バスレータ島に到着!
ー神殿奥深くでー
『では、行くが良い。』
跪くアーリアは深くお辞儀をした。
既に気配は無い。
しかし、そのままの姿勢でしばらくは動けなかった。
予測は多少はしていた。
コウ殿がこちらの世界の方では無いと。
主様を癒すべく遣わされた者だと。
しかし、ハーフこそがこの世界を救う者とは思いもしなかった。
もちろん理解は出来る。
何故なら権力者が恐れる程の能力を持つ者が多数いるのだから。
まさにそのひとりがコウ殿の義父殿なのだから。
この神殿奥深くで女神セレーネ様に仕えて長くなった。
幼き頃にこの神殿に入って一人での外出は、初めてかもしれない。
少しワクワクする気持ちがするのは、悪い事ではないだろう。
コウ殿に初めて会える。
カリナの拙い報告で分かり得ない、本物のコウ殿。
その後、本物のあまりの凄さにカリナに優しくなる事はまだ知らないまま。
初めてのヨーゼストを目指して旅立った。
ー船出ー
あー、結局勉強不足のまま船出の朝になったよ。
どうも、布団の魔力に負ける傾向があるんだよな。
ま、仕方ない。
船にはメンバーを絞って乗り込むことにした。
何せ小さな小船タイプでさ。
んー?
何でも海の神様の言いつけらしいし。
メンバーは…
俺・スタンさん・ゼンさん・アーリアさん・カリナ・ラオそして何故かあの女の子。
良いのか?
親御さんは心配しないかなぁ。
カリナが必死に大丈夫と繰り返すから連れて行くけど、危なかったら俺がちゃんと守らなきゃ。
肩に手を置いて俺がついてるって言ったら、また文句言ってたよ。
「生意気な!」とか「馬鹿め。妾を守るなどと」
でもさ、文句言ってる顔は真っ赤だからバレバレだよ。
小さくても女の子。
可愛いよな。
そんな調子で船出は順調に進んだんだけど、海ぶどうを撒くにしても渦貝のところへたどり着けない事に気付いたよ!
今更だけど、どーすんの?
あれ…どうやって蒔けばいいの?
「妾に任せておけ。さあ、心置きなく蒔け!」
下の方から可愛い指令が飛ぶ。
ふふふ。
彼女に合わせた取り敢えず蒔いた。
沢山持って来たからな。
しばらく船を漕いでいた船頭さんが突然叫んだ!
「渦潮がねぇー!こんな…こんな事見た事ねえだよ。」
何やらこの辺りが普段なら渦潮がある場所らしい…
えーと。
遠くまで見渡してみるけど、『バスレータ島』までに渦潮が見える場所はないよな?
おー!偶々か?
「ふん!だから言ったであろう!!」
ヤベ、声に出てたか…憤る女の子の頭を撫でて
「偉い、偉い。」と褒めたらご機嫌が直りました。
さてと、残った海ぶどうととにかく蒔こうと袋から取り出しすと、
「あーー、勿体ない。」
カリナやラオの声がしたけど、ばら撒いてます!
そして、実は他の物も一緒に紛れて蒔いてます。
秘密にな。
小さな団子みたいな物を紛れさせてたら、アーリアさんに気づかれた。
海ぶどうに紛れて蒔いたのに目敏いよ。ホント。
「何ですの?」小声で尋ねるアーリアさんに
「ヒジキ入り魚のツクネです。」
興味津々の様子は、通常運転。
アーリアさんは何にでも食いつく。小学生か!ってツッコミたいよ。
俺としては海ぶどうよりこっちだろうと。
海ぶどうも美味いけど、ちょっとインパクトに欠けるだろ?
まあ、海の神様に逆らったら不味いからこっそり作った訳よ。
渦貝のお口に合ったかなぁ??
ま!味見したら美味かったから、今度皆んなにもご馳走しようと思う。白ご飯に合う!合う!
波もなくほんの1時間で島に到着!
白い砂浜に船を乗せ降りたら、船頭さんは帰るって。
まあ、危険だから仕方ないか。
帰りはどうすんの?って聞いたら雷嶺鳥を飛ばしてまたお願いするらしい。
数日かかる予測なんだってさ。
まーそうだわな。
この景色見たら納得。
近くで見たらこの島おかしい事に気付いたよ。
いや、島と言うか『あの山』おかしくないか?
この島はほぼこの山ひとつで出来上がってる。
他は砂浜のみ。
ほら、中国の仙人の山っぽいヤツだよ。
超急斜面のヤツ!
しかもあの山の急斜面って登れるんだろうか?
絶対無理ゲーでしょ!
垂直に見えるし!
間違いなく垂直だよね?
これを登れる気なの??
俺の疑問を全く無視してスタンさん達が登山の用意をしている。
え?背負う気??
俺…だよね…
二人分…俺とアーリアさん?
背負子を背に山にフックを掛けて、ロープを通す様はまさにロッククライミング!!
絶対無理!!断固反対!!
「無理だから!!絶対嫌だよ。背負おうとするなよ!」
逃げ回る俺を、わがままボーイの扱いはヤメロや!
人として間違ってるから!
この崖は鳥しか無理!!
俺が叫びながら逃げ回ってたら、海辺の方がザワつき始めた。
ん?
物凄い波しぶきが立ち、変な魚が顔を出している。
ジッと見つめたら、頷くんだ。
そうか、お前たち助けてくれるんだな?
俺は確信した!
この島を脱出出来る。と!
タツノオトシゴによく似た魚は、俺を助けに来てくれた。
「ね!コイツら助けに来てくれたんだよ。もう、俺は登らない。帰るから!!」
ところが…まさかの予測失敗!!
えーー?水鉄砲??
俺の尻めがけて一斉に水鉄砲が放たれた!!
何?
帰してくれるんじゃ??
水鉄砲に打たれた俺はピューンと飛ばされましたよ。
漫画か!
ツッコミを入れるタイミングもなく勢いよく飛ばされた俺は現在、山の頂上です。
ひとりぼっちは嫌だよと思ってたら仲間達も次々と飛ばされて来ました。
良かったよ。
目を丸くしたスタンさん達にアーリアさんが説明してる。
「ふふふ。コウ殿の蒔かれた『ヒジキ入り魚のツクネ』の御礼のようです。困ったコウ殿の叫びを聞いて波打ち際まで駆けつけたのですよ。」
微笑んでいられるのは、アーリアさんのみ。
他は苦笑いか、ポカーンとショック中。
因みに俺もポカーンの仲間さ。
俺、帰して欲しかったのに。タツノオトシゴの馬鹿やろう!
まー背負子より有り難いけどさ…
見渡せば、頂上はあまり広くない。
運動場くらいの大きさで、石がゴロゴロしてる。
これか?
必死に探してた物は、こんなに無造作に落ちてる物なの??
琥珀色の石の合間にちっちゃな石がある。
何となく拾うのはコレかと拾い集めましたよ。
とにかく沢山と、必死に袋に入れると、スタンさんもラオも皆んなも必死に拾い集めてるみたいだ。
差し出された石を袋に入れても重さも大きさも変わらない。
いやー、この袋マジ凄いな。
感心して辺りを見渡したらいつのまにか、日が傾き始めた。
風?
なんて生易しいものではなかったよ。
暴風!!
日が陰ると共に、高い場所にある為かかなりの風が吹き荒れ立っていられない風になった!
かと言って、下山するにも風があると危険だ。
固まった猿団子のように皆んなで風から身を守ってたら袋がガサガサ音を立てた。
何だ?
手を入れて動く正体を取り出したら『鳥の御守り』だった。
えーと??
あー!旅の途中で女将さんがくれたヤツ?
手のひらでもぞもぞ動くそれを見たアーリアさんが俺に叫んだ。
「願って下さい!!コウ殿しか扱えません!!」
願う?何だろう?
あー女神セレーネ様?
よし!神殿の人が言うんだからとにかく願いを込めて手を合わせた。
「超安全に俺達を帰して下さい。」
欲望のままの願いで大丈夫だよね?
お祈りのやり方知らないしなぁ。
手の中の『鳥の御守り』が激しく動き出したぞ!
バサ!!!!!!
一羽の鳥が現れました。
いや、棒読みになるでしょ!
この御守り何?
木の御守りが本物の鳥になる??
その上、大きさがおかしいでしょ!
この山の頂上いっぱいに広げた羽に乗ってくれって目配せされるけど、大丈夫?
心配してたら、アーリアさんに突き飛ばされて、背中に乗った途端!
上昇!
飛翔!
そして、王宮?
必死にしがみついてたら
「着きましたよ。コウ殿。
さあ、降りましょう。」とアーリアさん。
いつ、着いたのよ。もう!言ってくれよ!
俺だけ降りた鳥の背中にまだ必死に掴まってて阿保ヅラ晒してます!!
よく見たら全員既にパナヤ陛下とお話し中。
降りようとして、改めて鳥の背中を感謝を込めて撫でたら…
バサ!
バサ??
おーー!!
手のひらに再び『鳥の御守り』が!
でも、ちょっと欠けてるような。
「役目を果たしたのです。この程度は仕方ないかと。」とアーリアさん。
俺は感謝を込めて今一度そっと撫でた。
次は可愛い小鳥生まれてくれ。
そしたら、飼うから!と。
ピィーーー!
はい!
俺のペット2号登場!
ツィーに続いて、小鳥ゲットだぜ!!
いいのか、コレで。
侮りがたし、御守り。
名前は『ピィー。』と付けたら、ラオがツィーと似てるぜと。
時すでに遅し!
ピィーはこの名前でしか言う事聞きません…
皆さん名付けは慎重に!