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オリドの独り言

ーオリド視点ー


おかしい。

あの主人が何故?


私の主人は大層仕事の出来る人間で有名だ。

そんな主人の欠点は仕事にしか、いや違う。

お金にしか興味がない事だ。


そう世間では言われている。

だが、主人と苦楽を共にしてきた私にはそうなる主人の心境はよく分かる。


その主人がなんと人助けをすると言うのだ。

しかも、相手はあの王弟殿下だから驚きだ。

何故?


そう、キヌルから帰ってきてから考え込む姿を度々見ていたのだ。

商売上の悩みとばかり思っていたらある時ポツリと呟いた一言に私の方が悩む結果となる。


「誰かの笑顔を見たいとは、そんなに魅力的な事なのか?」と。


な、何を!!

天下のラクゥド商会の主人であるラクゥドの口から出たとは思えない。

商売敵が聞いたら泡を吹いて倒れるレベルだ。


王都が俄かにきな臭くなる。

謀反の計画があるらしいと。

確かに今のままではこの国に未来はない。

商売を他の街へ移す者も増えるのに留まる理由が王弟殿下なのか?

その話題の中心にいる人間を?

何故??


結局、逃げ道を作り蔵へと匿う暴挙に出る。

私の中にも不安が生まれる。

いったいこの危険を犯す利点は何か?

しかも翌朝ポイっと逃す。助けた相手は大物だ。

恩を売るのが商売人のはず。

鉄則を破ってまで助ける義理はない。


ところがだ。

数日後、王弟殿下の部下と名乗る者がやってきた。

あのスレッド宰相だ。いや、元だったな。


「先日、我が主人の部下が戻りました。

トックス殿にはコウが世話になった。そう伝え聞いております。

そこでお互いに為になる話をしましょう。

お人払いを。」


さすが宰相。

先日の件を伏せて違う話に切り替えて礼を述べるとは上級手段だ。

確かにあの事は秘匿する方がいい。


頷く主人に従業員が一斉にドアへと向かう。

私が出ようとした瞬間に後ろから声が掛かる。


「オリド。お前は俺の分身だ。一緒に聞け。」


。。。


??

しばらく頷いて側にいたが思考は停止していた。


ぶ・ん・し・ん??


あの主人の言葉か?

私を?

分身??



は!

不味いこちらの話が重要な箇所にきていた。


「ですから、闇影獣の新種が出ました。しかもこの新種は他の闇影獣を操る。

この危険理解頂けますか?

このままではこの世界そのものが危うい。

しかも出現したのは今のところ、マルスとテーレントの二カ国のみです。

さて、ここでひとつ提案があります。」


あまりの深刻な情報に度肝をぬかれていると、また爆弾発言が!


「ええ。新種への対抗策。

『防虫煙玉』の専売特許権ですよ。

それをラクゥド商会に取り扱って貰いたいと。」


ニヤつくスレッド殿の姿はなるほど切れ者を予感させる。

これではペースを乱される。


『防虫煙玉』は何かと尋ねれば驚くべき答えが!!



「ですから、闇影獣を一瞬で倒します。」


は?

鼻で笑うのは私のみ?

主人は信じたようだ。まさか本当なのか?

それなら世紀の大発明だ。


それを何故我々に?


「それを何故我々に?」やはり主人も同じ疑問へたどり着いたか。


しかし、スレッド殿は主人の問いかけに答えずニヤリとまた笑うのみ。


「コウは港町に向かっています。貴方の手の者を差し向けて下さい。コウには殿下から手紙を預かっております。他の手紙と共にお出し下さい。」


事は決定事項か。


手練れでなければ、そんな危険な道はいけない。しかも信用の出来る部下か。うーん。

考え中の私に主人の答えが。


「では、このオリドを行かせます。但しひとつ条件があります。その後の旅に同行させて貰いたい。この男ならばコウ殿の付き合えるはず。」


は?

この一大事に私を行かせる利点は?


「了解しました。では頼みました。」


スレッド殿の出た部屋にはしばらく沈黙が訪れた。

ショックは続く。

分身は単なる仕事の上の話なのか?


「オリド。一回しか言わない。よく聞いてくれ。

たぶん、これから向かうコウ殿は世界を変える何かだ。

実際、俺自身も彼を理解出来ないまま、ただ完敗したのだ。

お前ならば或いは…


これからのマルスでの商売はコウ殿と王弟殿下の動きを把握した者が勝つ。


俺の疑問をお前は解けるのを望むよ。」

最後の呟きは良く聞こえなかった。


不可思議な話はそれっきりだ。

無論、話しの半分しか理解出来ないままだ。

だからこそ、その『コウ』とやらに興味が沸いた。



スレッド殿から渡された3通の手紙と『防虫煙玉』。道中でお試しをと。



ムルゼアを発つ私には、その威力に度肝をぬかれる自分を予測する事は出来なかった。



そしてこの出会いがラクゥド商会にとって大きな分岐点となる未来もまだ知らないままだ。






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