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ーナット少年視点ー 消えたコウ!

ーナット視点ー


『レシピブック』


コウ殿から高級な紙で出来た『ノート』と呼ばれる物を頂いたのは弟子になりたての頃。


『紙』は特別な存在で実際見たのも触ったのも初めてだった。

考案と指導はコウ殿だと伺い改めて尊敬を込めて見つめると。


「いやー。そんな大層なもの物じゃないから。

それよりも、これを活用出来るかがナット君が弟子として何より重要な事だよ。

レシピとは、それほど大切なんだから。」

と、言いながら照れていた。


頷く私はノートを握り締めながら固く誓う。

必ずややり遂げようと。


そしてその日から私の『レシピブック』への指導が始まった。


材料はもちろん、所々に絵も添えて書くように指導頂く。

(あ、もちろんコウ殿の絵では後から見ても意味不明なものになるので私が書いた。)


注意事項や手順など番号を振りながらの作業は深夜に及ぶ事が多い。

下準備などで早朝の日は中々辛いが作ってすぐに書かなければ記憶が曖昧になる。

毎日欠かす事は出来ないのだ。

ため息混じりに甘えていた自分を反省する。

しながらもつい、『弟子になれ』と私を押し出した陛下(あにうえ)にも少し恨めしい心持ちがする。



ところが。

予期せぬ出来事が起こったのだ。

海の神様へのお祀りの途中でコウ殿が行方不明になったのだ。

ラオ殿が宿屋に駆け込んできた時は俄かには信じ難かった。


でも、あのコウ殿だ。

きっと見つかる!

あの時だって3日で見つかったのだから…



ところが。




1週間が過ぎようとしても、そのお姿が発見される事もない。

ヒントを漏らして下さった主様らしき『カニ』なるものもそれきりなのだ。


仲間と思っていたラオ殿とゼン殿は既に対立していて、ラオ殿はムルゼアのお父上様の元へと指示を仰ぎに戻られた。


レイバン殿の落ち込みは更に酷い。

態々ここまで来て、この事態。

しかも楽器の秘密も何も打ち明けては貰えない事でスタン殿との掛け合いもしばしばだ。


レイバン殿は結局『麗』様の元へと行かれた。

せめてものヒントをと。


ゼン殿はリーズ代表のお力を借りて海辺を大捜索しているが結果は芳しくない。

バリー殿達も昼夜なく探すお姿が日に日にやせ細って来ていて見ていられない有様。


こんな事ではコウ殿に申し訳ない。

私がウェスにそう告げたらウェスが。


「ではどうしたら良いとお考えですか?

このメンバーはコウ殿を中心に集まっています。

エマ様も母国にお戻りなる事も視野に入れて下さい。」


な、なんと!

「ウェス。正直、それを言われるとは思いませんでした。私は生半可な気持ちで弟子を名乗っているのではありません。

今こそ、皆様の目を覚まさせるべくあの『レシピブック』を活用します!

コウ殿のお味を再現すれば、きっと!!」


え?


ニコリと笑うウェスに誘導されたと悟る。

そうか。私も皆様と同じで絶望しかけていたのかも。

あまりに大きな存在であるのに自然なコウ殿がいない。

人とは何故失って知るのだろう。

空いた穴は大きいと。


心を新たに、今一度コウ殿の『レシピブック』を開く。

途中途中にコウ殿が加えた注意事項が書き足してあるのを改めて見た。


「煮込みすぎるな。」「味は薄めで」など。


コウ殿が楽しそうに料理をするから忘れていた。

コウ殿の料理への情熱を。

『レシピブック』を頼りに

ウェスやカリナ殿に手伝ってもらい料理を作り始めた。



本拠地とした宿屋のテーブルいっぱいに料理を並べた時、丁度ラオ殿が戻られた。


「いやぁ。申し訳ない。大人気なかったと反省しました。親父にも叱られたよ。」

頭をかきながら照れた様子で謝るラオ殿の前に、

ゼン殿一行も戻られた。


「私こそ大人気なかったかもしれません。海は我々の領分。つい、そんな気持ちが焦りに繋がって。」

今日も手掛かりを掴めないままらしい疲れた表情のゼン殿はそれでも反省の弁を述べられた。


久しぶりの和やかな雰囲気の中、食事が進む。


「あ、コウの味がする!ナット殿。凄い成長されましたね。」

ラオ殿の褒め言葉に頬が緩む。

皆も頷いたその時、難しい顔をしたオリド殿が戻られた。


「一大事です。あの『防虫煙玉』の在庫切れそうです!

しかも、他のものがあのレシピを基に作っても効き目はありません。

このままではムルゼアへ闇影獣が迫るのも間もなくでは…」


落ち着いた表情でラオ殿が頷く。


「その通りです。

親父達を始め皆が予想していたようです。

コウでなければ作れまいと。

僅かに残った在庫を今、ムルゼアに集めています。街の人々は避難を始めているそうです。

まあ、それも何処へ行けばと言う状態ですが。」


バタン!!


その時、傷だらけのレイバン殿が戻られた。


「闇影獣がテーレントだけでなくキヌル、ボルタにも現れ出した!

どうやら新種はコウの不在を知ったらしい。

総力戦を展開する以外ないだろう。」

蒼ざめる一同に次なる一言が!


「ヨーゼストも同じです。闇影獣が現れました。

そうですね。手を取り合わねば我々の未来はないかと。」

なんと言う事だろう。

コウ殿の不在はここまで一大事とは…



一大事は続く。


しかし手を取り合う皆様の姿に小さな希望が灯された。



やるしかない。

その想いだけを胸に秘めて。



『ふぉふぉ。そんな簡単な相手ではないぞ。

コウはの。海の神様の囚われ人となっておる。

お前達だけで『海の神様』をお祀りした時、道は開けるだろう。』



赤い沢山の足の生えた不可思議な生き物は、突如現れてそう言い放つと、またすーぅと消えた。





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