ルスタフの叫び?
ールスタフ視点ー
疲れた…正直もう、ザルドでの移動は勘弁して欲しい。
これと言うのもコウ殿がヨーゼストの最古の図書館から持ち出した『地図』のせいだ。
証拠隠滅とか…燃やして…とか言ってたけど、周りに聞こえたらどうするんだ?
冷や汗をかくのもいい加減慣れた。
しかも全部苦笑いでOKなのはどうだろう…。
ま、それも含めてコウ殿なんだがな。
バリーに聞いたところに寄ると、あの『地図』は太古の失われし時代とか言うものらしく、テーレントの謎解きのヒントがあるとか。
俺は、あんまり難しい事は分からないけどこの知識の部族が特殊なものだとは、気づいていた。
何重にも仕掛けが施され、隠された村。
しかも、遊牧民であるテーレントの定住部族なんて聞いたことが無い。
長老と村の重役のお出迎えを見ても、間違いなく途轍もない『地図』なんだと分かる。
幾重にも更なる守りで固めた家の中に入るのはコウ殿とミゲル殿のみ。
我々は、一旦休憩を貰うことになる。
一人に一杯づつのお茶が配られる。
水が貴重なテーレントでは厚い持て成しになる。
心して飲むが…うーん一言で言えば不味い。
コウ殿の料理ばかり食べてると口が贅沢になるんだろう。
だって、俺なんか影として働いてた頃なんて食えればそれで良かった。いや、それすら有り難い事だったんだ。
気を引き締めて、今一度味わって飲む。
うーん。
感想は変わらないけど、喉の渇きは癒えた。
長距離移動の疲れで、座り込んでいたら悲鳴が聞こえた!
なんだ?
闇影獣なのか?
ズズンと、地面が揺れて長老やミゲル殿も出てきた。
バリーが防虫煙玉を手渡している。
トラッデの部族の人達が一斉に駆け出す。
手慣れた様子で武器を手に戦う様は、まさに一騎当千だ。
俺も加わろうと、バリーに近づいた時コウ殿と目があった。
あの笑顔は…嫌な予感に俺の苦笑いも歪むよ。
「ルスタフ!」
呼ばれた俺が近づけばやっぱり、地面に絵を描いてる。はー。この役目卒業したいよ。
コウ殿の絵を読み解くのは、古代地図と同じくらい難しいんだから。
「だから、今すぐこれ作って!」
コウ殿曰く、小さな闇影獣を捕まえるとか。
。。。
夢物語?
そんな虫捕り網で闇影獣を??
とは言え、コウ殿の事。
長老に掛け合って無理を言って作成したら、コウ殿がめちゃくちゃ喜んでいた。
「よし!これで俺でも役に立つな。」
??
聞いた俺は、自分の耳を疑ったよ。
コウ殿が、そんな事を考えてるなんて知らなかった。無論、超鈍感のコウ殿だから役に立っている事に気付かない事は分かる。
でも、そんな自分に甘んじないで役立つ事を必死に考えていたなんて思わなかったのだ。
もっと、気楽にやっているように感じて……。
俺はバリーに断って外での戦いに加わりたいと申し出た。
大して強くなくても、影として生きてきたんだ。
俺だって、闇影獣と戦って…。
だけど。
俺の決意はあっけなく崩れた。
何故なら、一瞬で勝敗が決したからだ。
戦いは、俺の出る幕もなく終わっていた。
ミゲルさんは、防虫煙玉の新型だと騒いでいたが、俺とバリーはコウ殿のやる事だろうと頷いただけ。
しかし、それでは終わらないのがコウ殿だ。
おずおずと差し出したのは『小さな闇影獣』。
しかも、大量!
まさか…あの虫捕り網で捕まえた?
見えないと言われ、捕獲のされた事のない未知なる『小さな闇影獣』を?
しかも大量に?
ミゲル殿に続いて、俺も肩を落としたよ。
なんか勘違いしたコウ殿が疲れに効くと差し入れでくれた飲み物は、目の覚める美味しさだった。
村中の人にご馳走してたから、大騒ぎになってあた。
まぁコウ殿は闇影獣を倒したから皆が浮かれているのだと誤解してたけど。
俺達は、全てを明日の事にしてその夜はそのまま休んだ。
静かな朝が悲鳴で変わる!
「きゃー。」
皆一斉に目を覚ました。
何?
何が起きたのか?
それは捕まえた『小さな闇影獣』が変化していた事によるものを見た者が発した悲鳴。
綿毛に少し色付けた。
『小さな闇影獣』はそんな姿だ。
しかし今あるものは、泥。
まさに単なる泥があるだけだ。
逃げたのだろうか?
嫌そうな顔で眺めているのはコウ殿だけで、皆ガッカリしていた。
何故ならこの『小さな闇影獣』は新種と共に出るようになった事から新種と何らかの関係性があるのではと思われていたからだ。
謎が解けると期待されてた訳で。
すると、ジッと見つめいた長老が驚くべき発言をした。
「これではっきりしました。
新種は、泥からこの『小さな闇影獣』を作り操っているのです。
ですから、新種の元を離れてたら元の泥に戻る。
ほら、泥の中に小さな欠片が…」
よくよく見れば色の付いた石の欠片がある。
まさか、これが…。
触ろうと長老が手を伸ばしたら、欠片はサラサラと砂になり風に飛ばされて行った。
しかし、こんなに小さな闇影獣を操っているのなら、どう対処したらいいのか。
侵入を防ぐ手段が無い。
暗澹たる雰囲気が立ち込めたその時。
「じゃあ。これでどうかなぁ。」
とコウ殿ののんびりした声。
考え込む我々にコウ殿が取り出したのは、渦巻く緑の棒?
「蚊取り線香だよ。あ!違った。防虫煙玉の少しずつ焚くタイプ。火を付けてから消すと、煙が出るから。入り口に使えばいいんじゃないか?
人にも優しいタイプだから安心だよ。薬草を変えたから!」と言うと一人で動き出す。
「実験、実験!」と鼻歌混じりにまた、あの虫捕り網で『小さな闇影獣』を捕まえると防虫煙棒?に火を付けた。
煙に巻かれたい瞬間!『小さな闇影獣』はそのまま倒れ泥に戻る。
何という、画期的アイデア。
長老は、青白い顔で有り難いと喜んでいた。
分かる!
なるよなー。うん、うん。
「すぐさまやりましょう。」立ち直りの早いミゲルが動いた。
すぐさま村中でコウ殿と虫捕り網で捕まえて歩いては、防虫煙棒を仕掛ける。
そのおかげで
ほんの数分で、村から全ての『小さな闇影獣』は消滅した。
安堵感が広がって、楽しい朝食となる。
コウ殿は、朝食に力を入れるタイプだから余計だ。
今日は、大きな鍋に沢山のキノコを入れ汁を作っている。
お握りと言うヨーゼストの名物を添えて朝ごはんだ。
村人も一緒に食べる朝ごはんは、「美味しい!」「初めての味だ!」「身体に染みる!!」
様々な話し声が嬉しそうに聞こえる和やかなものになった。
はずだった。
「ルスタフ!こっち、こっち!」
また、あの笑顔だ。。。
それから…
地面に描かれた意味不明の絵を理解するのに半日が費やされた。
「蚊帳」とか言う名前の物体を作ってと、頼まれた俺の朝食のみ微妙な味がしたのは否めない。
あー、誰かこの役目を変わってくれーー!!
(言うに言えない心の叫び byルスタフ)
その後の丸一日をコウ殿の指示のもと『蚊帳』作りへと費やされたのだった。