ザルドに攫われてーバリー視点ー
ーバリー視点ー
ザルドに掴まれての空の旅は、苦痛以外の何者でもない。
しかし、遥か空の上では抵抗のしようもなく黙って運ばれていく以外ない。
コウ殿は、我々のように訓練された身体を持たない。さぞかしキツいだろうと隣を伺えばア然となる。
「だからー、分かんないヤツだな。俺たち人間はさ、こんな空の旅ばっかりじゃ身体が持たないから時々休憩挟んでよ。
はー?俺の事馬鹿にするなよ!レイバンの危機に逃げたりするもんか!」
理解し難い言い合いは続いているが、それはもう慣れた。
それより、この扱いの違いは何だ?
俺たちは、鋭いザルドの爪が肩に食い込み出血こそ無いが、かなりの痛みを生じている。
覚えたての光魔法がなければまず気絶して運ばれているだろう。
だからこそ、コウ殿の事が心配だったのだ。
それがだ。
俺たちが一羽のザルドに掴まれているのとは違い、とびきり大型のザルド一羽の背中に跨っているではないか!
しかも、数羽が付き従うように周りを固めている。しきりに話しかけるコウ殿が突風で落ちないように、周りの数羽が守る。
はーー。コウ殿仕様と理解しているが正直羨ましい。
夕暮れ近くなった頃、コウ殿の説得もあって地表での夜明かしとなる。
逃げない約束をしたコウ殿の言葉に従うのは理解したが、荒野での夜明かしとは…。
我々は問題無いが、寝袋とて無い状態では…?
え?
コウ殿が首を傾げながら、袋の中から沢山の道具を出している。
テント
寝袋
イスやテーブル
食器
ア然とするのは、ザルドも同様らしい。
何かまた、言い合っているようだ。
なるほど。
テーブルに所狭しと並べられたコウ殿の料理か。
確かにパーティかと勘違いする程の量だ。
「だから、君らの分もあるからこの量だろ。さ!バリー達も食べようよ。」
攫われたのをすっかり忘れているコウ殿にラドフォード殿下が心配していると言えば。
「大丈夫だろ。黒猫のヤツが伝言しとくとか言ってたから。
あ!でもバリー達まで巻き込んでごめん。
レイバンの危機だって聞いて思わず同意したけど、皆んなはイヤかな。」
さすが主様。
有り難い。スタン様始め、心配されていると予想出来るから気が揉めていたのだ。
俺は、一礼してコウ殿に答えた。
「いえ。我々はコウ殿の護衛。コウ殿の行かれる所はどことなりとご一緒します。」と。
苦笑いしているので、首をひねると。
「いやさ。何せ相手が新種の闇影獣だろ。間違いなく俺は、役立たずじゃん。
でもさ。レイバンには今まで散々お世話になってきたから裏方くらいはやりたくて。
俺もさ、防虫煙玉くらいは作れるし。」
今度はこちらが苦笑いの番だ。
コウ殿は、自分の真価にトコトン疎い。
どれ程凄い能力なのか…そしてその能力でどれだけの人を救って来た事か。
だからこその今なのだ。
でなくば、ザルドが人を攫うなどあり得ないと言うのに。
しかし、こんな大型のザルドは見た事がない。
テーレントとは、謎の国だと実感しつつ不安も沸き起こる。
考え込んでいると、ミックの囁く声がした。
「リーダー。
あれ、ほっておいていいですかね。」
指差す方を見れば、コウ殿が近づいて来た何かに餌を与えてる。
小型の何だ…え?
『ゼラブ』か?
後ろを振り向けばミックの頷く顔。
ルスタフなど顔色すら悪い。
『ゼラブ』とは、小型の闇影獣だ。
大きな害を為さないが、大量に出て畑などに被害が出る。
もちろん、人も襲う。
「可愛いな。お前たち仲間を呼んだな。
あっちからも来たじゃん!しょうがないな。
ほら。」
コウ殿が袋から次々と胡桃を取り出して蒔いている。
びっちり埋め尽くすゼラブに、楽しそうに胡桃を蒔くのをただ、ただア然と眺める。
「リーダー諦めましょう。これ、きっと襲って来ませんよ。」ルスタフの言葉に従うしかないな。
夜の不寝番は、ノーマからだ。
取り敢えず、コウ殿の料理で生気を取り戻して元気になった我々は、この先も続くキツい空の旅を思いながら一晩目の夜を無事過ごした。
遠くで『ゼラブ』の鳴き声が聞こえる気がした。
気のせいか…。
次の晩にその答えを知ること事となるのだが、その晩は知らない俺には幸せなん眠りが訪れていた。