再会!
ーラオ視点ー
コウ。。。
見失った時の絶望感は未だに癒えないままだ。
だが、久しぶりに食らったオヤジの一発は堪えた。
殴られた頬がではない。
俺の弱さがだ。
ギルドで名を上げて一端の冒険者のつもりでいたのに。。
「やるべき事をやれ!」
と俺を一喝したオヤジの覚悟を感じた。
そのくらいスレッド殿の見立てでは情勢は悪い。
ラドフォード殿下と陛下は、今ここに至って手を取り合っているようだが、それも数百を超える闇影獣が相手では勝算は立たないらしい。
ラドフォード殿下から一つの手紙を預かる羽目にまでなりようやくこの世界の危機だと自覚した。
早馬で取り急ぎ宿屋へ戻った俺は、ゼン殿へ詫びを入れる。
ナット殿が作ったコウの料理は改めて我々のすべき事を教えてくれた。
コウ。
何としても探さねば。
アイツの無事を信じて。
そこへこの間の『カニ』が現れた。
頂いたヒントに全員の気持ちが一つになる。
あの時のコウを真似て…と。
ナット殿が頑張って作られた料理を並べて今一度『正座』をする。
懐かしい『正座』
小さい頃のコウがよくやっていて教えてもらった。
祈りを捧げながらそんな事を考えていると、レイバン殿の楽器の音色が響いた。
真剣そのものの表情で弾くレイバン殿。
あまりに美しい調べに聞き惚れていると、目の前に赤い橋が!!
あの時確かにコウが叫んでいた『ほら、赤い橋!!見えた。』と。
我々も慌てて駆け出そうと立ち上がったその時、赤い橋を渡ってくる者がいるではないか!
もしや…
「「「コウーーーーーー」」」
重なり合う声に手を振る呑気なコウに急いで駆け寄る。
「皆んなーー!!」
駆け寄るコウに全員が揃うとコウが一言。
「ただいま!遅くなってごめん!」と。
熱くなる胸を宥めながらもコウの頭を撫でる。
濡れてない様子に海の底にいたのではとの疑問は払拭した。
『海の神様』への儀式は成功したのか不明だがとにかく良かった。
コウがあの橋から戻るのはやはり『海の神様』の元に居たのだろうか?
コウが疲れたようにその場にへたり込むのをみて慌てたレイバンがコウを抱き上げると宿屋へと連れ帰った。
事情は宿屋でと。
ヨロヨロしていたコウへナット殿が料理を出すと
「美味いよ。弟子合格だな。
色々感謝しなきゃだし。」
目を細めるコウと見つめ合うナット殿にスタン殿が割って入る。
何処にいたのか?どうやって戻られたのか?
と。
するとコウが爆弾発言をするではないか。
「だから、よく覚えてないんだよ。気がついたらあの橋にいたんだ。
何となく料理してた気がするんだけどなぁ。
夢の中でセレーネ様に『コレ』貰ったみたいなんだけどそれも曖昧なかぁ。
皆んなの声で我に返ったって感じ。」
女神セレーネ様の御名前にカリナが食いつく。
「まさか…女神セレーネ様に直接お会いになり更には頂きものをされるなんて…」
と、にじり寄ったくせにそのまま固まってる。
神官にはそれ程特異的な事柄らしい。
コウが差し出した手の平に乗っていたものは…
『鍵』
何処のものかは知らないが『鍵』を結んでいる紐の先にはヨーゼストのマークがある。
見覚えを問えば、ゼン殿は首を横に振る。
そこに伝令が到着した。
「ラオ殿。ムルゼアの陛下より伝令です。
数百の闇影獣と衝突!ガイ殿始め皆様の消息不明との事。
陛下は王宮に篭って徹底交戦の構え。」
オヤジ…まさかあの豪腕のオヤジが…
「そんなのない!
ガイおじさんはきっと無事だよ。これの効き目はもう無いのかなぁ。」
コウの手にある『防虫煙玉』を見て一同が食いつく。
俺は『防虫煙玉』を握りしめ「これを届けられるか!」と問えば、
「ラオ殿。ご自身で届けられよ。オリド殿。今は緊急時なのでご請求は後ほどで。」
ゼン殿の指示でそれぞれ『無限収納』から出てきた『防虫煙玉』とその他コウの料理を携えて駆け出す。
コウの言葉を胸に。
おや、レイバンがもう居ないとは?
なんたる早さか。
ムルゼアへ向かう馬の足はいつになく早い。
コウが人参を食べさせてたからか。
途中、幾度も闇影獣を倒しながらひたすらムルゼアへ…
ーガイ視点ー
何たる数…
埋め尽くす闇影獣は、地平線を覆うように集合している。
こんなに数がいたなんて。
奴か?
生み出せると言うことか?
握りしめた大剣に気を流して構える。
隣にいるクラスタも決死の表情だ。
無理もない。
ここに居る騎士団の殆どは助からないだろう。
誰もが決意の固さが滲み出る表情で剣を構えていた。
ドドドドーーーー!!!
地鳴り共に押し寄せて来る闇影獣に一斉に気を放つ!
『幾』『厖』…次々放てば前線の闇影獣が倒れていく。それを踏み越えて迫る第二陣。
異常だ。
こんな光景は見た事がない。
闇影獣の性質と全く違う狂気を感じながら、倒れてゆく味方を庇いなから戦いは続く。
それこそ、切れ間無く止まる事なく。
どれほどの時が経っただろう。
隣のクラスタも俺も満身創痍で剣を杖代わりにようやく踏ん張る。
ムルゼアの住民は避難させたが、既に街中に踏み込まれてしまっている。
もう、あと一手振るえば俺の気は尽きる。
「クラスタ。最後に人間様の意地を見せてやろうな!アイツに一手浴びせたかったよ。」
頷くクラスタ。
最早一手すら無理か?
「御意。来世も貴方の下で。では私から!」
踏み出そうとしたその瞬間!
「こっちだ!!」
道に空いた穴へと誘い込まれる。
突然空いた穴に吸い込まれるように落ちる。
これは?
俺たちはいったい??
満身創痍の俺の意識はそこで途切れた…