気力もない俺は『取り敢えず鍋』と言うごった煮を作って凌いだ。
結構これが美味くてちょっと驚いたけど、褒められて「まーね。」とかカッコつけた。
俺…って。
反省会は先延ばしにしてそのまま寝た。
もう、限界だったから。
本当は怖かったから。
布団の中でようやく虚勢を解いて休んだのだ。
だから、皆んなの話し合いは全く聞こえなかった。
ーナット君視点ー
付いてきて良かったのだろうか?
一つでも役に立ちたいと願って無理に付いて来てしまった。
料理の手助けなら私しかいない。
そう自分に自己暗示をかけて。
お兄様に習った乗馬を必死にこなしながら、コウ殿の元へとたどり着いた。
さすがのコウ殿。
やっぱり、不思議な現象に巻き込まれていたのに驚きつつも納得したりしたが、それも長くは続かなかった。
何故ならそれら全てを吹き飛ばす闇影獣が襲って来たからだ。
聞いたこともない。
こんな数の闇影獣が襲って来るなんて。
ウェスの言っていた通りだと思い出していた。
「闇影獣は、間違いなく新種により増加しています。しかも、団体行動すら取る。
もし、姫君が行かれるのであれば私に姫君を守る余裕はありません。
ご自身で戦う覚悟はおありですか?」
ウェスの問いかけに決意も新たにこの旅に加わったのだ。
私は、剣を構えてコウ殿の前に立つ。
これでもキヌルでは武術の稽古をしていた身。
呆然と立ち尽くすコウ殿に飛んでくる石などを剣で払いながら後退を続ける。
だが、私の腕前などでは上手くはずもなく攻撃を防いでいるのは光が魔法の皆さんの防御バリア。
しかし、光魔法の凄まじさをしみじみと感じる。
後退が出来ずに困惑するコウ殿を見て違和感を感じた。
何というか…狙い撃ち的なものを感じるのだ。
闇影獣にそんなものがあるなんて聞いた事も無いが。
必死に防ぐ仲間達も、隙を作れない。
その時!
ゼン殿が逃げ出す手伝いをしてくれた。
さすがはピピランテの長。
やっとテントに…
しかし甘くはなかった。
テントは新種によって吹き飛ばされ、私もその煽りでコケた。
新種からは毒息が掛かり立ち上がれない。
どうやら新種は、コウ殿狙いのようだ。
コウ殿がせめて私だけでもと、思う心が伝わるも攻撃は目の前迫っていた。
ここまでか。
そう誰もが思った瞬間!
沸き出るようにゼラブの群れが現れた。
不味い…増員なんて。。。
そう考えたのは、私だけではないだろう。
しかし、現実は信じられないものだった。
なんと!!ゼラブやザルドによって敵が倒される事になったのだ。
全ての闇影獣がだ!!
闇影獣を闇影獣が襲う。しかも我々を助けて??
頭の中をクエッションが渦巻くも、とにかくテントを立て直し怪我人の治療からだと気付いて手伝いに走る。
怪我をしたミック殿やテーレントの方々を診るのはアーリア様とカリナさん。
さすがは神殿長。
物凄いチカラで次々と治療を終える。
『軽症者ばかりで楽ちん』とアーリア様は笑う。
さすがのコウ殿。
あの闇影獣に餌やりをしているのだから。
しかも闇影獣がコウ殿に懐いている??
はー。やはり規格外。飛び切りの規格外。
コウ殿は疲れた顔をしていたのに、とびきり美味しい鍋料理を作っていた。皆んなの笑顔が戻った瞬間だった。
コウ殿しか出来ない。
そして、これがコウ殿の凄さなのだわ。
しかし、そのコウ殿は食べるとすぐさま就寝された。
よほど疲れたのだろう…。
その夜…。
「まあ、コウが狙われたのは間違いない。
分かっていたが正直ゼラブの手助けなくば、結果は同じにならないだろう。」
ラオ殿が難しい顔をしている。
「おそらく僕らの持ってきた地図が原因かと。
コウ殿に見せたくない。新種の思惑はその辺りにあるかも。」
ラシェット殿下は地図を今はしまっている。
あれが原因とのお考えらしいから。
「しかし、ゼラブには驚きました。また、コウ殿のせいですか?」スタンさんの言葉にミゲルさんが頷く。
「初めて餌やりを見つけた時は驚きました。
あれは小型の闇影獣です。まぁ、コウ殿はそう思ってませんが。
しかし、私とて我が目を疑いました。さすがはコウ殿。感服しました。」
その後、詳しく説明を長老と呼ばれる男性がしているのを聞いてまた、驚いたりした。
その夜は、夜更けまで話し合いは続いた。
私もせめてもと、朝ごはんの下拵えをした。
これが今の私の精一杯だった。