蓬だけじゃないぞ!!
ー蓬祭り開催! コウ視点ー
串!
今日の裏テーマは実は串なんだ。
ま、深い意味はないけど、持ち歩きに便利と言うのがいいだろう。な!
実はレイバンとガイおじさんが用があってムルゼアへ戻ったんだ。
だから、串作りで困った。
そしたらウェスさんがパパッと作ってくれたから超ー助かったよ。
お試し価格として『串団子〜草餅餡乗せ〜』を出したらものすごい勢いで売れてさ!
子供達にも買える値段!
ここが譲れない『祭り』の基本っしょ!
まあ、最初は無双騎士団の皆んなが手伝ってくれたのも人集めには良かったかも。
子供達も口の周りベタベタにしながら、頬張る姿は癒される〜!
実は大量に作る為にもメニューはこの一品!
だからちょっと不安だったけど、良かったよ。
俺には密かな狙いがあるからな!
ウィンゲルドの西側で開かれてるこの祭りは、東側ではちょっと趣が違う。
何故なら東側は『鍛冶屋村』と呼ばれる場所なんだ。
だから『草餅』も出すけど狙いは『酒』な訳!
酒のつまみと、ミーファンの『秘蔵っ子酒』。
他にもビールも出すよ!
とにかく大人の男性向け『祭り』な訳だよ。
メニューは…
たくわん(爪楊枝刺しで)
銀杏の塩焼き(3つづつが適量かな?)
クレドの煮込み(まあ、牛すじの煮込みかな?)
(これも串刺しに皿を添えた。あ!もちろん皿は返却式だよ。)
そしてメインは『おでん』
(串と言えばこれでしょ!!)
いやーこれはめっちゃ苦労したよ。
ミーファンには魚の出汁『トパス』と魚の身を粉末にした『ルテン』がある。
この『ルテン』をさつま揚げ風にするのがな!
でも、この二つこそ『おでん』作りの秘策だった訳。
大根に卵。
具は少ないけど中々良い味だと思う。
何故なら、めっちゃ売れてるから。
さっきから絶え間なく人が出てるけど俺の待ち人は来ない。
済まなそうなクーパーさんが来ただけ。
だから、クーパーさんに無理矢理沢山渡して配ってくれる様に頼んだ。
親方は無理なら周りの人に配ってと。
そうそう『キヌルコーナー』も作って宣伝しといたんだ。
ナディムさん達の『干し柿』も人気だし、ピザやソーセージもビールのつまみとして馬鹿売れしてる。(こっちはソーセージのみ串!もちケチャップかけましたよ!)
これで取引が盛んになったら『田中食堂』も買い出しし易いしね!
楽しみだなぁ。
あ、クーパーさんだ。
やっぱりゾーケルさんは無理か。。
ん?
何故か勢い良く走ってくるなぁ?
「た、大変です!!
あ、おでんを食べたら親方が苦しみ始めて。
は、早く来てください!!」
え?
ど、どうしよう!!!
も、もしかしてアレルギーとかだったら一大事だよ。
俺とカリナはクーパーさんの後を追う。
一刻を争うと不安を抱えながら……。
バタン!!
ドアを壊す勢いで中に入ってびっくり。
え?
ゾーケルさん。苦しんでないばかりか凄い勢いで爆笑??
まさかの騙しだったら許せさないぞ!
「馬鹿やろ。そんな事するかよ。
さっきは、マジで身体に電流が走ったように感じてな。
だけど、ほんの一瞬だよ。
クーパーの馬鹿やろう!!
早とちりしやがって!
はーー。
だからコイツはいつまでも弟子のままで独り立ち出来なぇんだよ。
あのな、俺は今あの食べ物で聞きたい事がある。
長年の腰痛が完璧に完治したのはこの『おでん』のせいか??
あんまり快調で思わず笑いもでるさ。」
なんだ。クーパーさんの早とちりか。
しかし、ゾーケルさんの腰痛はよく分からないな。
たまたま治るタイミングだったとか??
俺が首を捻ってるとゾーケルさんがまた爆笑してるし?
「ふぁふぁふぁ。
コイツは驚いた。お前、皆んなから天然だと言われるだろう。
まあいい。信用出来るのは分かった。
この『マツリ』とかいうものもウィンゲルドには有り難いものだと他の工房の奴らがやたら言いに来たさ。
おい、コウ。
話は聞いてやる。明日の朝一に来い。」
おー。
自分でも上手くいくか不安だったけど、すっげ嬉しい!!
でも天然??
ん?
「だ・か・ら!!
話は聞く。だが受けるとは限らねぇよ。
お前の思いを聞きてぇ。まあそう言うこっちゃ。」
こうしてウィンゲルド『蓬祭り』は無事大成功に終わった。
よーし!!
また、絵を描かなくっちゃ!!
そう叫んだコウには、周りのため息は聞こえなかったようだが。
ーレイバン視点ー
馬を早駆けさせてボルタを出て数日、その後キヌルとの国境でガイ殿と別れる事になる。
キヌル国王に今回の『新種闇影獣』についての最新情報を直接伝えて協力を仰ぐ為だ。
俺は俺で先を急ぐ。
今回の闇影獣の噂は聞いていた。
信じられないが闇影獣が高い知能を持ち他の闇影獣を操るというものだ。
何という事態。
まだ、小型で数も多くないので総力を挙げれば倒せるだろう。
だが、敵は逃亡する知能もある。
その為、協力体制が不可欠なのだ。
包囲網には人手がいる。それもかなりの戦闘能力のある人間に限るというのが、今回の事態を招いた。
実は今回の事態の予測はガイ殿も俺もしていたのだ。だからこそのバリー達への処置だ。
能力と人柄。背後関係などかなりの点で合格したのだ。
キヌルを進む事、数日。
ここいら辺にいるはずなのだが……。
かなり距離はあるが、跪く二人の影を見つけた。
目を凝らせば目的の人物と確信する。
俺の目ならば、100mなど距離のうちにも入らない。
「長。お待ちしておりました。」
ミゲルとヘレか。
事は深刻なのだと理解する。
何せ『トラッデ』で俺の片腕の二人が来たとなるとテーレントに被害が出たか?
「了。ゼフト部族長から至急連絡があり部族の住処を奪われたと。」
落ち着いたミゲルの声。
「人的被害の出る前に動いて頂きたいと依頼でございます。無論、既に人員は整えてあります。」
ヘレ。お前の予感こそこの部族一の異能だろう。
この能力は我々の命綱だ。
「では行こうか。」
俺の声に全員が馬に騎乗して早駆けとなる。
但し、ガイ殿とした早駆けとは異なる。
俺の馬も当然異能の持ち主。
それこそ空を駆ける速さで、我々は獣道を進む。
これもミゲルが先頭となり異能を利用する。
彼の察知能力は、何キロも先までハッキリと把握するのだから。
しかし異能集団である『トラッデ』はテーレントの秘密部族。
その名を知る者は、各部族長のみ。
依頼も危急の際のみと固く決められている。
となれば、厳しい戦いが想像出来る。
厳しい表情になる俺の懐がガサガサと鳴った。
コウが持たせてくれた『蜂蜜飴』だ。
緊急でこれしかないと、俯くコウに深く感謝をした。
少し笑みの浮かぶ長を訝しげに二人が見ていたとは、本人だけ知らぬまま。
早駆けの馬の前に、道は続く。