海の神様?現る!
ーコウ視点ー
あ!赤い橋!!
岩の門に架かった赤い橋を見つけた時、既に俺は駆け出していた。
消えるかもしれない。その気持ちで心がいっぱいになったんだけど、さてここはどこでしょう?
皆んなは?
いや、海は何処へ行ったのか?
俺のいる場所は赤い欄干の美しい橋の真ん中。
行き場はありません。
だって、橋の先が存在しない。
靄がかかって先が見えないが確かに地面が存在しない。
せめて海くらいは橋から見えて欲しいところだがそれも靄!!
はー。ため息をついている俺に甲高い笑い声が聞こえてきた。
いったい何処から…
笑い声の方を振り返ると、なかったはずの橋の先があるし!
そーっとだ。
躊躇いはあるが誰もいないここにいる方が不安で恐る恐る一歩を踏み出す。
あ、地面。
海ではなかった。
幻の地面で実は海でした!と言うオチなら間違いなく溺れてます。
泳げないからな。
ぼんやり灯る石灯籠の灯りが照らす道は、いつだったか見たものに似てる。
が!
石灯籠の間にチラリチラリと見える影は何!!
あーー、俺見てません。
絶対見てない!!
影が暗闇から俺を覗いているみたいとか、何か見た事ない生物っぽいとか。
見てないから!!
ジリジリと近づく影に恐怖を覚えながら、進むと見えてきたのは大きな社。
ここ、何処だよ。
サブイボだらけの俺は、目の前に現れた社に向かって取り敢えず礼をする。
前世の記憶と言う奴だ。
目の前に突如現れたのは、人間ではないのは確かだ。
大きさが人の数倍もあるが美しい女性の姿ではあるのは確かだ。
十二単に似た物を着ているその姿は、神様そのものに見える。
もしや『海の神様』なのだろうか?
俺はやっと着いたのか?
『ほほほ。主も哀れやのう。前世の記憶とはのう。コウとか申したか?ふふふ。騙されておっておかしいのう。本当の名は田中航一じゃ。』
声がした。
間違いなく目の前の人物が発している。
だが、俺はそれどころではなくなった。
『田中航一』
騙されたって…
その名を聞いた途端に俺はその場に膝をついたからだ。
胸が突然、鼓動を激しく打ち嫌な汗が背筋を伝い目眩がする。
聞いてはいけない何かを、聞いた様な……。
『ほほう。少しは記憶があるようだのう。良い。妾が教えて進ぜよう。
お主は『転生』したのではないわ。
『異世界召喚』されたのだ。
其方は異世界人。そう、日本人よ。』
グラグラしていた頭の何かが途切れた。
そう、その場に倒れたからだ。
目が覚めた俺は、まだその場にいた。
ま、ほったらかしだよ。
覗き込んでいた『あの影達』に覗き込まれていてビクッとなって飛び起きる。
何と言う目覚め。最悪だ。
『ようやく目覚めたか。
これからが良いところなのに寝るな。
まあ良い。
お主は女神セレーネから直接召喚されし者よ。何故かだと。まあ女神の目的などはこの際良い。
妾はアレとは違う者じゃ。
したが、アレのせいで近頃忘れられるのは堪忍ならん!
そこへお主がやって来おったのだ。
飛んで火に入る夏の虫とは其方だの。
このまま返さぬぞ。
アレの困る顔が見たいからのぅ。」
目が細まるとまるで蛇の様でゾゾゾっとなる。
海の神様の言葉は棘があり、恐ろしさは格別だがそれよりも自分はここの生まれではないとは女神が召喚とは?
うーん。
道理で8才より前の記憶がないはずだ。
では俺は8才で来たのか?
その割には記憶は大人っぽいような。
分からない事だらけだ。
ダラダラ流れる汗と無口な自分はいまの動揺の為せる技だが海の神様はそうは思わなかったようだ。
余裕があると思ったのだろう。
語気がキツくなったから。
『ほほう。その様に余裕とは。
(次は何を)食らわそうかのぅ。』
??
最後が良く聞こえないけど。
食べたいのかなぁ。
それで俺が呼ばれたのかも。
そうだよ。
捧げるって言われたじゃん。
「分かりました。今から頑張って作ります!」
ちょっとシャキッとなる。
皆んなの元に戻りたい。
それだけが俺の今の支えだから。
とにかく、捧げればと。
『ほほう。妾にのぅ。良い作ってみよ。』
(まあ、それで帰れると思ったら大間違いだがの。お主は永遠にここに閉じ込められたのだ。
アレの焦り顔が眼に浮かぶわ。
久しぶりに心地よいのう。)
張り切る俺の横には、あの変な影達が集まっていたがそんな事に気を回す事すら出来ないまま。
ひたすら食べ物を作っていた。
終わりは何処か知らないままに…