海辺での儀式?
ースタン視点ー
あと8日。
海も渡れないのに時は迫る。
御使様の期限を思えば、既にヨーゼストにいなくては。
焦る気持ちがあるが、沈黙の呪が縛り打開策の相談も出来ぬままだ。
『岩の門』とコウ殿が呼んでいる海岸へ来たが、やはり見つからない。
あの時、コウ殿の姿を見失ったと全員で懸命に捜索しても一切見つからない事から恐らく我々の関知しない何かの力が働いている。
しかし、月が出るのは年に3回のみ。
これを逃せば…。
おや?
コウ殿がダッシュで駆け出すが、あの姿は?
レイバン殿か?
ギルドの呼び出しを受けたと別れて以来だ。
しかし、いつもの愛馬とは様相が違うしレイバン殿のお姿も何やら違うが。
「えー?
凄いな。民族衣装だね。
背中に背負ってるのは何?へぇー。レイバンの部族に伝わる楽器かぁ。
ん?確か神様に捧げるものって。米とか日本酒とか。そうか!音楽もあったな!」
レイバン殿が述べられた『海の神』に関する話聞いてコウ殿が思いつかれたようだ。
それにしても、全く見た事のない楽器にゼン殿を始め皆の目を引いた。
「だから!宵の口に星なら夜だろう。
とにかく、俺が神様へのお料理作るからレイバンがその楽器を弾いてよ。
もしかして何か起こるかも。ね!」
興奮するコウ殿。
我々の期待も高まる。
とにかくやってみようと言うラオ殿の言葉に皆が頷くとコウ殿は張り切って料理を作りに宿屋へと戻った。
我々はコウ殿に言われた儀式の支度に追われる。
夕日が沈む前に、料理を抱えたコウ殿が到着した。
木の小さなテーブルの様な不可思議なものに、料理だけでなく生の野菜や米なども並んでる。
当然海の幸もある。
コウ殿に言われて全員がズラーッと並んで座る。
しかし、痛い!!
『セイザ』とか言うものは何と言う苦痛の所作。
「これが大切なんだよ。修行と思えばいいよ!」
驚いた事にコウ殿は楽々と『セイザ』をしている。
どこで修行をされたのだろうか。
やはり侮れないな。
レイバン殿がコウ殿の合図で演奏を始める。
美しい調べに全員が深く酩酊したようになっていたら、目の前に『岩の門』が!!
しかし『架かる橋』や星もない。
やはり不十分なのか。。
その時だった。
「あったー!」
突然叫び出したコウ殿がダッシュで海へと向かう。
慌てる我々も全く追いつかない速さで。
異常だ。
コウ殿の運動神経はかなり悪いのだ。
我々が追いつかぬはずは…
あ!!
悪い予感は当たるのか?
コウ殿はそのまま海へと突っ込んでいくではないか?
溺れてしまう!!
一番先に追いついたバリーが海へと飛び込む。
それが合図の様に次々と飛び込むが。
どれだけ探しても
そのままコウ殿は見つからない。
夜の海は暗く、その姿を見つける事は出来ない。
ラオ殿曰く「コウは泳げない。もしかしたら…」
その言葉に全員が絶望しかけた時、悲嘆に沈む我々の前に1匹の蟹が現れた。
『コウは選ばれたのだ。取り戻したくば…』
喋る蟹。
もしや主様か?
全員が食い入る様に蟹を見つめるが朝日と共に蟹の姿がボケて消えてゆく。
「続きを。」思わず叫ぶも虚しくその姿は完全に消えた!!
「出た!あの時の…」とルスタフだけが青白い顔で絶句していた。