ガイの宿に到着!
「お久しぶりです!」
首都ムルゼアの東側に位置する『ガイの宿』が俺の定宿だ。
「おっ!コウ坊じゃねぇか。
そうか、もう3ヶ月かぁ。はえーな。」
宿の親父ガイは、ラドフォードさんの仕事関係の人らしい。と、言う訳でここは小さい頃からの定宿だ。
でもいい加減『コウ坊』はやめて欲しい。
出会った頃は背も低かったから2m越えのガイさんから見たら坊やだっただろうけど、
今では180cmくらいまで背が伸びたのに…
「今日は、こちらのマーラさんとリーさんもお願いします。
部屋は一緒でいいみたいです。
あっ、もちろん俺は別で!」
「あら、私達は一緒でも良いわよ。」
マーラさんの揶揄う声が聞こえる。
うう、悪い顔で笑ってるよ。揶揄うの好きだからなー。
「ところでさ。会った早々で申し訳ないが、お代の話なんだけど…」
いつもの陽気なガイさんから途端に弱気な発言に変わる。これもいつもの事。
「はい。蜂蜜。
けど、ここいら辺でも売ってるはずなのに俺の蜂蜜に拘って貰ってかえって恐縮するよ。
いつも言うけど本当にこれがお代で良いのかなぁ。」
ガイさんの目がキラキラ輝いている。
「もちろんだよ。
本当ならこんな高価なものをお代に今だに貰っていて申し訳ないのだけどな。」
大事そうに抱えて持っていく。
これはラドフォードさんがいた頃からのお約束。
「おっ、そうだ。
いつもの部屋は、開けてあるから入ってくれ。
マーラさん方は隣の部屋へお願いします。
ラオ。お前ご案内しろ。」
ラオも久しぶり。
ガイさんの息子さんでギルド関係のお仕事らしく筋肉ダルマだ。
とにかく部屋へ入るとその日は疲れてすぐに横になった。
マーラさん達の方が元気でお出かけしたみたい。
翌日、いつもの様に店回りをする。
まずは酒蔵『イノプ』でお酒の買付。
次は、ヨーゼスト専門店『ミーファン』で調味料や米など前世で言う日本食材を仕入れる。
ヨーゼストは、島国だから魚文化が盛んで醤油や味噌まである。
物凄く大事なお店だ。
最後は雑貨屋『ララウド』で皿やコップ、また小麦粉なんかも買付る。
意外に忙しいんだ。
マーラさん達もついて行きたいって言うから一緒に向かう。
イノプでは、試飲を何回もしてたけど大丈夫かな?
「いらっしゃいませ。おや、田中食堂のコウちゃんじゃないか。よく来たね。」
ミーファンの名物女将だ。
「今日はお得意様と一緒なんだよ。
マーラさんとリーさん。お二人とも同郷なんだよ。
ねっ、マーラさん達も懐かしい食材がいっぱいあるでしょ。」
笑いながら振り向くと意外な状況が生じてた。
どうしたんだ?
女将さんが、いつもなら俺の側にきてやたらと肩を叩くのに今日は後ろで薄ら笑いだよ。
変なの…
「女将。我らの大事なコウ殿の事。よろしく頼みますね。」
マーラさんの言い方はえらく迫力あるよな。
女将も緊張してるみたい。
「女将さん、今日は珍しく大人しいから調子狂うよ。
よし、今日はこれだけ貰うね。」
うーん。結構な額になりそうだ。
ちょっとお金が厳しいかな…餅粉諦めようかな。
「全部で15000ガロだよ。」と女将。
「えーーー!!何?こんなに大量に買ってそれじゃ儲からないじゃん。今日は本当にどうしたんだよ。」
あまりの安さに俺の方が青ざめてると女将が意外な理由を言い出した。
「コウちゃん。今ムルゼアではお祭り期間なんだよ。あっ、そう言えばコウちゃんはこの時期初めてか。
あのね、このムルゼアでは建国記念として丁度今時期に1週間位の間、お祭りしてるんだ。
そうだ!出店も出るし行ってみたら良いよ。
あっ!良ければだけど…」
ちょっと歯切れの悪い女将に値引きとお祭り情報の礼をして店を出た。
そう言えば今回は、街に人が多いかもしれない。
「コウさんもお祭りに行く予定ですか?」
リーさんの問いかけに首を横に振る。
「俺、迷子になりやすいからガイさんからダメだよって止められていて。取り敢えずララウドへ向かいます。
「それじゃ私達も…」と言いかけたところでマーラさんに目掛けて男性が近寄ってきて興奮して話し始めた。
「これはまさかのマーラ様とリー様では。
あー、なんと光栄なことか。
我が胸は震えております。」
あれ?跪こうとしてる??
ん?もしかして…
マーラさん達って偉い人がなのかな?
「あら、いつものジョークにしては強烈ね。
あちらでお話ししましょう。」
見かけによらない強引さで男性を二人で抱えるようにしてもう一度ミーファンに戻っていった。
なんだ。
知り合いか。
うーん。中々戻って来ない二人を待つのはやめる事にする。
でも二人もララウドに行きたいって行ってたから予定変更しよう。
ララウドへは明日行くことにして、取り敢えず先にトート広場へ向かうかな。
俺はその足でトート広場へ向かう。
しかし、ここで俺は思いもかけない事件に巻き込まれる事になる。
それはラシェットとブルスタッドの2人との出会いによって…
ー視点ガイー
古傷が痛み出して引き出しを捜すが、流石にもう在庫はなかった。
でも、そろそろ3ヶ月。
コウ坊の来る頃だろうと期待を寄せる。
「父さん。コウ君来たみたい。
大門で門番の倒れる騒ぎがあったみたいだから。」
いつもの風景と息子ラオの情報だ。
コウめ。相変わらず行く所行く所騒ぎを起こしているな。
これではラドフォード様も御心配な訳だ。
俺は昔、ラドフォード様の部下だった。
若い時は共に冒険の旅をした事もある。
あの一件があって引退はしたがそれからもラドフォード様は我らを気遣ってくださった。
こうして宿屋の親父となれたのもラドフォード様のお陰だ。
そんなある日、ラドフォード様がひとりの子供を連れてやってきた。
「息子のコウだ。8才になる。よろしく頼むな。」
俺はひっくり返る程驚いた。
よく聞けばなんと養子とか、記憶喪失とか不穏な話。
大人しい子供と対称的にラドフォード様は浮かれていた。
「可愛いだろ。笑顔はもっと可愛いぞ。」
と、何やら惚気のような話に終始していたのを忘れることは出来ない。
それほどまで嬉しそうなラドフォード様を見たのは初めてだったからかもしれない。
暫くして、コウを連れて度々お忍びでいらっしゃるようになる。
ある時、珍しく曇った顔のラドフォード様とコウ坊がやってきた。
「お前、確か古傷が痛むと嘆いていたよな。
これ舐めてみろ。」
差し出された小瓶の中身は蜂蜜。
甘くて滋養はあるが、古傷に効くとは聞いた事がない。
それに俺の古傷は実はかなり悪化しておりこのままいけば命の保証はないと先刻医師から言われたばかりのものだった。
「どうだ?試しに動かしてみろ。」
また無茶を言う。
とうに動かなくなって久しいこの右足が最近では痛みも強く、引きずってようやく生活しているのに。
?
??
「ラドフォード様これはいったい……」
絶句する俺にラドフォード様の顔は一層曇る。
「やはりか。お前ほどの重傷でも効くか…
馬鹿やろう。
お前の傷が悪化している事など知らないとでも思ったか!
しかし、そうなるとコウの作ったこの『蜂蜜』の効用はなんと説明すれば良いか。」
蜂蜜は、俺の命を救った。
それだけではない。我ら古傷仲間の救い主ともなったのだ。
その後、少量でも効くことを知った俺はカーリの実を蜂蜜漬けにして皆に配っている。
これは我らの生命線となのだ。
今も…
「こんちにわ。」
おや。コウの後ろに新顔がいる。
また意外な人間を連れて来たな。
あれは確か『ピピランテ』のNo.2・3ではないか。いや、今は一応引退していたか。
また大物を釣り上げてこの鈍感ぶりは。。。
ため息を飲み込んで、有り難く蜂蜜を受け取ると
滞在期間の護衛隊の編成のために、ラオにギルド本部へと行かせる。
どうせレイバン辺りが影部隊でも動かしているだろうから連携しなくてはな。
大切に蜂蜜を戸棚へしまいつつ、外へ出て口笛を鳴らす。
ひとりの男が現れた。
「子猫が現れた。至急集まれ。」
さて、今回こそは無事に終わって欲しいものだ。