果実酒作りました!
ーコウ視点ー
会議室のテーブルの上に、袋から石を出す。
。。。
ふー、一体どんだけ取ったんだよ。
琥水が大量に山積みになったのをパナヤ陛下始めヨーゼストの皆さんがぽかーんと見てる。
琥水とは余程珍しい物らしく、ボルタの狐との約束の他に使い途があるか聞いたら突然、アーリアさんが大声を上げたんで、びっくりしたよ。
「コウ殿!
これは、あの月の光を集めた物。恐らくは主様方にとって重要な役割を果たすもの。
宜しければ、我々がお預かりして管理をさせて頂きます。」
鼻息荒いよ。
アーリアさんは興奮し易いよね。
取り敢えず、カリナを見たらやたらと頷いていたから、上司としてはOKなんだな。
問題は『光る秘石』だったよ。
たった一個取り出しただけで、バタバタと後ろでピピランテの人達が倒れたからね!
何?これ毒なのかなぁ?
役立つとか言ってたと思って沢山取ったのに…
「コウ殿。
これは間違いなく役立つ物。
しかし、このままでは些か取り扱いが難しいかと。
一旦、袋へお納めください。」
ゼンさんの諭すような柔らかな声に、ガッカリした気持ちを立て直して頷いた。
それから会議が始まったけど、ラオが料理してて良いよって言ってくれたから調理場へと逃亡したよ。
ま、居たところで居眠りするの知ってるんだよ。
俺、早速やりたい事に手を付ける。
実は、ブラックチェリー(こっちではデデットと言う名前))を見つけたんだよ。
王宮の近くの雑木林に沢山実ってたから、ジャムにする予定。
パンに付けたら最高だよね。
大量に作ってたら、調理場の人が大きな籠を持って近づいてきたよ。
「コウ殿。こちらの実を使われると聞いて沢山取って参りました。宜しければお使い下さい。」
ぐ!こんなに…
「ありがとうございます。助かります。」
お辞儀をして受け取る顔は大丈夫だよね?
引きつってないかなぁ?
いやぁ、こんなにジャムにはな。
もう、いらなかったとは言えないし。
「良かった!是非お役に立ちたいと皆で協力して取ってきたんです。
このデデットは我々は食べる習慣がありませんので出来上がりがとても楽しみです!」
頬を赤らめてドアへと向かう彼にありがとうと伝えてまた、一人きりとなる。
この調理場は、普段使わない第2調理場なんだよ。
さすが王宮…
どーします?
大量のブラックチェリー…
!
そうだよ。
大量に使う料理を思い付いたし!
それから、一人でコツコツと作業してやっと出来ました!
『デデットの果実酒』
だけど、浸かるまでかなりの時間が必要だから楽しみにしてくれたけど来年くらいになるな。
ニャー。
お?足元の黒猫がヒョイとテーブルに乗って来たよ。
瓶を触り出したから大変!
「やめろよ、割れちゃうからな。」
俺がそっと近づくと、パッと身を翻して逃げる。
しばらく追いかけっこが続いてやっとテーブルから奴が降りた。
ふー、ひと汗かいたよ。
俺は夜まで待てないからひと風呂浴びて、と。
この世界にも風呂の習慣はある。
あるけど、あまり好きでないようであまり風呂・風呂と言うと白い目で見られる。
それに夜しか入らないけど、俺は何と部屋に風呂が付いてるから自由に入れるんだよ。
何でもこの王宮に義父さんがお世話になった時に
使ってた部屋なんだって。
なんと義父さんはパナヤ陛下とお知り合いとか。
中々、顔が広いよな。
広い部屋には、沢山の本があってその中には料理の本もあって少し嬉しかった。
やっぱ、俺や食堂の事忘れてなかったんだと。
風来坊だからな。
ふらっと旅に出た時には、そりゃ少しは寂しかったし。
風呂上がりの俺の部屋のドアを叩く人がいて開けたら、あのデデットをくれた調理場の人だ。
どうしたんだろ?
「瓶が、瓶が、」と青白い顔で呟く彼の後を追って急いで調理場へ向かうと。
琥珀色に瓶が光っている様子に人が群がっていた。
えー?
この色になるのは、一年後の筈なのに。
なんでだろ…ま、いいか。
俺は人だかりを押し分けて瓶を開けて、グラスに入れると一口飲む。
ん。
確かにちゃんと出来てる。
この味だよ。
皆んなに振舞おうとしたら、バタバタ足音がして振り返ったらパナヤ陛下以下会議室の面々が来た。
アーリアさんが先頭にいて「やっぱり。」と呟いているし。
「コウ殿。この琥珀色のものは?」
アーリアさんの問いかけに
「『デデットの果実酒』だよ。おかしいんだよ。
漬けたばかりなのに、もうちゃんと漬かっててまあ、美味しく出来たと思うから飲んでみて?」
アーリアさんは一口飲んで「美味しい!」と言って「少しずつ皆さんもお試し下さい。」とおススメしたからさあ、大変!
酒盛りが開かれたよ。
ジャムもパンに乗せて出したから大人気に!
あまり甘くしなかったのが良かったみたい。
とにかく大量に果実酒を作ったから少しでなくてもいいのに、飲んだ人から別のお酒に変えて飲んでる。
アルコール度数に変化があったかなぁと蓋を開けてしげしげ眺めてたら、またもや黒猫がヒョイと。
あーもう!
袋から猫の好物のお魚を取り出そうとした俺は、袋に入ろうとする猫と格闘に!
バタバタしたら、うっかり『光る秘石』がデデットの果実酒の中に…ポチャーン。。。
ピカッ!!!
まぶし!!
目を開けて瓶を見たら、琥珀色に変化が?
何?
光るキラキラ入り、透明のお酒の出来上がり?
まるで金箔入り日本酒?
「これ!これだわ!!」
アーリアさんがこれを見て叫んでる?
後で分かるけど、この『光る秘石』入り透明デデットの果実酒こそ新種に対抗する秘密兵器になるんだから驚きだよ。
それを知った時、思わず黒猫の頭を撫でて
「おまえやるなぁ。」と呟いたら
「今さらか!」と幻聴が…。
「猫好きは、猫の声が聞こえるんだ。」と前世で言われて笑ったけど…ごめん。
どうやら俺も聞こえる仲間になりましたよ。
でもさ、これで義父さんやレイバンといつも通り『田中食堂』でいつも通りの日々を過ごせるかなぁ。
その時は、俺の望みはまだまだ叶わない事を知らず呑気にそんな事を考えていた。