王太子の家出
「また来たのか?
危ねぇって言ったろ!ここいら辺はお前のくる場所じゃねぇんだよ。」
トート広場に向かう途中で肩を掴まれて振り向くとロイスが毒舌を吐いていた。
「ロイス!良かったよ。
トート広場に皆んなの姿が見えなかったから。」
俺はロイスの姿を見つけてホッとした。
ここら辺は治安があまり良くないからロイス達も居る場所がいつも違うのだ。
会えないかなって、ちょっと不安だった。
「ふー。相変わらず聞いてねぇし。
まあ、付いて来いよ。こっちだ。
今日は祭りとかで人出がすげーから違う場所に集まってんだよ。」
ロイスと隠れ家へ向かう途中、蹲る子供達を見つけた。どうしたんだろう…だいぶ具合が悪そうだ。
「ねぇ、君たちどうしたの?」
俺が声をかけてると、ロイスがズザッと一歩引いた。
「お、お前。何突然怖い事してんだよ。
何もない場所に向かって話しかけんなよ!」
ロイスがビビるのをみて次は俺が驚いた。
見えてない。。。??
あっ!
その隙に二人が倒れ込んだ。
慌てて抱きとめるとまたロイスが騒いでる。
「あーー!!
どっから現れたんだ?コイツら何?」
顔色の悪い二人に正気を取り戻したロイスと俺は、慌てて隠れ家へ連れて行く。
神官ではないから手当も出来ないが放ってはおけない。やがて目を覚ましたが相変わらずぐったりしている。
「コウ!
コイツらに何か食わしてやれよ。コウの料理さえ食べれば元気になるから!」
あーもう。そんな訳ないじゃん。
すると奥の方からビゼーとレーラが激しく頷いていた。
まあ、この辺りの子供は飢えの経験を必ずしているからな。よし!ここはご馳走するかな。
「これ食べるか?『お握り』って言うんだ。」
差し出したお握りをしばらくジッと見つめていたが、その後勢いよく食べ始めた。
そうか。やっぱりお腹空いてたんだな。
「君たち、いったい何処から」
俺が話しかけてる最中に、ロイスが俺の腕を掴んで『シッ!』と身振りで伝えてきた。
ん?
そう言えば外の様子がおかしい。
ドンドンドン!!
「お前たち、中にいるのは分かってるんだ!!
大人しく出てこい!」
どうして警備隊が?
一同に緊張が走る。
ロイスが裏口を指差して皆に逃げる指示を出す。
本人は『煙玉』で対抗する気だが警備隊相手では部が悪い。
ジリジリした思いで裏口へと向かう。
しっかりと子供達の手を引いて。
バサッ!!
突然、不穏な音が続いてやがて静まり返った。
何だ?何が起きてるんだ?
新たな敵なのか?
ガチャ。。
「おい、お前ら正義の味方が登場だ。逃げる算段をしな!」
正義の味方って…
怪しい。
確実に怪しい。
そこには白いマスクを被った物凄くガタイの良い男が立っていた。白マスクって。。。
「おい聞け!
コイツは信用出来る。俺たちは裏口から逃げるぞ。コウも来い!」
ロイスの言葉は絶対だ。
全員が裏口へ向かうと白マスクが俺を引き止めた。
「子供達とお前は俺と行くんだ。来い!」
えー。かなり不安だよ。
だけど振り向くとロイスが首を縦に振る。
「時間がないぞ。付いて来い!」と白マスク。
「行けよ。」ロイスの言葉に後押しされて白マスクについていくと、街角には他にも白マスクが数人立っていた。白マスクが立ち止まって話始めた。
「おい、子供達。
お前達はこの事態を理解しているな。
よし!
では、このコウの料理を持って帰れ。
これならお前の母さんに効くかもしれん。
ただし、絶対にコウの名前を出すなよ。
守れるか?」
白マスクの真剣な眼差しに子供達も頷く。
おーい。何で俺は置き去りなんだよ。
俺の料理を持っていっても母さんには叱られるよ。って言ったら白マスクだけでなく子供達までため息ついたぞ、何でだ?
二人には持っていた『お握りと飴』をあげると大事そうに抱えた。
最後に笑顔が見れて良かったよ。
そう言えば帰り際に
「僕の名前はラシェットだから忘れないで。」
「僕はブルスタッド。必ず店に食べに行くね。」
俺の料理をもっと食べたいって言うから『田中食堂』に来てねって言ったら喜んでた。
白マスクは深いため息をついてたけど。
ガイさんの宿へ戻るとこってり絞られた。
マーラさん達にも心配かけたみたいで素直に詫びた。
あーあ。
ロイス達に飴しか渡せなかったな。
ー『おっさん部隊』デレクト視点ー
「至急来られたし!」
珍しく俺を呼ぶのでたぶん不味い事態が発生してるだろうと予想していた。
が、ここまでの事態とは。。。
王太子、王宮から消える。
そして王宮からゼスト率いる近衛隊出動。
その王太子といるのはまさかのコウ。
しかもトート広場近くとは…
スレッドの情報だから間違いはあるまい。
しかし、ガイはスレッドまで動かすとはさすが野生の勘だな。
駆けつけると一触即発の場面だった。
とりあえず取り囲む警備隊に気を当てて眠って貰う。
『幾』
レベル4の気を当てたら50人くらいいた警備隊は一瞬で片がついた。
ちょっとやり過ぎかな?
噂通りの成長の遅れている王太子達はコウにすっかり懐いていた。
こりゃコウの料理を食べたな。
当たりをつけ、コウの料理を持たせて王宮へ帰るように説得した。王妃の状態が上向けば王も少しはマトモになるだろうからな。
しかし大盤振る舞いだな。
『飴』だけでも大層な効果があるのに。
ロイス達に配るあの飴のお陰で神官にかかれないアイツらがどれだけ助かったか。
その為に、あの危険地帯でもコウを襲う馬鹿はいない。街全体を敵に回すからだ。
コウは呑気に食堂を教えてたが面倒な事にならなきゃいいが…
今更か。
王太子に秘密を念押ししてこっそり王宮へ帰した。あれだけ心酔していればまず秘密は漏れまい。
王宮は凄い騒ぎだったが王太子達の特殊能力で気づかれず帰れたようだ。
やれやれ。
少し疲れたがおっさん部隊(蜂蜜部隊とも言う)の任務完了だ。
しかし、ギルド影部隊とマーラ達魔法部隊の嫉妬の眼差しが何とも心地よい。
まだ現役続行出来そうだな。