アルザゥド陛下視点
ーとある場所ー
『やっとだな。長かった…』
『フン!貴様などかなり前から付加料理を食べておったくせに。
まあ、ビノワのがようやく目覚めて良かったわ。』
『しかし、まだミズルドが残っておる。琥水が手に入っただけでは。
それにだ。』
『テーレントの事だな。
まだ先は長いな…』
『この亜空間に来る事が出来るのは、まだ我々とナナルの真山のだけか。』
『『 。。。 』』
2匹の猫の話を聞くものはない。
真っ白な空間には、既に誰の姿もない。
ーアルザゥド陛下視点ー
「しかし、新種が出たとしてもまだ『防虫煙玉』があるだろう。
なぜ被害が広がっているのだ?」
傅く家臣に問いかけても答えはない。
無理もないか。
これが自分のした始末なのかもしれない。
ルーザしか見えなかった。
それだけだと、息子達でさえゼストに預けて放ったらかし。
しかしだ。
主様と婚姻を結び子を成す。
その代償をルーザ1人が負ったその日。
私の全てが壊れてしまった。
女神セレーネよ。
何故私に罰を与えて下さらなかったのか?
何故…
「兄上。
今しがた、ヨーゼストより便りが届きました。
『光魔法』の復活の兆し有りとの内容です。
ただ…」
騒めく一同。
光魔法は、遥かなる昔に失われたもの。
伝説の魔法だ。
期待は否応なく高まる。
「どうした。何が問題だ?」
言いにくいそうなラドフォードなど、あまり見かけない。
それほどの内容なのか?
「実は…その光魔法を使える者はハーフのみと。
例えば、ヨーゼストの血を引いてなくてもハーフならば使用可能と。」
「そ、それは!
それでは、半端者共に我らの未来を託せと!」
ラドフォードの発言を聞くや否や家臣の一人から怒声が響く。何という浅はかな…。
しかし、その声はひとりのものではない。
騒めく家臣達の中にも多数いるだろう。
それほど、この国の半端者への差別は激しい。
黙り込むラドフォードを見る。
珍しく無口な様子に昔を思い出す。
ハーフである事でいつも批判を浴び、どれほど傷ついてきたか。
この座など、いつでも変わってやる。
だが、出来れば綺麗に掃除をしてからと欲をかく。
今ならまだ私の力も多少は役に立とう。
「ホホホ。
これはおかしな事を。
もし、ハーフが存在せねば其方らは誰も生きてはおらぬわ。
もちろん、妾もここにはおれぬ。
そうよ。妾の息子にも同じ事を申すかのぅ?」
ルーザ。
怒りが強いのか、床が震えているぞ。
力を押さえて。
振り向いて、ルーザを見れば彼女が私に笑顔を見せているではないか。
なんと、分かってやっていると。
演技なのか…少しショックだ。
ビノワは、禁足地としてはムルゼアでは身近なもの。
その地の力は、水の浄化と言う命の根源を司る。
まさに頭の上がらない相手。
広間には長い沈黙が訪れる。
当然だろう。
発言者など顔を真っ白にして、今にも倒れそうではないか。
まぁ、いい薬か。
以前なら、顔を見る事すらさせなかった。
ルーザも、人前で姿を現さなかった。
何故と問うたら…『時が来た』と。
私は、立ち上がると最終的に指示を出す。
「ラドフォードよ。今よりヨーゼストへ赴き、光魔法の習得を頼みたい。
無論、ハーフの者達が部下にいたならば共に連れて行け。」
「御意。」
跪いて礼をするラドフォード。
ラドフォードよ。
私は、あの時のセリフは忘れていない。
「遅くなりました。兄上。
その座から降りて、姉君と隠居生活をお願いします。」
その日を夢見て。
ラドフォードは、双子は預かると言う。
ルーザも同じ意見のようだ。
ラドフォードの次の王座は双子に託されるのだろう。
その前に私もこの国を守るべく動くか。
「各地に『防虫煙玉』を設置して、更なる強化を図れ!ラクゥド商会から、買い上げるのを躊躇うな!民の命がかかっているのだ!」
「「「ははっー。」」」
跪く家臣達にどれほど賛成の者がいるか。
自分の領地のみを気にかける者が多過ぎる。
この事が終わったら、大掃除が必要だな…
最後の仕事として…共に終わるか…