やっぱ、積乱雲でした。
ーラオ視点ー
俺の厄日は続いている。
ラドフオード殿下が『光る秘石』にて、光魔法を取得するとの王命に従い、部下を沢山連れて来た事は想定内だ。
親父から以前より殿下は、ハーフの救済に力を注いでいると聞いた。いや、違うか。
ハーフこそ、その能力の高さから国のトップ集団にいるべきだと主張されてきた。
当然部下にはハーフが多く、今回の光魔法はその能力を示す絶好の機会になる。
俺でも想像出来る。
出来るけど…なんで王太子殿下方まで!!
それも、お二方を連れてテーレントへ向かったコウ達を追いかけねばならないんだ!!
俺…正直自信ない。
だって、殿下曰く。
「ラオに預ければ安心だな。コイツらはこう見えて未だ12歳だし、少し無茶するから頼んだぞ!」
少し??
いやー。そりゃ言葉の綾が過ぎるよ。
ここへ来る時だって護衛を振り払って前線に飛び出して闇影獣をやっつけようとしたとか。
光魔法を取得して、ご機嫌で手を振ってムルゼアへ帰郷する殿下を少しばかり恨みたくなったって無理ないだろ!
メンバーは、かなり有り難い人達だ。
スタンさんを始め、ウェスさん・ナット君・カリナさん・ゼンさん。
そして大丈夫だろうか?アーリアさん?
この方、どっかで見た事あるような??
因みにオリドさんは商会の仕事で居残りだ。
ものすごく地団駄踏んでいて、あのクールな顔に似合わなくて笑ったのは秘密な。
かなりの距離があるが、早駆けで進む。
意外にもカリナさんもナット君も全然平気のようだ。
もちろん、殿下方も同じく。
最も意外なのはアーリアさん。
乗っている馬?が少し違うような…。
頭に角とか生えてる馬とかいたっけ??
ま、そんな一行はテーレントへ入ったところで立ち往生しているのだ。
なぜなら、テーレントは地図があるようで無い。
部族単位で遊牧する為、村なども滅多にない。
道標になる地点もない。
ましてや、コウ達が向かった先さえ分からない。
草原の中で、休憩しながら今後の話し合いをしていると遊牧民が牛を引きながらやってきた。
よく見ればまだ、子供だ。
不思議な事に、殿下方が慌てふためいて子供の側へ駆け寄る。
子供同士、通じるものがあるのかなぁと想像したがいきなり跪いたからびっくりしたよ。
続いてアーリアさんも。
更に皆んなが跪くから俺も焦って同じくしたさ。
しかし、なんだってこんな風になったんだ?
この子…何者?
『コウには、世話になった。
お陰で牛も無事取り戻せたので、ちょいと手を貸そう。
お前たちの求める先は、この花が道標となろう。
急ぐが良い。』
おー。子供特有の大人の真似なのか?
この偉そうな口調は部族長の真似だろうな。
深々とお辞儀をする皆に倣ったが、顔を上げると子供の姿がない。
しかも、隣からクスクス笑いが聞こえる。
ラシェット殿下だ。
睨む訳も行かず、そっぽを向くと。
「ガイの息子であったな。確か名をラオと申したか。コウの側に居た為に変な所が似たのか。
あの子供は、主様の仮の姿よ。
この辺り一帯に広がる草原は、コウの力添えがあっての事だそうだ。
ほら、馬鹿面しておらんと進むぞ!」
えーーー!!!
動転してる俺を待つ訳もなく、一同はすぐさま出発した。
もちろん俺も早駆けして皆と共に進んだ。
その道の先には点々と白い花が咲いていた。
北へと続くその道をコウ目掛けてひたすら走る。不思議と闇影獣と出会わない俺達は普段なら考えられない速さで前へと進んでいた。
ーコウ視点ー
早まった。
雷雲の怖さを甘く見ていたよ。
雲の峰とは、積乱雲じゃん!
大雨と雷のセットタイプに一同は立ち往生した。
雨との境がやけにくっきりしていて、この先へ進む者を拒んでるみたいに見えた。
更に、土砂降りの雨の中にはピカッと雷が見える。もちろん! 音もバッチリさ!
近くにキャンプを建てて、取り敢えず今後について話し合う事になる。
俺は当然、昼飯の準備だよ。
トラッデの仲間たちは、何処からかお肉を調達してくるから俺は、ベーコンに挑戦した。
燻製にする葉っぱは、袋の中から適当に選んだ。
ハーブ系は麗(梟・主様ですがコウのみペット感覚)のいた森の中で沢山取ったからな!
ベーコンを作ると棒に刺してじか火で炙る。
何とも言えない良い匂いが充満して仲間達がテントから飛び出してくる。
「この美味そうな匂いは何ですか?」
長老も意外に大食漢で、俺の料理に興味津々だ。
俺がベーコンの説明をしている最中にも、バリーやミックなんか既に食べ始めてるし。
側にはシチューも作った。
何せ寒い。温まるものをとスープは欠かせない。
そのお陰でもないんだろうけど、風邪になる者は1人もいない。
俺も一緒に食べようとして、遠くから来る奴らを見つけて肩を落とした。
はー。野生動物にエサをやるな!って大事な事だね。
ゼラブ…完璧に味をしめたな!
袋の胡桃が無くならないからいいけど、北へまで付いてきてコイツらはマジ大丈夫なのか?
こんなに寒いのに。
一列に並ぶゼラブに餌を蒔き終わり、ようやくご飯をと思ったら、ピカッと光るものが。
近づくと、妙に光る石? だった。
いや、石にしては形が妙なんだよ。
そう、ギザギザしているのやけに光る。
俺はそれを袋に仕舞おうとして、コケた。
いや、そこに違う石があってね。決して運動音痴じゃないから!!
違うよ!!
そこ!
俺が言い訳してるのに、だーれも聞いてないし!
何でそっち向いてるんだ?
皆んなの注目を集める方を見ると、あんぐり!
土砂降りの雨の中に、一筋の道が出来てる?
急いで近づいてよ〜く見ると。
その道の真上には星が出てる?
ゴシゴシ。
さて、落ち着いて…出てますね。
どう見ても『星』
ん? あれってさっき拾った変な石に似てるような??
「コウ殿ー! 」
ミゲルの呼び声にテントに入ると長老が本を片手に興奮して説明していた。
「ですから! あの星はここにある『雨の星』に間違いはありません。
この記述によれば…
[『約束の地』への道は星を持つ者に開かれるとあります。星は地にありてその光を放たず。然れども約束された者来ればその光を取り戻さん。
その道の先に進む者は『約束の地』へとたどり着くだろう。最後の試練を乗り越えよ。]
…とあります。我々は遂にたどり着いたのです!! 」
「だが、誰がその星を見つけたのだろう。」ミゲルが首をひねる。
あれって。俺の拾ったギザギザ?
ま! 違うよな。だって俺は約束してないしな!
頷く俺にルスタフがジト目で見てるし。
変な勘だけ良いんだよな。ルスタフ。
ま、忘れようっと!
さてそんな訳で取り敢えず今後の進路が確定したので、早速出発しようとしたら地響きがして振り返る。
ドトドドドーーーー!!!!!!
土煙を上げて走ってくるのは、もしかして?
アーリアさん?
。。。
俺はこの時、年上の女性の本気の走りを見て悟ったのだ。暴走は、年に関係ないのだと。
アーリアさんを先頭にヨーゼストに居るはずの仲間たちが来てくれた!
あれ?
知らない二人組がいるけど?
「「お久しぶりです。コウさん!!」」
物凄く爽やか笑顔がイケメンぶりを更に上げてる。
く、悔しくなんかないから!!
き、気にしてないし!!
無難作戦の俺は、重なり合う二人の声にキョトンとしながらも、曖昧に手を振って応えてみた。
このそっくりイケメン二人組…だれ?
俺。知りませんよ!!
抱きつかれても、固まったままラオに助けを求めたけどサラッと流された。
「ラシェットです!」
「ブルスタッドです!」
二人同時の返事に頭の中の記憶を辿ってようやく思いついたよ。
ムルゼアのトート広場で迷子の二人のお名前だと。
あの子たちは、どこ?
同じ名前だけど…もしかして、お兄さんかな??
そう言えば面影があるし。
呆れ顔のラオの説明で大声で叫びながらも納得する。するしか無いし。
えーー!!!
これで12歳って…自信無くす…な…。
俺もまだ成長期のはずだし!!
いける!に違いない…たぶん…。