テーレントの荒野で。
舐めたらイカンぞ『テーレント』
目の前は、砂・砂・砂。
ただいま絶賛『砂嵐中』。。。
レイバンが言うにはマルス帝国の中を通り過ぎるより近道だって言うから、テーレントの道を進んでた。
途中までは初めて見る荒野の地平線に沈む夕焼けに感動したりして楽しい旅だったんだけど。
このままでは立ち往生間違いなし!!
と、思ったら。。
「あっ!灯りが!!」
砂嵐の先にボンヤリとだけど小さな灯りが見えるぞ。レイバン達も気づいたみたいで必死に灯りを目指して進む。
そこは、小さな神殿だった。
この世界では『女神セレーネ様』をどの国も信仰していて世界中に神殿がある。
しかしこんな荒野まで。
「まあ、こんな荒野にお客様なんて。
なんて嬉しい事でしょう。」
頬を赤く染めて、神官らしき女の人が出迎えてくれた。
「さあさあ、砂嵐で大変でしたね。裏に納屋もあります。馬や馬車もそこへ。」
ふくよかなおばさん…コホン!
神官さんは、親切な人でご馳走を出してくれた。
シチューにパン。サラダと。
実はこの世界はあまり美味しい料理がない。
俺が料理屋なんか始めたのもそのせいなのだ。
なんか一味足りないんだよ。
でも!!
この料理はめっちゃ美味いぞ。
その上、ベットはフカフカ。
その夜はぐっすり眠れたよ。
翌朝になると嘘のように晴れ渡った空が広がり、穏やかな風が吹いていた。
サンドイッチのお弁当を作って持たしてくれたよ。
何て良い人なんだ!!
「コウくん。
あのね。これはおばさんが作った特別な飲み物なの。寒いところへ行くんでしょ。
腐らないし減らないから持っていって。」
ん?
減らない??
「ふふふ。
不思議な瓶を拾ってね。なんか減らないような気がするのよ。あっ!綺麗に洗ったから大丈夫よ。」
おばさんの勘違いだな…
おばさんに貰った御礼を言って俺達は、またキヌルを目指して出発した。
「あっこれ…
まさかの甘酒じゃん。めっちゃ大好物なんだよ。
うっま!!」
馬車の中で感激してる俺の横で昨日から静かなラオと、先をやたらと急ぐレイバンは少し青ざめた顔で瓶を見つめてる。
「本当だよ、美味いって。
後で二人も味見してね。」
あんまり乗り気でない二人が頷くけど、飲めば分かる!!
ご機嫌の俺はおばさんに改めて心の中で感謝した。
ーレイバン視点ー
緊急連絡は、遅れをとった影部隊をシゴキ直しているところへ入った。
あまりの内容に慌てて旅支度をして改めシゴキ続行だ。
おっさん達に現役が遅れをとるなんて許されない。例えそれが伝説の冒険者『デレクト』殿であってもだ!!
通常運転なコウを馬に乗せて慌ただしく出発する。素直なのか、鈍感が悪化してるのか俺の嘘の任務を呆気なく信用してキヌルの買い付けに思いを馳せている。
流石のコウだ。
暗部を放った皇帝の追っ手を躱す為、テーレントからキヌルへ抜ける道を選ぶ。
この道もある意味危険だがやむ得ない。
やはり来たか。。
テーレント名物『砂嵐』だ。
予感もなく砂嵐に会うなんて俺の勘も鈍ったな。
反省してる俺にコウが灯りが見えたと言ってきた。
そ、そんな筈は。。。
確かにそこには小さな神殿があった。
しかも、納屋まであるとは。
中には女性の神官がたった一人とは。
ラオに目配せをすると心得たとばかりに頷きが戻る。ラオも怪しさを感じてたか。。
しかし予想に反して美味しい料理と寝床を用意された。
そのまま夜になる。
警戒を解く事なく布団に入ると案の定…音もなく女性が枕元に。
ラオも胸に小刀を握って臨戦態勢か?
「ふふふ。
警戒をしても無駄よ。
ほら、動けないでしょ。
いいから良くお聞きなさい。
これからコウには『ボルタ』へ向かってもらいます。あの国で異変が起きています。
禁足地『ミズルド』へ向かいなさい。そこへ行けばやるべき事は理解出来るはずです。
コウには私から『秘薬』を授けます。気候の変動に耐えられる身体作りが出来るものです。」
コイツ。。何者だ!
全く身体が動かない。
ラオも脂汗を流しながら苦虫を噛み潰した表情のところを見ると動けないのだろう。
しかし、おかしい。
人の気配そのものがしない。
先程まではしていたのに。。
「あら、レイバンとやら。
やるではないの。そうよ、私は人ではない。
お前達で言う『御使』とやらだ。
良いか、コウにこの事を告げてはならぬ。
良いな。」
最後の方はぼやけてゆく意識の中で聞いただけで、その後の事は全く記憶にない。
しかも朝まで一回も目が覚めないままだった。
翌朝、緊張しながら会話を交わすが全く昨日と変化なく良い人風の神官はコウに瓶を渡した。
目配せをしようとした途端!身体の自由が無くなる。
ただただそのまま出発となる。
「では約束は果たされよ。」
耳元で囁かれ、ギョッとなるも神官はコウと相変わらずお喋り中。
背中に冷たい汗が流れる。
出発してしばらくして振り返って後悔した。
そこには、ただ荒地があるのみだったからだ。
あれから数日が過ぎた。
「そろそろ、テーレントも終わりでキヌルに入るぞ。」
馬に乗りながら器用に居眠りをしていたコウは寝惚け眼で前を見て喜んだ。
高い山々が見えてきたからだ。
「おーい、コウ!
こんなところで何してるんだ?」
そこにはなんとナット少年とテーブルの常連客ウェスが立っていた。
俺とラオはまた新たな火種を拾うことになる。