アナの中では?
ーロイス視点ー
落ちてきたおっさん達は予想通りボロボロの状態だ。
レーラがグレ達(グレとはコウ曰く大モグラ)に命じて二人を運ぶ。
口に流し込むのはコウ特性のハーブティー。
それにしても穴から見ていた戦いの凄まじさはトラウマになりそうなものだった。
この二人がいなければ被害はどれほどだっただろう。
ガイ殿が『厖』を込めた大剣を振り下ろす度に大型の闇影獣すら数体一瞬で薙ぎ倒された。
クラスタ殿とて同じ事。
軽身の彼の剣は、縦横無尽に敵を殲滅してゆく。
敵の動きを読むのに優れているのか、味方の危機に駆けつけては剣を振るう。
凄まじい戦いの現場に言葉を失う。
仲間達と手助けをするタイミングを計っていたが、中々手が出せない。出来ればここまでボロボロになる前に手を出したかったのだが。
ガイ殿は僅かにハーブティーを口にしたからか、止血も済み顔色も僅かに良くなってきたが。
問題はクラスタ殿。
意識どころか既に大半の血を失っている。
このままでは、持たない。
王城の地下までと必死に走り抜けるもレーラがストップをかける。
「ロイス!このままでは無理よ。持たないわ。
動かすのは危険なのでは?」
レーラの言うのも最もだ。
しかし我々が作り上げた地下道をあの新種が気づかないでいる保証はない。
一刻も早く安全地帯へ運ぶ必要があるのだ。
ジレンマが襲う我々に小さな声がかかる。
「出来るならソイツを助けてくれ。
俺なら今の飲み物で大丈夫だ。」
さすが元近衛隊隊長。
あの怪我から意識を戻すとは…
しかしここでは我々も危険が。
しかも、ルノアとビゼーには他の救出を任せているのも気になる。
迷いに立ち止まったその時!
ドンドンドン!!
地面が大きく揺れだした!
ば、バレたのだ。
闇影獣が地面を掘る音だと気がついて必死に走り出す。
もう逃げの一手しかない!!
ドンドンドンドンドンドン!!!!!!
音が近づいて来る。
追いつかれる!!
俺達はデーレットとグレを前面に押し出し自分達も剣を構える。
や、やるしかない。ゴクリと唾を飲み込むが緊張からか手が震えてる。
ザッ。
俺の目の前に大きな背中が割って入った。
だ、誰だ?
な、なんと……。
満身創痍のガイ殿だった。
先程まで立ち上がれなかったガイ殿がなんと剣を構えているとは。
無理だ!あの怪我では…
俺の心を読んだように笑いながらガイ殿が答えた。
「いやー。おっさんにはやらなきゃならない時があるんだよ。それが今さね。」
俺達を守るように立つその背中は大きくて傷だらけで、でも頼もしいものだった。
見ていた俺の中でようやく覚悟が決まる。
『☆※○※*○○』
今度は何だ!
後ろから聞こえてきた奇妙なそして美しい声に振り返ればとても人間とは思えない程の美しい人が歌っていた。
何処から来たんだ?
何者なんだ?
次々と湧いてくる疑問を真っ白にする事態が発生した。
バタン!!!!
え?
大きな音に振り返れば、地下道へ入り込んでいた闇影獣は全て倒れているではないか。
まさかこの人が?
今の歌がなのか?
驚く俺達をよそに、ガイ殿がその美しい人へと跪いていた。
「ご尊顔を拝し光栄でございます。ルーザ様。」
し、知り合いなのか?
ニッコリ笑ったその人は静かに頷いてそっと手をかざした。
クラスタ殿の方だ!
え?
振り返るとクラスタ殿も起き出している?
え?
あの傷は?助かったのか?
動揺激しい俺を置いてけぼりにクラスタ殿も片身を起こして礼を取る。
「ルーザ様。ありがとうございます。」と。
その礼を受けてルーザ様と呼ばれた人が答えた。
「なんの。これもコウ殿の料理のお陰。さあお城へと参りましょう。」
コウ!
またお前なのか?
俺達は呆然としたままその後へと従った。