ウィンゲルドで蓬祭り準備中!
ーラドフォード視点ー
「さ、お早く。」
俺たちは、その夜遅くに匿って貰った蔵のような場所から外へと連れ出された。
てっきりラクゥド殿に会えると思いきやぽいっと放り出された。
理由を尋ねると…。
「主人曰く『気の迷い』だそうです。サッサと忘れてくれと。」
取りつく島もないとは、この事。
狐につままれた様に帰途へと向かう。
取り敢えずラクゥド殿の事はさて置いて、まだ、やらねばならない事が山積している。
このままでは、コウをいつまでも『田中食堂』へ戻せないからな。
あの作戦が上手くいけば或いは……。
「陛下!大変な事態が発生しました!!」
帰途についた俺を待っていたのは、最悪の事態発生の報告だった。
しかし事態は思わぬ方向へと向かう。
取り敢えず動かねば。
早馬を飛ばし、
「事は予断を許さない!至急部隊を招集せよ!」
と命を下す。
プレストンが急いで動くのを見てスレッドを呼ぶ。
「事態は危急の事。ゼストへ連絡をせよ。」と。
いつもならすぐさま頷くスレッドは苦い表情のまま動かない。
どうしたのかと問えば。
「コウ殿の護衛が手薄になります。それが…」
なんと!
あのスレッドですら、この事態にコウの事を。
「スレッド。どうやら我々の力添えはそろそろ卒業のようだ。
あちらでは新たな人員が集まってるぞ。
まー、コウだからな!」
少し考えた表情のスレッドがそのまま任務に取り掛かる。『コウだからな』のセリフに納得したのだろう。
頼んだぞ。『コウ親衛隊』よ!
ーコウ親衛隊発足式 ノーマ視点ー
「今、コウ殿は『蓬祭り』の準備で忙しい。
この隙に我々の今後について話し合おう。」
スタンさんの言葉に一同頷く。
しかし今更だが凄いメンバーだと驚くが、よく考えれば当たり前かと思い直す。
あのコウ殿だからな。
それに自分だってその一人なのだから。
「しかし、レイバン殿とガイ殿がムルゼアへお戻りになるとは本当ですか?
まだ貴族連合の影がウロチョロしてますが大丈夫でしょうか?」
バリーの不安は一同の思いと同じだったようで騒めきが一層強くなる。
中核とも言えるレイバン殿の存在は大きかったからだ。
「まだ未確認の情報だが、闇影獣の新種が現れたと言うのだ。
マルスとテーレントの国境近くで確認された。」とスタンさんの一言。
一気に動揺が走る。
なんと!!
前から未確認ながらも報告があったが。
事態の深刻さについ、考え込む。
「貴族連合と言えどこの事態は危急の事。
こちらまで構う余裕はないだろう。」と改めて今回の事態への理解を求めた。
今まで黙っていたミックが突然勢いこむ。
怪我を治してからコウ殿への感謝が物凄い事になってるんだよ。
「しかし、危険は去ってません。
勿論、俺たちは。俺は必ずやコウ殿を守ります!!
ですが油断は禁物です!!」
ミックの決意に満ちた宣言に次々と同様の声が上がる!
おー、皆んなも同じとは。
「ふふふ。しかしコウ殿の人気は凄いですね。
我が国王陛下からも、参加の申し込みがありました。」ウェス殿からの申し出だ。
えーー。
心の中の叫びが止まらないよ。
ボルタの国王陛下だけじゃなく、キヌルも??
多方面での協力の申し込みがあったと、発足当時レイバン殿が呟いておられたのは、この事か。
その後も話し合いは続いて、とにかく現状は俺たち半端もの(この言い方するとハーフだよ。ってコウ殿に突っ込まれるが。)に任命された。
やる気に満ちる俺たちに、スタン殿が一言。
「私はボルタの無双騎士団を正式に離れます。
そして、コウ殿親衛隊の隊長に就任します。
ま、仮ですが引き受けました。
今後ともよろしくお願いします。」と。
拍手喝采に俺も加わる。
頭脳となる人が必ず必要となるからな。
しかし、メンバーの豪華さにしみじみと凄さを思い知るよ。
ボルタからは…国王陛下・マデリン王女・無双騎士団・レレベ村などの各村長など。
キヌルからは…国王陛下・ナット君(本当は王女様)他隠れ里の人とか村人とか。
俺の知らない人達が大勢いる。
ヨーゼストからゼンさん。
まさかのピピランテの長ですよ。
ここの参加は秘密が多いよ。
マルスからは…プレストン隊?
なんか分からないけど凄いらしい。まだ他にも多数いるけどこちらも俺には難しい。
貴族連合の下っ端にこき使われてたけど、ムルゼアに行く事は滅多になかったからな。
「あー、皆んなでサボってるな!
手伝ってくれよ。ゼンさん!火加減を頼むよ。
蒸し器へ行って!ナット君が待ってるから!」
突然、飛び込んできたコウ殿は相変わらずで顔に白い粉をつけながら嬉しそうに料理をしている。
一同も、それぞれ手伝いに散って行く。
コウ殿はここ、ウィンゲルドでの祭りを開催しようと駆け回っていた。
『落としたい人がいるんだよ。蓬じゃ甘いかなぁ。』と。
コウ殿は、この鍛冶屋の街で鍛冶屋に頼みたいものがあるみたいだ。
ただ、作って欲しいリストが『コウ殿の絵』だからな…。
未だ、実現していないが。