ラオ視点 差し入れへの旅支度?
「フンフンフン♪」
鼻唄混じりの陽気なコウは、ララウドから戻るとうちの台所で何やら調理中だ。
相変わらず料理好きなのかご機嫌で大量に何かを作ってる。
今日は宿屋も臨時休業にして親父達は何やら秘密の相談中だ。
あの豪華なメンツが集まるのは不味い事態勃発だろうが…やな予感がする。
「な、ラオ!おい聞いてるのか?」
振り向くとコウが出来立ての『カップケーキ』を積み上げて頼み事をしてきた。
「だからさっきから言ってるだろ。
俺は差し入れしたいんだよ。ほら、レイバンさんに何回かした事あるだろう?
確か今訓練の為にムルゼアに来てる筈だから!」
レイバンさん…なんで予定を正直にコウに言っちゃうかなぁ。あれだけ凄い人なのに普段は少しポンコツだよな。
「分かった。とにかく親父に相談してからだ。
分かってるだろ。」
さすがに昨日こってり親父に絞られたコウは、苦々しい顔で分かったって頷いた。
俺は、二階の親父の部屋へと向かう。
コン・ココン・コン。
いつもの合図をすると「入れ。」のドスの効いた声。不味いぞ。煮詰まってるな。
厳ついおっさんの集まる部屋は嫌な熱気に包まれていた。げっ!
スレッドさんまでいるじゃん。
変なとこに来たな、俺。
「どうした。またコウが何か作ったか?」
大量の小麦粉買いのコウを見ていた親父の一言に頷く。
「ギルドの訓練所へ差し入れだって。
『カップケーキ』が山積みだよ。レイバンさんが漏らしたらしい。」
「チッ!」おっ、スレッドさんの舌打ちとは。
いよいよヤバイぞ。
「よし、かえって良い機会だ。
ラオ。お前今から旅支度しろ。コウ連れてレイバンと合流したらそのままキヌルへ逃げろ。
いいな、しばらく戻ってくんなよ。」
まさかの夜逃げ事態なのか?いや昼間だけどさ。
「おい、説明を省くな。
ラオ。一回しか言わねえ、よく聞け。
コウは、王太子の双子を成長させやがった。更に王妃ルーザも目を覚ました。
この意味分かるな。」
な、なんと!!
ルーザ様と言えば12年前王太子殿下を産んでから眠ったままだったはず…しかも王太子って12歳なのに4、5歳までしか成長してないって。
それはトップシークレットだけど。
「やっぱりコウの料理の付加の所為ですよね。」
首を横に振ってくれー。
だ、ダメか。
「とにかく、王宮は今や大騒ぎだ。
王太子が軟禁状態らしいし、あの『飴』の包装紙から身バレするだろうと」
コウ提案の紙漉き職人のアレだな。
まぁ、一発だよな。
「急げ!」
とにかく、大急ぎで支度して馬車を用意。
飛び乗るとギルドの訓練所へ向かう。
幸い、ムルゼアの外れにあるから逃亡には絶好だ。
親父から、あの刀を渡された。
覚悟を決めなきゃかな。
ーコウ視点ー
祭りの影響で裏道を進むけど、今日のラオはかなりの暴走族だぞ。
荷造りもさせられて、そのまま帰ることになったけどまあ、ラオの予定もあるから仕方ないか。
飛ぶように過ぎる景色にチラホラ警備員さんが見える。祭りの警備か。
大変だな。
ムルゼアのギルド専用出入り口からギルド訓練所へ向かうらしい。
いつもの大門は祭りで混雑が激しいとか。
ラオにわがまま言って悪い事したな。
おっ、見えてきたぞ。
広大な馬場に、剣の打ち合う音が響いて男の浪漫が詰まってる。
この世界のギルドの冒険者達が使うのは魔法ではない。
『気』だ。
単。。冒険者レベルC
両。。冒険者レベルB
熟。。冒険者レベルA
幾。。冒険者レベルS
尨。。冒険者レベルSS
そして満。。人外レベルらしい。
過去に一人だけ扱えたとか。
この『気』の他に『秘石』を使った身体強化や武術などがある。
見えてきたのは、レイバンさん一人に対して沢山の人が襲いかかる図。
ひやっとしたのは俺だけで、一瞬でバタバタと周りの人達が倒れてく。
つ、つえー。
今日の鬼気迫る表情のレイバンさんにちょっとドン引くよ。
「レイバンさーん。」
俺の大声じゃ聞こえないと思いながら叫ぶと、一瞬でレイバンさんは俺の目の前に移動してた。
ま、マジか。
「コウ。どうした?何かあったのか?」
指差して「差し入れだよ。」と言うと途端に表情が緩む。
ほんと、甘党なんだからな。
それからギルドの部屋に通されてカップケーキの礼を次々と言われる。
あれ?
大好物なのにレイバンさんの姿が見えないな。
キョロキョロしてる俺の目の前に旅支度を終えたレイバンさんが現れた。
「すまんが俺も同行させてくれないか。
急な任務でキヌルへ行きたいんだ。」
もちろん快諾したさ。
レイバンさんと一緒なら馬に乗せてくれるからな。
ラオさんは、馬車で後から来ることになった。
あれ?
俺もいつの間にキヌルへ行く事に?
「めっちゃ美味い牛乳を売っている場所があるから案内するよ。」
ムムム…まあ、レイバンさんの甘い言葉に乗ってみるか!
牛乳。チーズ。生クリーム!
キヌルは美味いものいっぱいだからな。
初めてのキヌルへの買い付けだぞ。
高い山々に囲まれたキヌルへの旅へ思いを馳せた。
いつもは旅商人から買ってるから!
その頃…
ムルゼアの宿屋『ガイの宿屋』は閉店の看板が出たままだった。
店主もそこの常連さんも何処へ行ったか誰も知らない。