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マーラ視点ーヨーゼストにてー

ーマーラ視点ー


南国の島。我がヨーゼストは誰もが朗らかに暮らす観光の島で普段は人で賑わう。


その為、防衛とか防御などと言う言葉は無縁のもの。

だが、我らが祖先はピピランテを作った。

それはこの国の唯一のチカラ。他の国にない魔法の絶対的なもの。

だからこそ他国から攻め込まれた事もない我が国に最大の危機が訪れようとしていた。


予感はあったわ。

海の荒れは日増しに高まって、遂には一隻も海を渡れない日が続いたから。

これを予感して各国へ渡りその謎を探っていたが間に合わなかった。



そして、彼奴らがやってきたのだ。


闇影獣。



ピピランテを派遣し続けても、数が多く全ては救えない。

王宮から避難の指示を出しても、闇影獣はそれを察知したかの如く裏をかく。


どれだけの村や町が被害を受けたか…。


私とて、最前線で戦うも闇影獣は段々と知恵をつけて魔法に対抗してくる。

魔力が完全に尽きてその命を落とした者までで始めた。


せめてゼンがおれば…勝手な考えが頭をよぎる。

せめてコウ殿の料理があれば。

ふふふ。コウ殿。

苦しい時に思い出すのはあの笑顔と温かな料理ばかり。


目の前にいる数百の闇影獣。



肩で息をしながらも、目の前に立ちはだかる闇影獣の群れに火魔法をぶつける。

やるしかないのだ。


『我が炎。我が名のもとにその真なる力を解き放て!!』


生き物のように前線にいる闇影獣を覆い尽くした我が炎は暴れ回る。


あと一回魔法を放てば、我が魔力も尽きる。

見越してか、後ろにいた闇影獣が後退するではないか!

こうして分散しては魔法の威力を削ぐ。

広域魔法は大量の魔力を必要とするからだ。

何度も放つ魔法に魔力は尽きてゆく。



そう、これに仲間達はやられたのだ。

恐らく敵は今も私の弱るのを待っているのだろう。


こんな知恵がつくのは明らかにおかしいわ。

新種と言うのは、誠恐ろしい。


息が整わなくても、魔力が尽きても長く生きた身よ。

後ろにある村を守れるなら、まあ本望かしらね。

まあ、あの数ではそれも危ういが…今一度…


あぁ。あの煮物が今一度…



『我がほの』


その時、空から救いの手が降ってきたのだ。


あれは!


『防虫煙玉』か?


地上に落ちた瞬間の驚きは生涯忘れ得ぬだろう。


なんと、闇影獣は一瞬で消え去るのだ。

地上を埋め尽くした煙が消え去った後、数百いた筈の闇影獣の姿は一切いない。


どれ程の威力か!!

心が打ち震える喜びに、リーがこちらへと近づいて来る。


「ゼンよ。きっとコウ殿に頼んで雷嶺鳥でこちらへ運んだのだわ。」

リーの頬には久しぶりに赤みがさす。

連日の戦いですっかり老婆の如くになっていたからだ。

まあー。私も同じだろうが。

その時は事情を知らない我々は単純に喜んでいたのだ。



王宮へ戻った我々を我が王が出迎えてくれた。


「マーラ。リー。よくぞご無事で。

貴方達でもこの戦いではと不安でしたが良かったわ。」


喜びの涙の中に不審なものを見つけて思わずリーを見た。

どうやらリーも同じ感想だったものだ。


「陛下。何かあったのですか?」


俯く陛下に、これは余程だと心を引き締める。

陛下はいつも柔らかな笑みを浮かべている方なのだから。


「マーラ達も見たと思いますが『防虫煙玉』は雷嶺鳥が運んできました。それは正に我が国を救う最後の手段でした。

あのタイミングでなければ、我々は滅ぼされていたかもしれません。

ただ…。」


一瞬躊躇う陛下は顔を上げて雷嶺鳥を一羽目の前に。


『……後を頼みます。』


弱々しいその声は全て聞こえた訳ではない。

でも、その意味は理解出来た。


ゼン。

お前…命を賭けたのか…。


こんな…こんなつもりでコウ殿をゼンに頼んだのではなかったのに。


リーのすすり泣く声が聞こえ、あの時よく考えずに喜んだ自分を殴り飛ばしたかった。

よく考えらば分かった筈なのに。


無言の時を破ったのは、一羽の雷嶺鳥。



『ご心配をおかけしました。コウ殿の付加料理のお陰で命拾いをしました。

そして、海の荒れた理由もこちらで解明できそうです。

海の禁足地。それを知らなかった我々の罪。

しかし、またもやコウ殿が活躍しています。

もうすぐ戻ります。ゼン。』



急展開に頭が追いつかないが、無理をしたゼンを叱り飛ばし、そして感謝する機会を得たと私は理解した。



コウ殿。



もうすぐお会い出来るでしょうか?



煮込み料理。お願い出来るかしら…

調子の良い私は、コウ殿が『とんでもない人』だとその時忘れていたのだ。



だからこれから次々と起こる事件に自分が巻き込まれて続けると予測できなかった。



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